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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第18話 初任務に向けて


「ぬ、ぐぐ……っ」


 限界まで後ろへ回した肩の負担に呻き声を漏らしながら、後ろ手に回した手を彷徨わせる。

 

「がんばれ〜。左側はもうちょっと上だよー」


 背後からは、微笑ましいものを見守るかのようなスイの声。

 飛んできたアドバイスに従い、左手をもう少しだけ上にあげてみると、かちんと金具が触れ合う音が聞こえてくる。

 この機を逃すまいと、ひときわ大きく両手を後ろに回してみれば――金具同士を引っ掛け合わせることに成功した感触が伝わってきた。


「っ、よしできた!」

「残念、はずれ〜。下側のホックが引っ掛けられてないねー」

「えええ……くそ、難しいなぁ……」


 しかし、つかの間の達成感も虚しく、スイによって引っ掛けられた金具はほどかれてしまう。

 背中にほんのりとした開放感を覚えつつ、俺の口からは落胆の声が漏れた。


「……というか、よく考えたらこの後すぐにまた着替えるんだよな。どうせコレも脱ぐのに、やる必要はあったのか?」


 そう言いながら、俺は自身の胸元――スイによって付け直されている途中の()()()()()を指差す。

 

「慣れないものに慣れるためには、こうやって毎日続けて習慣づけるのが一番なんだよー。付けたり外したりする回数が増えれば、それだけ特訓にもなるからねー」

「まぁ、確かに一理あるけど……」

「それに、こうやって支えをつけておかないと、歩くだけでも揺れたり擦れたりで痛むこともあるんだよー。チヒロちゃんはけっこう『ある』方だから、なおさらちゃんと守ってあげないとね」


 そういうものなのか、と心の中で首を傾げていると、背中のホックをつけ終えたスイの手が、突然前まで伸びてくる。


「仕上げに、カップの中にこうやってーっと」


 何事かと思う暇もなく、スイの手はブラジャーのカップを開帳。

 そのまま無遠慮に突っ込まれた手が、俺の胸をぐにっと変形させた。

 

「あひぇっ?!」

「あはは、チヒロちゃん変な声〜。ちょっと整えるから、じっとしててねー」


 思わず身体が跳ねてしまう俺をよそに、スイは手早く胸の位置やら何やらを調整。

 数分と経たずに解放されると、俺の胸元からは不思議な安定感が伝わってきた。


「お、おお……凄いな、しっくりくるようになった」

「でしょー? さっきやったみたいな感じで調整すれば、いい感じに安定すると思うから、覚えておいてね?」


 ……そんなこと言われても、胸を触られたあの感触のせいで、どうやっていたかなんて全く覚えていない。

 次回また聞かなければいけないな、なんてことを思いながら、俺は続けて渡されたレギンスのようなものを受け取った。



 *



 着替えを終えた俺は、スイの先導に従い、共に軍事区画を移動していき、やがて〈作戦会議室〉と掘られたプレートを掲げられた部屋へ辿り着く。

 

「――来ましたね。おはようございます、スイ、チヒロ」


 圧縮空気の抜ける音を立てて開いた扉の向こうから聞こえてきたのは、マザーの出迎える声。

 十数人規模で使えるであろう会議室だったが、そこにいたのは躯体を動かすマザーだけだった。


「おはようございまーす」

「おはようございます、マザー。この服、ありがとうございました」


 挨拶を返しながら、俺はひらりと袖を振る。


 現在俺が着用している衣装は、厚手で丈の長いシャツとスポーティなレギンスに、マウンテンパーカータイプのアウターというコーディネートだ。

 俺の複雑な内情を加味してくれたのか、一式着込んだ時の装いはいい感じに中性的にまとまっている。動きやすさもある程度確保されていて、とても着心地の良い衣装だった。

 

「支給品の一環ですから、気にしないでください。よく似合っていますよ、チヒロ」


 忌憚なくそう褒められて、なんだかこそばゆい気持ちになった俺は、照れ臭さに頬をかく。

 そんな俺を見てか、マザーはその顔に微笑ましげな表情を浮かべていたが、ひとつ息をつくと、面持ちを真剣なものへと切り替えてみせた。


「……さて、それでは今回の作戦概要を説明します。チヒロ、あなたの初陣となります。心して聞いておいてください」


 凛とした、よく通る声に、自然と背筋が伸びる。

 俺が姿勢を正すのを確認したマザーは、軽く片手を動かして、背後の大きなモニターを点灯させてみせた。


「――今回の作戦目標は〈集積した資源の回収〉となります。対象エリア内に敷設された資源採掘用のプローブの下へと赴き、そこで採掘・収集された資源を回収。このコロニーへ無事に持ち帰るのが、今回の任務となります」


 よどみないマザーの説明に合わせて、大モニタにはマップと、設置されたいくつかのプローブの位置が示される。

 表示されているマップに映るコロニーの大きさから考えると、目標となる地域はコロニーからさほど離れた位置にあるわけではないようだ。


「なすべき仕事は単純明快ですが、プローブから発されている信号から、周辺で〈M型ファイント〉の活動が予想されます。プローブが破壊される恐れもあるので、もしもファイントと遭遇した際は、優先的な排除をお願いします」


 そこまで説明を聞き、少し引っかかる点を見つけた俺は、控えめに挙手する。


「どうしました?」

「あー、すみません。一応確認なんですけど、〈ファイント〉っていうのは、要するに『敵』ってことでいいんですよね?」

「あら、私としたことが説明を忘れていたようですね。申し訳ありません」


 頬に手を当てて苦笑を漏らしてから、マザーは一つ咳払いのようなものを挟んで、再び口を開いた。


「おおよその概略は、チヒロが言った通りです。コロニーのテクノロジーや鎧装機兵に対して敵対的な動向を見せる存在を、私たちは総じて〈ファイント〉と呼称しています」

「頭についてた『M型』っていうのは、そのファイントの分類ってことですか?」

「そうなります。ファイントは大きく分けて『異常発達した生命体』と『暴走した自立機械』の二種類に分けられ、それぞれを『A《アニマル型』、『M型』と呼称します。なので、今回の任務で出現が予想されるのは、『自立機械型のファイント』ということになりますね」

「なるほど……理解しました、ありがとうございます」


 となると、俺が目覚めて早々に襲われたあの化け物は、このコロニーで言うところの〈A型ファイント〉ということになるようだ。

 対して、今回遭遇が予想されるM型と呼ばれる存在は、以前マザーが語った「敵対的な機械が襲ってくる事件」に連なる存在なのだろう。どんな相手かは未知数だが、どちらにせよ油断は禁物なことには変わらないようだ。


「今回の作戦メンバーは、ここにいる二人。任務の遂行は主にチヒロが主導し、スイはそのサポートをお願いします。――今回の仕事は、鎧装機兵が請け負う基礎的な仕事のひとつです。今後のためにも、作業の手順や任務の流れをしっかり覚えるように心がけてください」

「了解です!」

「了解でーす」


 それぞれに返答する俺たちを見て、マザーは小さく首肯する。


「準備が完了し次第、3番発着場の輸送機へ乗り込んでくださいね。――では、出撃準備をお願いします」


 そう締めくくったマザーがモニタを消灯させるのを合図に、俺はスイと共に会釈を返し、会議室を後にした。

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