第十三話 悪役令嬢、聖夜祭を迎える
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十三話 悪役令嬢、聖夜祭を迎える
「聖夜祭まで、あと一週間ですね」
ミリアがカレンダーを指差しながら言った。
王立アルカディア学園の聖夜祭は、冬の女神を祝う伝統行事で、学園中がイルミネーションと屋台で彩られる、一年で最も華やかな夜の一つだった。
「聖夜祭ねえ。ただの浮かれたお祭りでしょう、あんなの」
「お嬢様は、去年もそう仰りながら、誰よりも早く出店の場所取りをしていましたが」
「あ、あれは、公爵家の面目のためよ! 目立つ場所を確保しないと、格好がつかないでしょう!」
「はあ、左様で」
(今年も、絶対に一等地を確保するわよ……セレスティアと、一緒に回れる場所を)
「お嬢様、今何か仰いましたか」
「な、なにも言ってないわよ!」
* * *
昼休み、教室でセレスティアが友人たちに囲まれていた。
「セレスティア様、聖夜祭、誰と回るんですか?」
「まだ、決めていないんです」
「私たちと回りませんか?」
「あ、その……」
セレスティアが言葉を濁したところに、リリアーナが割って入った。
「セレスティア。聖夜祭、私と回るわよ」
「え……」
教室が、しん、と静まり返った。
「な、なによ、その反応。文句あるの」
「い、いえ! ありがとうございます、リリアーナ様!」
セレスティアは、慌てて頷いた。
「良かった。実は、リリアーナ様からお誘いがあるかもしれないと思って、他の方のお誘いをずっとお断りしていたので」
「な……そんな、私が誘うって決まったわけじゃ――」
「でも、誘ってくださいました」
「そ、それは……」
(また、この子は、いつも私の建前を見透かして……!)
「勘違いしないでね。今年も、雑務係として夜の見回りを兼ねているだけなんだから」
「はい、そういうことにしておきます」
* * *
聖夜祭当日、学園の中庭は、雪のように白い花びらの魔法演出と、暖かなランタンの光で満たされていた。
「わあ……」
セレスティアが、感嘆の声を上げる。
「毎年恒例の飾り付けよ。別に、たいしたことないわ」
「でも、とても綺麗です」
屋台の並ぶ通りを、二人並んで歩いた。
「あ、あの屋台、温かい飲み物を売っているみたいです」
「行ってみましょうか」
リリアーナは、当然のようにセレスティアの分まで代金を払った。
「な、なんで払ってくれるんですか」
「べ、別に。私が飲みたかったから、ついでよ」
「二つも飲むんですか?」
「一つは……その、あなたにあげるのよ」
「ありがとうございます」
セレスティアは、両手で温かいカップを包み込むように受け取った。
「甘くて、美味しいです」
「そう。良かったわね」
二人は、ランタンの並ぶ道を、ゆっくりと歩いていった。
* * *
夜が更け、聖夜祭のクライマックスとして、大噴水の前で花火が打ち上がる時間になった。
「見て、リリアーナ様! 花火です!」
「ええ、見えているわ」
夜空に咲く光の花を見上げながら、セレスティアがぽつりと呟いた。
「今年の聖夜祭、リリアーナ様と過ごせて、とても幸せです」
「な……そんなこと、面と向かって言わなくても」
「言いたいから、言うんです」
セレスティアは、リリアーナの顔を覗き込むように見つめた。
「来年も、再来年も、リリアーナ様と一緒に、この花火を見たいです」
「な、なによ、それ……気が早いわよ」
そう言いながらも、リリアーナの胸の内側で、何かが温かく満たされていくのを感じた。
(別に、悪い気分じゃないけれど……この感じ、なんなのかしら)
「リリアーナ様?」
「な、なんでもないわ。花火、綺麗ね」
「はい」
二人は、しばらくの間、並んで夜空を見上げていた。
* * *
少し離れた場所で、その光景を見守るアルベルトの目には、涙が浮かんでいた。
「殿下、また泣いているんですね」
「レオン……今年の聖夜祭は、格別だ」
「毎年、同じことを仰っていますが」
「毎年、更新されるのだ、感動の記録が」
アルベルトは、静かに手帳を閉じた。
「今年は、記録するのが野暮な気がする。ただ、見守るとしよう」
「珍しいこともあるものですね」
その隣で、ミリアも温かい飲み物を片手に、そっと微笑んでいた。
(お嬢様……今年も、幸せそうで良かった)
* * *
その夜遅く、寮の自室に戻ったリリアーナは、ベッドに横になりながら、天井をぼんやりと見つめていた。
(花火を見ながら言った、あの言葉……)
(来年も、再来年も、一緒にって……)
胸の奥が、じんわりと温かい。
(別に、深い意味なんてないわよね。友達として、そう言っただけよね……)
リリアーナは、その温かさの正体に、まだ気づいていなかった。
ただ、いつもより少しだけ、幸せな気持ちのまま、眠りについた。
<続きます>
次回予告:冬が終わり、新学期。生徒会選挙が近づき、セレスティアが会長候補として推薦される。リリアーナは、思わぬ形でその選挙戦に巻き込まれることに――。




