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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第36話 C型ファイント討伐作戦-2


「マザー、少しお時間よろしいでしょうか?」


 鎧装機兵用のハンガーユニットが立ち並ぶ格納庫。

 彼女らの装備を調整していた整備班たちも引き上げ、すっかり無人となったその場所で、1人の男が手元の端末へ呼びかけた。

 

《ヴィクターですか。何か問題でもありましたか?》

「いえ、特には。ただ、軽い事後報告だけはしておこうと思いまして」


 その返答を聞いて、端末越しに聞こえてくるマザーの声が、疑問の色を帯びる。


《事後報告……とは、先ほど出した予備戦力のことでしょうか? それでしたら、すでにこちらでも滞りなく出撃したのを確認していますよ》

「あぁいえ、それとは別件です。……いや、輸送機は同じだから別件でもないのかな」


 なんとも要領を得ない回答に、マザーの声色はますます怪訝なものに変わる。

 この答え方ではそうもなるか、と苦笑しつつ、ヴィクターは解答の続きを口にした。


「『どうしても乗らせて欲しい』と懇願してきた鎧装機兵がいましてね。もろもろを鑑みて僕らは渋ったんですが、テコでも動かなそうなくらいの気迫でして」

《それで、その機兵を同乗させたと?》

「そうなります。発進までに猶予もなかったせいで、マザーへの報告も怠ってしまいまして。処分はいかようにでも受けますよ」

《なるほど……わかりました。その件はおいおい正式に処理するとしましょう。割り込んだ鎧装機兵は誰ですか?》

「そこは黙秘させてください。完調でない身を押して無理やり出撃していった、当人の名誉のためにもね」


 ヴィクターがそう返すと、言い回しに引っ掛かりを覚えたそぶりを見せつつ、呆れた調子で「わかりました」という言葉が返ってくる。


 ぷつりと通信が切れ、再び無音となる格納庫。

 緊張をほぐすように細く息を吐いた後、ヴィクターはふと、背後にあった一基のハンガーユニットへ視線を向けた。


 中にあるはずの鎧装と武器が全て持ち出され、空となったハンガーユニット。

 傍らに取り付けられた〈G2-007〉という文字を刻んだプレートを見て、ヴィクターは口元に笑みを浮かべる。


「……情に絆されて、あの状態の機兵に出撃を許可するなんてね。技術主任失格だよ、まったく」


 誰に聞かせるでもなくそうこぼしてから、ヴィクターは今度こそ格納庫を後にした。

 



 


