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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第19話 出撃準備


 作戦会議室を後にした俺たちは、出撃の準備をすべく更衣室へ移動。

 手早く着替えを済ませたのち、今度は鎧装を装備するべく、ハンガーユニットが並べられた区画へと移動した。


「……お、来た来た。チヒロくん、こっちだよ」


 区画へ立ち入って早々、聞き覚えのある声が耳朶を叩く。

 声のした方へ顔を向けてみれば、そこにはつい昨日世話になった男性、ことヴィクターが、ひらひらと手を振って存在をアピールする姿があった。


「ヴィクターさん、どうしてここに?」

「君用に誂えた鎧装を調整するためさ。そのままでも扱いに支障はないと思うけど、実戦ではちょっとしたエラーが生死に直結しかねないからね。取り除けるリスクは取り除いておくのが、僕らメカニックの仕事ってわけだ」


 眼鏡を指で押し上げながらそう解説するヴィクターの視線が、ふと俺の首から下へと向けられる。


「ところで、そのスーツはどうだい? 見たところサイズは問題なさそうだけど、違和感や動かしにくい部分はなさそうかな?」

 

 ヴィクターの問いかけに、俺の視線は自然と自分の体へ向いた。


 今の俺が身に纏っているのは、黒と赤のツートンに染め抜かれた、真新しい戦闘用のスーツだ。

 昨日の適性訓練で着ていたあの落ち着かないスーツとは違い、その造形はいかにも「SF世界の戦闘服」然とした装いをしている。素地こそボディスーツそのままだが、しっかりした厚めの生地や、所々に配された合金性の硬質なプロテクターは、いかにも「実戦仕様」といった印象を与えてくれた。


「問題ないと思います。むしろ、昨日のアレと同じくらい動きやすくてビックリしてるところです」

「それならよかった。……チェックは怠らなかったとはいえ、発注ミスで死蔵されてたものを繕い直した代物だ。もし実戦中に違和感を感じたなら、すぐに報告しておくれ」


 忠告を受けて素直に頷くと、「よろしい」と笑うヴィクターが、俺をハンガーユニットへ誘導する。


 指示された通り、立ち並ぶ無数のハンガーユニットの一つへ体を滑り込ませると、配置を確認したハンガーユニットが稼働を開始。

 ユニット内に固定されていた鎧装たちが、脚、腰、背中、そして頭へかけて、澱みない動作で次々と装着されていく。同時に、俺の視界上を無数のログが高速で流れていくと、最後に〈All unit equipment completed.〉と表示され、ハンガーユニットは定位置へと戻っていった。


「接続部正常。全パラメータ問題なし……チヒロくん、少しこっちへ歩いて出てきてくれ」


 ヴィクターの指示に従い、鎧に包まれた身体を動かして、ハンガーユニットの外へ歩み出る。

 周囲を囲う機材から解放されると、照明に照らされた今の俺の姿は、より克明に見えるようになった。


 全体的なシルエットは、華奢すぎず重厚すぎない、実用性と汎用性を強く感じられるもの。

 背中の拡張背嚢(バックモジュール)に設けられたラッチに装着されているのは、今回の任務で使う資源回収用のコンテナ。別のラッチには、先日の適性試験で高い数値を出した武器である両手大剣(バスターソード)も、抜き身の状態で懸架されている。

 

 そして、全身を覆う装甲の色は、薔薇の花のような真紅(クリムゾンレッド)とブラックのツートンカラー。

 事前に着込んでいた黒赤の戦闘用スーツと同じ色調で揃えられたカラーリングは、感覚野が同期していることもあってか、強い一体感とともに、不思議な高揚感を与えてくれた。


「稼働状態も問題なし。多少調整は必要だろうと思ってたけど……これなら特に弄らずとも問題なさそうだね」


 手元のタブレットに視線を走らせていたヴィクターが、満足げな顔で太鼓判を押してくれる。


「これでチヒロくんも、本格的に鎧装機兵の仲間入りだ。――無理しない程度に、頑張ってね」

「ありがとうございます!」


 激励の言葉を贈ってくれたヴィクターは、俺の返答に口元を綻ばせると、次の仕事があると言わんばかりに踵を返し、ひらりと手を振って去っていった。


「――おー、チヒロちゃんかっこいいー!」


 立ち去ったヴィクターと入れ替わるように、背後からスイの声が聞こえてくる。

 振り向った先にいたのは、俺と同じく鎧装に身を包んだスイ。こちらの様相を見回すその眼差しは、なんだかキラキラとしたものだった。


「ありがと、スイ。……自分じゃわからないんだけど、変な格好にはなってないか?」

「うん、よく似合ってるよー。わたしの鎧装と正反対の色だから、なんだか新鮮だね」


 そう言って笑うスイは、彼女の言葉通り、俺と正反対のいでたちをしている。

 軽さと速さを重視していることが一目でわかる華奢なシルエットに、拡張背嚢から伸びる、武将の肩装甲にも似た追加装備。装甲は雪のような白とグレーブルーのツートンカラーで染め抜かれていて、その容貌はまさしく「白備えの武者甲冑」とでも形容できるものだった。


「ヴィクターさんが帰っちゃったってことは、チヒロちゃんももう準備できてるってことでいいのかな?」

「ああ、問題なしだってさ。俺はいつでも行けるぞ」

「おっけー、わたしも準備は万端だよー。ふふ、こうして誰かと組むのは久しぶりだから、なんかちょっと緊張しちゃうなぁ」


 そう言って、スイは発着場めがけて先導を始める。


「スイって、ずっと単独行動で仕事してたのか?」

「そうだねー。わたし、これでもベテランだからさ。先見調査とか他の子たちにできないような仕事が多くて、他の機兵(ひと)と組む機会がなかったんだ」

「あぁ、だからあの時もスイ一人だったんだな」


 おそらく、俺がスイに助けられたあの時も、似たような理由で単独行動していたのだ。

 先見調査という、他の機兵に先んじて危険な区域を探査するような仕事を任されるあたり、スイの実力は折り紙つきということだろう。

 

「それに、チヒロちゃんも見たことあると思うけど、わたしの戦い方ってソロ専門みたいな感じだからねー。そもそものスタイル的に、誰かと組むのに向いてないっていうのもあるんだよね」


 そう言って、スイは苦笑する。

 

 ――その横顔に、ほんの一瞬だけ影がさしたような気がしたのは、果たして俺の気のせいだったのだろうか。


 微かな影は瞬きの合間に消え去っていて、そこに残っていたのは、すっかり見慣れたゆるりとした表情だった。


「まぁそんなわけで、わたしも誰かと組むのは久しぶりなんだー。よろしくしてくれると嬉しいな」

「ん、こちらこそ。――しっかり成功させて、しっかり帰ってこよう」

「おー!」


 溌剌とした掛け声を返してくれるスイに合わせて、俺は拳を握り込み、軽く掲げてみせる。


 掲げた拳は、記憶の中の俺のものと比べて随分と小さい。

 だが、そこに籠る力は、俺が知るかつてのそれよりも、はるかに力強かった。

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