第22話 戦い終えて
巻き起こる爆発を背に、俺は機動推進器を吹かし、その場から飛び退る。
「っ、とと……!」
思っていたよりも推力を強くしすぎてしまい、着地点から少しズレたとこでつんのめる羽目になった。
――だが、振り返ってみれば、そこにあったのはウォーカーたちの残骸。破壊され沈黙したそれらは、紛れもない初勝利の証でもあった。
念の為、装甲頭冠のレーダー機能を介して周辺を精査してみるが、周辺に敵性反応はない。
ふぅ、と一息ついたところで、ふらりとバランスを崩してしまう。ひとまず当座の脅威を退けることができたおかげか、はたまた無意識に張り詰めていた緊張の糸が切れたせいか、俺はその場にどさりと尻もちをつくことになった。
「……っと、そうだ」
そのまま休憩していようと考えたが、視界の端に映った資源プローブの影で、俺は通信を入れることを思い出す。
「スイ、こっちは切り抜けられたぞ。そっちはどのくらい進んだ?」
《お疲れさま〜。私のほうももうじき終わるから、こっちに戻ってきてほしいな。……あ、ファイントの残骸があったら持ってきて? 使えそうな部品を取り出すから》
「わかった、持てるだけ持っていくよ」
無線を切った俺は、へばった体に鞭打って立ち上がる。
遠足は帰るまでが遠足であるように、俺たちの任務もまた、無事にコロニーへ帰り着くまでが任務なのだ。
頭の片隅でそんなことを考えながら、俺は撃破したウォーカーの残骸を拾い集めるべく、握りしめたままのバスターソードを、拡張背嚢のマウントラッチへ取り付け直した。
*
「あ、チヒロちゃんおかえり〜。交戦お疲れさま」
倒したファイントの残骸を引きずりながらプローブの元へ戻ると、いまだ回収作業を継続中のスイが出迎えてくれる。
「ありがと。だいぶ緊張したけど、なんとかなってよかったよ」
「だねー。交戦ログから見てもよく動けてるって感じだし、初陣としては文句なしって感じだね」
手元のホロウィンドウに目を通しながらスイが賞賛してくれるが、直後にぴっと人差し指を立てて見せる。
「とはいえ、これに浮かれて気を緩めちゃダメだからね。初陣を切り抜けてやったー、って気が緩んで、次の任務で手痛くやられるっていうの、よくあるパターンだから」
「あぁ……了解、気をつけるよ」
慣れてきた頃が一番の落とし穴になるというのは、こんな世界のヒトならざる者であったとしても変わらないらしい。
似たような経験に覚えがあるので、素直に忠告を聞き入れると、「ならよし」とスイが笑みをみせた。
「……っと、ちょうどこっちも終わったみたい。あとは、これを無事に持って帰れれば、晴れて初任務は成功だね」
「だな。帰りは……たしかここに輸送機を呼ぶんだっけ?」
「そうだねー。今回はもう大丈夫そうだけど、本来は任務が終わった後に、輸送機を呼ぶための周辺掃討をしたりするから、覚えておいてね」
「了解。じゃあ、輸送機の招集かけとくぞ」
お願いしまーす、というスイの返答を聞いてから、俺は通信を入れ、作戦エリア外周で待機する輸送機にこちらへ来るよう命令する。
「少しかかると思うから、今のうちにコレをバラしちゃおっか」
「確かに、そうするか。……っていっても、何をどうすればいいんだ?」
「じゃあ、ついでに教えちゃうねー。M型ファイントはだいたい同じような手順で解体できるから、しっかり覚えておくよーに!」
どこか楽しそうなスイの講釈を受けながら、俺はファイントの解体に着手。
しばらくののち、ひと通りの作業を終えたところへ飛んできた輸送機に乗り込み、俺たちは無事コロニーへと帰還することとなった。
*
「――はい、ログの確認も完了したので、任務達成とさせていただきます。二人とも、お疲れ様でした」
行きがけの時に利用した作戦会議室で、俺たちはマザーに向けて完了報告を行う。
ログデータを受け取り、優しい笑顔を浮かべるマザーからねぎらいの言葉をかけられると、安堵感と共にどっと疲弊感のようなものに襲われてしまった。
「チヒロ、初任務ご苦労様です。……お疲れのところにこう言うのは申し訳ありませんが、今後もあなたにはこうした仕事を続けてもらうことになります。元来一般人であるあなたには酷かもしれませんが……」
「いえ、大丈夫です。たしかに消耗はしましたけど、もともと承知の上ですから。どこまでできるかは分かりませんけど、できる限りは頑張るつもりです」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、無理は禁物ですよ。いくらヒトならざる力を持つ鎧装機兵といえど、できることに限界はあります。難しいと感じたなら、素直に周囲を頼ることを忘れないでくださいね」
「了解です」
忠告に敬礼を返すと、マザーは「よろしい」と満足げに笑う。
「さて、それではこの場は解散としましょう。チヒロもスイも、明日はそれぞれ別の任務を予定しています。しっかりと休養をとってくださいね」
『はい!』
声を揃えて返答すると、マザーは笑顔で会釈してから、その場に誂えてあったパイプ椅子へ着席。
静かに目を閉じると、それきりマザーが動かしていた躯体は、置物のように沈黙した。
「……はぁ、疲れたぁ」
肩の力が抜けるのを感じながら、俺は詰めていた息を吐く。
「お疲れ様だね〜。……どう? やっていけそう?」
「たぶんな。まだわからないことだらけだからなんとも言えないけど、さっきも言った通り、やれるだけはやってみるつもりさ」
「うんうん、その意気だよー。わたしに教えられそうなことならなんでも教えてあげるから、遠慮なく頼ってね〜」
そう言って、スイは頬を緩めて柔らかく笑う。
「いやぁ……もう頼りきりだと思うけどなぁ」
「そうだっけ? まぁ、これからもよろしくってことで」
「ん、だな。こちらこそ、これからもよろしく」
そう返しながら、お互いに突き出した拳を軽くぶつけ合う。
どちらからともなく笑いを漏らすと、人間が溜め込んだ疲れを搾り出すような所作で、スイがぐっと伸びをしてみせた。
「さーて、お風呂行こっか。チヒロちゃん、砂で髪がボサボサだよー」
「あぁ、確かに。……っていうか、鎧装機兵にも風呂の概念とかあるんだなぁ」
「そりゃもちろん、わたしたちだって汚れるときは汚れるからねー。お湯の中に浸かるのはともかく、洗浄用のシャワーくらいなら日常的だよ」
そう言って手櫛を通すスイの髪は、よく見ればだいぶくすんだ色合いになっている。
今朝方の彼女はもっと明るい色の髪をしていたので、どのくらいの汚れがついているのかは一目瞭然だった。
「言われてみれば、それもそうか。んじゃ、案内お願いしてもいいか?」
「もちろんだよー。行こっか、チヒロちゃん」
自然に手をとって歩き出すスイに連れられて、俺たちは明かりの落ちた作戦会議室を後にした。
……なお、シャワールームでお互いの背中を洗っている最中、スイからあれこれ「攻撃」されてそれはそれは情けない悲鳴をあげる羽目になるのだが、それはまた別のお話である。