「はあぁぁぁッ!!」


 雄叫びと共に、また一撃を叩き込む。


 狙いを定めたC型ファイント体表の機銃を、大剣の切っ先が撫で、真っ二つに破断。スパークののち、壊れた機銃はその場で小規模な爆発を起こした。


「これで……残りは?」


 切り抜ける形で急速離脱しながら、C型ファイントの様子をつぶさに観察する。


 何機もの強襲部隊が絶え間なく攻撃を繰り返しできたおかげで、やつの身体の至るところに生えていた対空機銃は、その数を大きく減らしている。

 当初は盾がなければ接近すら困難だったが、今はもはや、火球の標的にさえされなければ、肉薄は極めて容易な状況だった。


《もう一息です! 砲撃班各機、強襲班の支援のためにも攻撃を絶やさないでください!》


 さらに、周囲から雨あられと降り注ぐ支援砲撃のおかげもあって、C型ファイントはその場での停滞を余儀なくされている。

 絶え間なく咲く爆炎はバリアに遮られてこそいるが、足止めという役目をこれ以上ないほどに果たしていた。


 このまま何事もなければ、押し切れる。

 奴が奥の手を隠している可能性もなくはないが、それならその切り札を切らせる前に、戦いを終わらせれば良い。この状況下でならば、それは可能な選択肢のはずだ。


 ひとまずは、残りわずかとなった対空機銃を全滅させるのが得策だろう。

 そう考えて再び身を翻し、攻勢に出ようとしたところで――ふと、奇妙な「違和感」を覚えた気がした。


「……?」


 接近すると同時に、C型ファイントの様子をざっと観察する。


 強襲班から受けた無数の傷を全身に抱え、砲撃班の砲火を絶え間なく受け止め続けるその様は、誰がどう見ても満身創痍だ。

 実際、その動きは明らかに緩慢になっている。だというのに――なぜかその佇まいには、最初とは違う「違和感」があった。


 いったい何が。

 そう考えた俺の目に映り込んだのは――奴が展開し続けているバリア。


 戦闘が始まった当初、奴が使っていたバリアは不可視に近く、わずかな光が収束している程度にしか視認できなかったはずだ。

 しかし今、目の前に立つC型ファイントの周囲を取り巻くバリアの光は、明らかに強く、濃くなっている。その様子はまるで、何かの限界が近いことを、視覚的に訴えているかのようで――


 そこまで考えたところで、俺は弾かれるようにC型ファイントの頭部を見やる。


 感情の見えない無機質な無数の光点が、こちらを補足して――



 ニヤリと、嗤ったような気がした。


 

《ッ……全機、即時後退!! 今すぐ物陰に――――》


 割り込んでくる、マザーからの指示。

 背筋をつたう嫌な危機感に、半ば無意識で大剣を眼前にかざした――その直後。


 


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ーーーーー!!!!!」

 


 

 おぞましく轟く咆哮が、世界を揺るがした。


 

 同時に襲い来る、全身を千地に引き裂かんばかりの破壊的な衝撃。


 気づけば俺は、制御を失い、なすすべもなく吹き飛ばされていた。


「う、がッ……?!」


 強かに地へ打ち付けられ、ゴム鞠のように数回バウンドしてから、その場に倒れ伏す。

 常人ならば血反吐を吐いていたであろうレベルの痛みと、視界に浮かび上がる無数の警告文が、その一瞬で負わされたダメージの深さを物語っていた。


「ぐ、ぅ……何が……ッ」


 なおも鳴り響くアラートを気合いでねじ伏せながら、俺は状況確認のため、なんとか身体を起こす。

 

 だが――ようやく視認できた目の前の光景は、凄惨極まりないものだった。



 

 そこにあったはずの廃都市が、なくなっていた。

 

 

 立ち並んでいた廃屋も、張り巡らされていた道路の跡も。

 もとあった何もかもが一切合切吹き飛ばされ、そこに残っていたのはただ、瓦礫が散乱する平坦な更地だけ。

 

 そんな光景の中心に立つのは、C型ファイント。

 全身から蒸気のようなものを噴き上げつつ、どこか満足げな所作で屹立している。様変わりした周囲の風景を睥睨し、再び天へ向けて吼えるその様は、まるで宗教画に描かれる悪魔――あるいは破壊神のようだった。

 

 

《……り返します、こちらはマザー! 各機、状況の報告を!》


 そんな中、無線を介してマザーが呼びかけてくる。

 聞こえる声は一言でわかるほどに逼迫しており、状況が極めて芳しくないのであろうことが、容易に把握できた。


「……4番隊、生きてます」

《ッ、チヒロ! 無事なのですね!》


 無事、と形容するには無理のありすぎる状態だったが、俺の声を聞いたマザーは、無線越しに胸を撫で下ろすような声音を漏らす。


「今、どうなってますか。何が起きたんですか」

《……おそらく、あのバリアです》


 俺の問いかけに、マザーは苦虫を噛み潰したような声で分析を始めた。


《攻撃前後の数値を鑑みるに、バリアが吸収した攻撃時のエネルギーを逆利用して、全方位に対する攻撃に使ったと思われます。ああしてあの場で耐えていたのは……恐らく、この状況を狙ってのことだったのでしょう》


