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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第21話 戦場に咲いて


 一つ目の資源集積プローブを後にした俺たちは、その足で目的地となるプローブを巡っていく。

 

 幸いというべきなのか、ファイントが出没したのは最初の一台があった地点だけで、他のプローブでの作業はあまりにもあっさりと終了した。

 

 懸念していたよりもずっと静かな状況に思わず首を傾げる俺だったが、隣を歩くスイからすれば「このくらいが普通」であり、俺が身構えすぎなだけらしい。

「今日初めて実戦に出る機兵に、初めからそんなしんどい任務なんて与えないよー」というスイの言葉に、言われてみればそれもそうだと思い直すこととなった……というのは、どうでもいい余談だ。


 

 *



「……っと。これが最後だな」


 そう呟く俺の目の前には、今回最後の目的地となるプローブの姿。

 さっそく回収するべく動き――かけた直後、視界の端でポップアップした見慣れないウィンドウに目線を奪われる。

 見ればそこには「懸架中のコンテナの容積がいっぱいであり、これ以上の積載は望めない」という旨の文言が、警告色で表示されていた。


「あー……スイ、悪い。こっちのコンテナ、もう中身がいっぱいで入らなさそうだ」

「ありゃ、そっか。なら、最後はわたしが回収だねー」


 そう言いながら、スイが俺の前へ進み出る。

 俺がやっていた時と同じような要領で拡張背嚢(バックモジュール)を駆動させ、コンテナをプローブへセットしたスイが、虚空をちらと見やってから、こちらへ視線を向けた。


「ここは量が貯まってるみたいだから、しばらくかかりそうかなぁ。チヒロちゃん、周辺警戒よろしくね〜」

「ああ、了解」


 ひらひらと手を振るスイに首肯を返してから、俺は拡張背嚢を稼働させ、コンテナをその場へ一時的に投棄。ついで踵を返し、少しプローブから離れた位置へと移動する。

 万一の戦闘でプローブが被害を被らないよう、充分な距離を取って防衛体勢に移行した俺は、再び拡張背嚢を動かし、マウントしてあった得物――身の丈を越す長さと肉厚な刀身が特徴的な、両刃の大剣(バスターソード)を手に取った。


「よっ、と」


 確かな重量を――常人ならまず持ち上がらないであろう重さを手の中に感じながら、演舞の型をなぞるように、ゆっくりと握り心地を確かめる。

 訓練用ではない、いわゆる「真剣」を手に取るのは、正真正銘これが初めてだ。だが、指先に伝わるグリップの感触と、切っ先から伝わる確かな重量感は、俺の心に不思議な安心感をもたらしてくれるような、そんな気がした。



 ――なんてことを考えていた矢先、聞き覚えのあるアラート音が耳朶を叩く。


「ッ――出たか!」


 視界の端にミニマップを展開し、装甲頭冠(ヘッドモジュール)のレーダー機能を用いて、周辺を素早く索敵する。

 ほどなくレーダーに映り込んだのは、3つの赤い光点。小隊を組んでいると思しき、統率の取れた動きを見せるその反応は、障害物の間隙を縫いながら、まっすぐこちらに向かってきていた。


「スイ、敵の反応だ。迎撃してくる!」

「了解だよ〜。がんばれ、チヒロちゃん!」

「ああ!」


 スイからの激励を受けて、俺は掌中のバスターソードを、しかと構え直す。

 

 身構えすぎと諫められた直後に会敵するとは思いもよらなかったが、ともあれこれが初めての実戦だ。

 

 すぅ、と細く息を吐き、否応なく高鳴る気持ちを静める。

 どれだけやれるかはわからない。だが、この程度もこなせないなら、真実へ近づくことは到底できないだろう。――ならば、やれるだけの全力でぶつかるまでだ。


 口元を引き締め、到来を待っていると、やがて崩落したビルの隙間を塗って、金属色の影が姿を現す。

 逆関節型の二本足に、股下からぶら下がる機関砲。その特徴は、先刻スイが切り伏せた〈ウォーカー〉のそれと寸分たがわない。ご丁寧なことに、三体編成というその布陣も、先ほどと全く同じだった。


「――行くぞッ!!」


 気合を声に、俺は勢いよく前傾。合わせて、腰から伸びる機動推進器(ブーストモジュール)へ火を灯す。

 眼前にあった光景がはるか後方へ吹き飛ぶのを見つめながら、俺はファイントめがけて一直線に飛翔した。


 数瞬遅れて、ファイントたちがこちらの動向に反応を見せる。

 2本の逆関節脚でその場に踏ん張り、股下の機関砲を稼働。レンズの焦点を合わせ、こちらを捕捉する――


「お、りゃあぁぁッ!!!」


 その一連の動きが終わるよりも早く、俺は大剣を振り抜く。

 

