第20話 初陣
コロニーの外へ進み出た俺たちは、以前も乗った輸送機へ乗り込み、今回の目的地であるエリアへと向かう。
機内の窓から外を覗いてみれば、眼下に広がるのは乾いた色の岩と砂、そしてひび割れ崩れ落ちた文明の残滓ばかり。
どこまでも続くその光景は、まさしく創作の中に描かれる「滅びた世界」の様相そのままだ。
そして、見上げた先にある空は、コロニーの中で見られる仮想の青空とは似ても似つかない。
雲はまばらにしか飛んでいないというのにも関わらず、鮮やかさを失った空は鈍色にくすんでいる。機械仕掛けのこの身体にこそ影響はないものの、その光景は「世界のありようが一変している」という事実を実感するには、充分なものだった。
「チヒロちゃん、大丈夫? 顔、強張ってるよ」
よほどの表情が浮き出ていたのか、対面に座るスイが気遣わしげにこちらへ声をかけてくる。
「いや……大丈夫だよ。改めて見ると、本当に世界は滅んだんだなって、いまさら実感しただけさ」
コロニーの中で生きる人々の明るい振る舞いが記憶に新しいが、こうして外の世界を改めて目の当たりにすると、この世界が滅びに瀕しているのだということを強く実感する。
そして同時に、そんな滅びを跳ね除け、人々の笑顔が続くように守り続けるのが、今の俺の――鎧装機兵の使命なのだと、そう自覚を改められたような、そんな気がした。
そんな胸の内を説明すると、スイは少し驚いたような表情を見せたのち、ふわりと口元を綻ばせる。
「うん、そうだね。あの人たちとこの世界の未来を守れるかどうかは、わたしたちの働き次第。だからこそ、できる仕事はしっかりこなしていかないとね」
だな、と同意を口にすると、不意に輸送機の高度が下がり始めた感覚が伝わってくる。
「着いたのか?」
「みたいだよー。さぁ、初めてのお仕事頑張ろうね!」
拳を握り笑いかけてくるスイに向けて、俺もまた力強く頷いてみせた。
*
地上へ着陸した輸送機のハッチから、スイと共に外の世界へと踏み出す。
色を失い、荒涼とした空気に満ち、廃墟の森と化した物寂しい世界を横目に、俺たちは最初の目的地となるポイントへと移動を開始した。
「輸送機で空輸できるなら目的地に直接乗りつければ良いのではないか」と思ったのだが、スイ曰く「輸送機を壊されて帰還の手段を失うというリスクを避ける」ために、今のように少し離れた場所で待機させることになっているらしい。
輸送機は鎧装機兵の空輸手段であると共に、それ自体がコロニーとの通信を中継する装置も兼ねている。なので、仮に破壊された場合、次の輸送機が来るまではサポートなしで生き延びなければならなくなるため、そういった事態がなるべく起きないようにしているのだそうだ。
そんな雑談を挟みつつ、移動すること十数分。
指定されたポイントへ到着した俺の前には、全高にしておよそ5メートルほどの高さを持つ、大きなボーリング機械のような物がそびえ立っていた。
「あれが最初の目的地、だな」
「そうだねー。……今のところ敵性反応は遠いけど、たぶんわたしたちが作業し始めたら、ファイントはこっちに集まってくると思う。気は抜かずに行こうね」
隣で周囲へ目を配るスイの言葉に「了解だ」と返答しながら、俺はプローブへ接近する。
近くで見るとより大きく見えるプローブの根本には、採集した資源を集めたコンテナユニットと、そこへ接続するためのソケットがある。
ソケット周りに不備がないことを確認してから、俺は背中の拡張背嚢を動かして、そこに懸架していた資源回収用の貨物コンテナを展開。プローブ側のソケットへ位置を合わせて押し付けると、コンテナ側に仕込まれた稼働機構が働き、プローブとコンテナがぴたりと合う形で固定された。
……昨日の訓練で一通りの動作は習ったのだが、やはり「外付けされた機械が自分の体の一部のように動く」という感覚は、なんとも形容しがたい違和感がある。
これがもう少しぎこちなく動いたなら違和感も薄かったのかもしれないが、鎧装は腕や手指を動かすかのように柔軟かつなめらかに動くし、俺の感覚野はそれを「ごく自然なこと」として受け入れているのだ。全身全ての鎧装がそんな調子なので、慣れるには今しばらくの時間が必要になることだろう。
「接続完了、移送システム稼働開始。……ここのプローブは5分もあれば終わりそうだってさ」
「りょうかーい。こっちの警戒は任せといて〜」
視界に表示された情報を共有すると、のほほんとしたスイの声が返ってくる。
資源回収作業中は回収コンテナを引き抜くこともできないので、どうしてもその場から動けない。なので、遠距離に対応できる武装を持たない俺は、この場の戦闘をスイに任せざるを得ないのだ。こんなことなら、副兵装として拳銃の一丁でも仕込ませてもらうべきだったか。
――そんなことを考えていると、不意に俺の意識の外側から、甲高いアラートが鳴り響く。
「ッ――来たのか?!」
「来てるみたいだね〜。反応の波形的に、アレは〈ウォーカー〉かな?」
ギョッとして硬直する俺とは対照的に、ベテランであるスイの反応は実に落ち着き払ったものだ。
拡張背嚢を動かし、そこに懸架していた鞘付きの太刀を手にしたスイは、鯉口を切って刃を確かめてから、キンッと刃を納め、ゆるりと重心を落とす。澱みなく一連の動作をこなす様は、まさに熟練の動きだった。
そんな様子を見守っていると、物陰の向こうから、モーター音と金属質な足音を鳴らしながら、いくつかの影が姿を表す。
本体であろう箱状の胴体に、その側面から生えた逆関節状の脚部。小さな帽子のように乗っけられたセンサーユニットと、ぶら下がるように生えた機関砲が特徴的なそれこそ、M型ファイントの中で最も普遍的な個体――〈ウォーカー〉と呼ばれるモデルだ。
三機で固まって行動していたらしいそいつらは、こちらの存在を見とめるや否や、臨戦体勢へと移行。反動を殺すべく、二本の脚を踏ん張らせ、機関砲の照準を合わせ始める――
「そりゃー!」
その直前、やや気の抜けるようなスイの雄叫びが空気を切り裂く。
同時に、ウォーカーたちが立つ場所を駆け抜けていく、白銀色の閃光。直後、ウォーカーたちのセンサーユニットに灯っていた光が失われ、その場でがしゃんと擱座する。
「敵性反応消失。チヒロちゃん、もう大丈夫だよー」
瞬きのうちにスクラップと化した三機を尻目に、抜き放たれた太刀を音高く鞘へ収めたスイは、こちらに向けて安心させるように大きく手を振ってみせた。
「あ、はは……さすが、ビビるまでもなかったな」
「まぁねー。もっとたくさん出てきたならともかく、あのくらいの数なら、わざわざ苦戦してあげる理由もないからねー」
ごもっともだ、と首肯を返していると、先ほどのアラートとは違う、澄んだ電子音が頭の奥に響く。
振り返ってみれば、プローブ内の貯蔵資源はいつの間にか全てコンテナへ運び込み終わっているようだった。
「ちょうどこっちの回収も終わったみたいだ。次に行こうか」
「おっけー。……あ、その前にあの残骸も回収してくるね。電子部品とか弾薬とか、いろいろ使えるものが拾えるはずだから」
「了解。じゃ、それが終わったら移動だな」
はーい、と返事しながらブーストを吹かすスイを見送りつつ、俺はコンテナの取り外し作業に取り掛かりはじめた。