 その言葉に、息が詰まる。


 つまるところ、奴はわざと俺たちに攻撃を許していたのだ。

 俺たちを罠に嵌めて、一網打尽にできるこの状況を、意図的に作り出すために。


 まさか、という思いと同時に、心のどこかで納得が生じる。


 前回スイと共に交戦した時、奴はスイに横槍を入れられていたにも関わらず、執拗に俺を狙っていた。

 どんな狙いがあったのかは、今となってはわからない。だが、あのとき奴が繰り広げた一連の行動は、「目的を達成するために障害を無視するという選択肢をとれるだけの知能」があったことの、紛れもない証明だったのだ。

 

「く、そっ……!」


 してやられたことに――あるいは気づけなかったことに歯噛みする俺の前で、咆哮を終えて周囲を見渡していたC型ファイントが、こちらを向く。

 無数の赤い光点がまっすぐに俺を射抜いたかと思うと、その口からオレンジ色の炎を滴らせ始めた。


 マズイ、と声を上げるよりも前に、無意識で身体が鎧装を動かす。

 

 ――だが、俺の意思に反して、機動推進器は一向に炎を吹き上げようとしてくれない。

 

 視界の端を埋めるウインドウに表示されたのは、衝撃によってシステムエラーが生じたという旨の警告文と、現在システムの自動復元が試みられているという報告。

 だが、復元率を表すゲージは、焦燥感に駆られる俺を嘲笑うかのように、遅々とした歩みを進めていた。


「嘘だろ……?!」


 吹き飛ばされた時の落ち方が悪かったのか、あるいはそもそも受けた衝撃が強すぎたのか。

 いや、原因はどうでもいい。今の状況から導き出せるのは――「このままでは死ぬ」という、無情な結論だけだった。


《チヒロ、退避してください! 今そちらへ向かっている予備隊が到着するまで、なんとか――!》


 必死にマザーが呼びかけてくるが、それで状況が好転するわけでもない。予備隊が来るらしいが、おそらく間に合うことはないだろう。

 となれば、今の俺に採れる選択肢はただ一つ。この満身創痍の状態で、どうにかして奴の攻撃を耐えることだけだった。


 視界の向こうで、身じろぎしたC型ファイントが、待ちきれないとばかりに眩いオレンジに輝く炎の塊を撃ち放つ。

 着弾地点は、間違いなく俺の居場所だ。


 近場に転がったままだった大剣を持ち上げ、その腹を盾のように構える。

 当然、これだけでは奴の火球に耐えうる盾になど到底なり得ない。だが少なくとも、一か八かの回避に全てを賭けるよりは、幾ばくかの可能性があるだろうと判断した結果の行動だった。


「保ってくれよ……!」


 一縷の願いを託したのは、手にした大剣か、あるいは俺自身の躯体か。


 そんな役体もないことを考えた瞬間、眼前に迫った炎の塊が――







 



 ――なんの前触れもなく、()()()()()()()()()()()




「……は?」



 眼前で生じる爆炎の中、何が起きたのかを把握しそびれた俺の口から、間抜けな声がこぼれ落ちる。

 不発というわけでも、狙いが外れたわけでもない。今しがた起きた現象は、明らかに人為的に引き起こされたものだ。

 だが、周囲に展開していた鎧装機兵は先の範囲攻撃で動けないはず。なら、いったい誰が――




「――よかった。間に合ったみたいだね、チヒロちゃん」


 そんな疑問は、頭上から降ってきた()()()()()()()()()()()によって、一瞬のうちに吹き飛ばされていった。


 視線を上に向ければ、そこにあったのは1人の鎧装機兵の姿。


 武者甲冑にも似た白い鎧装を纏い、その手に一振りの刀を携えたその姿を――爆風になびく白銀色のボブヘアを、見間違うはずもない。



「…………ス、イ?」


 絞り出すように名前を呼べば、眼前に降り立った白き武者が――スイが、俺に向けていつもと変わらないあの笑顔を浮かべて見せた。


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