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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第7話 世界の末路と、彼女の正体



 ことの発端は、今から数えること百と数十年ほど前。マザーが把握しているタイムスタンプで言えば、まさしく俺が生きていた時代に遡る。

 


 当時の人類を襲ったのは、未曾有の災害だったという。

 

 その年、あまねく命の母である太陽が、突如としてその活動に異常をきたしたという。

 太陽の異常活性は、強烈な太陽嵐として地球へ襲来。地上を守るオゾン層を引き裂くにとどまらず、その余波が地球内部の環境へと波及すると、地球全土で次々に天災が巻き起こった。

 火山の噴火に始まり、大地震やそれに付随する大津波。荒れ狂う空からは、無数の雷光と共に毒素の混じった雪雨が叩きつけられ、それらのことごとくが地上から命を奪っていったという。


 さらに、事態はそこで終わらなかった。

 地上各地の天災に加えて、太陽嵐によってオゾン層が損壊したこと、そしてそれに伴って有害な放射線が地上へ降り注いだことにより、大気の組成が少しずつ変化。

 生きるために必要な空気そのものが毒へと変貌したことにより、大災害を生き延びた命もまた、恐ろしい勢いで死に絶えていったという。


 生きとし生けるすべての地上生命を食らいつくした、未曽有の大災害。

 その現象に名を授ける者のことごとくが死に絶えたこともあり、今やそれは、ただ「大災厄」とだけ呼ばれていた。

 

 


 ――しかし幸いなことに、地球の全てが死の大地となるまでには、いくばくかの猶予が残されていた。


 ほんのわずかに生き延びた人類は、同じくわずかに残された生存可能な土地を探し当て、そこに総力を上げてシェルターを建造。

 外界と切り離された箱庭へ閉じこもることで、迫り来る大地の死を跳ね除け、辛くも人類文明の糸を繋ぐことに成功したのだ。


 その後、地上最後の人類たちは〈コロニー〉と名付けられたシェルターの管理と保全、そして最後の人類を護り生かすことを目的とした管理システム、こと〈ゼムリア(マザー)〉を建造。

 以来、人々はマザーの庇護のもと、か細くも文明を繋ぎ続けている――それが、この世界と人類の現状だった。


 

 *



「……と、これが現状で私が把握している限りの、かつての世界がたどった末路の全てです。残念ながら、当時の壊滅的な混乱もあって、サルベージできた情報はあまり多くありませんでした。あまり参考にならなくて、申し訳ありません」


 立体映像の顔を悲しそうに伏せながら、マザーが頭を下げてくる。


「とんでもない。これだけ知れたなら充分です。……正直、戦争とかそういうので滅んだとかじゃなくて、ほっとしました」

「ええ、そうですね。生き残った人々を護る使命を負う身として、私もそう思います」


 胸をなでおろす俺の言葉に、人類の守護者たるマザーも感じるものがあったらしい。神妙な面持ちのまま、かみしめるような口ぶりと共に頷いてくれた。


 ――そして、こうしてこの世界のたどった歴史を聞くことで、新たな疑問が噴出したのを感じた俺は、再び口を開く。


「……じゃあ、次です。さっきの話を聞く限り、今のこの地球は『人間の生きられない世界』になってるってことでいいんですよね」

「その通りです。このコロニーの外には、〈大災厄〉によって生まれた猛毒の大気が今も満ちています。常人であれば、10分と持たずに命を落とすでしょう」

「常人なら、ですか。……つまり、あの子――スイも俺も、『常人じゃない』ってことでいいんですよね」


 半ば確信したようにそう問うと、マザーは俺の言葉に小さく頷いて見せる。


「はい。特に、スイに関しては――そもそも『ヒトではない』と断言した方が手っ取り早いかもしれません」

「……は?」


 ――その直後。マザーの口から飛び出した予想だにしない発言が、俺に少なくない驚愕をもたらした。


「順を追って説明しましょう。先の説明の通り、このコロニーの外はすべてを死に至らしめる世界。残された人間たちは、コロニーの中に閉じこもって生きることを余儀なくされました。……ですが、この限られた世界の中で生み出せる物資や資源の量はごく僅少。人類存続のためには、自給以外の方法で物資を集めることが不可欠だったのです」

「……それはつまり、このコロニーの外にある崩壊した世界から、物資や資源を拾い集めてくるってことですか?」

「ご明察です。しかし、外の世界が死の大地であることは不変の事実。加えて、大気の組成変化が作用したらしく、外にはあなたが遭遇したような異形の生物が闊歩するようになっていました。とてもではないですが、物資回収など望める状況ではなかったのです」