 機動推進器が生み出す推力と、常人なら保持不可能な質量を掛け合わせて放たれた一撃。そこから生じる破壊力の膨大さは、説明するまでもない。

 

 脇をすり抜けるように繰り出した斬撃は、ウォーカーの一体を暴力的に吹き飛ばす。

 けたたましい破砕音が遅れて響き渡った時、吹き飛んだウォーカーの躯体は、すでに凄惨なスクラップへとその姿を変えていた。

 

 まずは一体、と撃破を確認したところに、視界の端からアラートが飛び込んでくる。

 確認もそこそこに機動推進器を吹かし、飛び退く形でその場を離脱。直後、俺がいた場所を銃弾が駆け抜けていく。


 推進器を駆使し、跳躍の勢いを殺してから、今度は横っ飛びに飛翔。

 敵の旋回速度を上回る勢いで動き、死角をつくという目論見は――しかし、再び飛来した弾丸によって失敗する。


「っ」


 急制動をかけ、再びその場を飛び退る。

 転進の傍ら、ウォーカーたちの様子を見てみれば、すぐに理由は判明する。ウォーカーたちの本体が転身するよりも早く、ぶら下がった機関砲がじっとりとこちらを見つめ、昏い砲口をこちらへ覗かせていたのだ。


 畳み掛けるように、機関砲からマズルフラッシュが閃く。

 その狙いは、かなり正確だ。動き回る俺の移動先を読んだ偏差射撃が、空中で身をよじった俺の間近を幾度も掠めていく。


「ぐっ!?」


 それだけにとどまらず、いくつかの弾丸は回避機動を取る俺の身体を貫くように飛来。

 とっさに持ち上げたバスターソードの腹をかざし、即席の盾とすることで、致命打は免れる。だが内心では、この体に流れるはずもない冷や汗が、背中を伝ったような思いだった。


 ――先刻のスイの戦いぶりを見たせいか、どうも俺の中には無意識の油断があったらしい。

 たかが低級と侮っていたが、奴らも立派な人類の脅威(ファイント)の一部。それを忘れて慢心すれば、鎧装機兵といえど敗北は避けられないのだ。


 意識を切り替え、立ち回りを見直してから、俺は一度遮蔽へ退避。リズムを整えたのち、バスターソードを眼前に構えながら、再び飛び出す。

 先刻防いだことからもわかる通り、奴らの弾丸はバスターソードの分厚い刀身に対して無力だ。飽和攻撃を仕掛けられれば結果はわからないが、少なくとも今の状況であれば、肉薄するための盾としては十二分に機能することだろう。


 目の前にかざしたバスターソードの向こう側から、確かな衝撃と共に火花が炸裂する。

 しかし、着弾したであろう弾は肉厚な刃を貫くには至らない。なおも飛び散る火花の中、俺は構わず機動推進器を全力で吹かす。


 刃越しに、ファイントを目前に捉える。

 同時に機動推進器を駆使し、スライディングにも似た格好で身をかがめた俺は――


「ハァッ!!」


 脚装外殻(レッグモジュール)に包まれた脚で、天へ突き上げるように蹴りを放った。


 足先から鈍い衝撃が伝わると同時に、ウォーカーがその躯体をひっくり返す。

 蹴りの着弾点となった機関砲は真っ二つに破断し、その延長線上にあった本体ユニットも、深々とひしゃげている。電装系から漏電したのか、一際眩いスパークが迸ったかと思うと、擱座した2体目のウォーカーはそのまま動かなくなった。


「お前で――最後だ!!」


 そんな様子を見つめること、コンマ数秒。

 二機目の撃破を確認した俺は、最後に残ったウォーカーへ向け転進する。


 僚機がやられた光景も意に介さず、最後のウォーカーはこちらめがけて機関砲を放ってくる。

 だが、三機編成が健在だった時に比べれば、構築できる射線の数ははるかに少ない。真正面から飛来する弾丸はしかし、バスターソードを眼前に掲げることで、そのことごとくが無力化されていった。


「よ、っと!」


 防御姿勢のまま肉薄した俺は、もう少しで剣先が相手に届くというところで、推進器の勢いに任せて跳躍。ウォーカーの頭上へ移動する。

 追撃を図るウォーカーだったが、本体からぶら下がるように取り付けられた機関砲は、その構造上、頭上への射角を取れる作りになっていない。つまり――奴が上に回った俺を狙うためには、わずかながら隙が生じるのだ。


 もくろみ通り、ほんの数刻、ウォーカーの攻勢が止む。

 その瞬間を狙い、俺は中空でぐるりと身を捻り、方向転換。機動推進器に火を灯し、眼科のウォーカー目掛けて突進し――


「これで、終わりだァァッ!!!」


 大上段へ振り上げたバスターソードを、雄叫びと共に叩き込んだ。

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