 マザーの言葉で、俺を襲ってきた異形の化け物の姿を思い出す。

 確かに、俺自身は多少の抵抗こそできたものの、スイの助力がなければそのまま殺されていただろう。あんなものがそこら中にいるのなら、マザーの言う通り物資回収どころの騒ぎではないのは明らかだ。


「事態に光明を見出すべく、私はコロニーの人々と知恵を出し合いました。そうして私たちは、ひとつの解決策にたどり着いたのです」


 そう述べたマザーは、端末である大型機械から、大きな半透明の映像――立体映像で構成されたディスプレイを投影する。

 ディスプレイの中に映っていたのは、なんらかの「設計図」と思しき画像。細かい文字の内容までは読み取れなかったが、そこに描かれていた図形が「ヒトを模した機械」であることは、俺にも理解できた。

 

「ヒトが生きられない大地での活動を可能とし、なおかつ外付けの兵装によって敵性存在とも渡り合える武力を持てる、『ヒトならざる人々の守護者たち』。それが、〈鎧装機兵(メタルイェーガー)〉と呼ばれる、自立型汎用ドロイド――あなたを助けたスイの正体です」


 思わぬ形で、恩人の正体が明かされる。

 ……仰々しい機械を纏っていたその様子から常人でないことは薄らと察していたが、よもや人造人間――それもアンドロイドとは。

 輸送機での移動時間も含めてけっこうな間交流していたが、その所作や言動はどこから見ても人間そのものだった。外見も(装備以外は)人間の少女そのものなので、気づけという方が――というところまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。


「……あの子が生まれた理由はわかりましたけど、それがどうしてあんなかわいらしい女の子の姿に? もっとメカメカしいままの方が、コスト的にも安上がりなんじゃ……」


 その手の技術にはとんと疎いが、見た目を人間らしく整えることに少なくないコストがかかるであろうことは俺にもわかる。

 外の世界を活動の場とする彼女たちに、わざわざそれを施す意味は……と考えた俺の言葉に、マザーは神妙な面持ちを見せた。


「あなたの言う通り、機兵(イェーガー)が生まれた当初は、コストの問題もあって今のように人間らしい容姿は持っていませんでした。……ですが、機兵が生まれて間もないころに、このコロニーを『暴走した機械』が襲撃してきた事件があったのです」

「暴走した機械、っていうと……ドローンのプログラムが壊れて暴れはじめた、みたいな感じですか?」

「その認識でおおむね間違いありません。――その時の一件がきっかけとなり、コロニーの人々の中に『機械に対する不信感と恐怖感』が強く根付くことになりました。そのため、『人々が抱く機械への抵抗感の軽減』と、それに伴う『親しみやすさの獲得』を目的に、今の彼女たちと私はこの姿を獲得するに至ったのです。故事に習うなら『かわいいは正義』と言ったところでしょうか」


 なるほど、そういう理由があったのか。

 確かに言われてみれば、俺自身もスイが人間と見まがうような容姿を持っていたからこそ精神的な安心感を得られたし、彼女のことを信じてみようとも思えた。

 もしもあの時助けに来たのがTHE・アンドロイドな外見の兵士だったら、間違いなく今よりも心理的な抵抗が大きかっただろう。そう考えると、少女の姿を与えるという施策はかなり理にかなっていると思えた。

 

「確かに、あの姿の方が安心感がありますね」

「ご理解いただけてなによりです。他ならぬ外からの来訪者であるあなたにそう言っていただけたなら、この施策は成功と言って良いのでしょう」


 マザーが安堵の表情を作るのを見ながら、俺はもう一度口を開く。

 ――ここまでで聞いたあれこれは、言ってしまえばほとんどが前座のようなもの。「俺が一番知りたい真実」は、まだ残されているのだ。


「……それで、マザー。さっきの話ぶりからすると、俺自身も『常人じゃない』ってことでいいんですよね」

「はい、そうなります。……とはいえ、あなたに関する事は私も完全に把握できておりません。ですので、先の汚染除去と併せて実行した簡易スキャンの結果だけをお伝えする形になりますが、よろしいですか?」

「お願いします。少なくとも、この身体について何もわからず過ごすよりは、少しでも知っておいた方が居心地も良いですから」


 そう嘆願すると、マザーは「わかりました」と小さく頷き、再び立体映像のディスプレイを出現させる。

 

 そこに映るのは、おそらく俺のこの身体をスキャンした結果を示したもの。

 書き連ねられている内容はやはり複雑で、俺自身は半分も理解できなかった。だがそれでも、そこに映る画像の意味は――()()()()()()()()()()()()()()の意味するところは、理解することができる。

 

「小難しい話は抜きで、端的に申し上げましょう。――今のあなたの身体は、スイたち〈鎧装機兵〉と同じ、『機械でできた人造の身体』です」


 続くマザーの静かな告白は、静かな空間の中で、一際強く反響したように聞こえた。

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