第16話 戦闘訓練
「っ、いよっ!」
《OK、次は6番チェックポイント。機銃の弾に当たらないよう、遮蔽を潜って飛ぶんだ」
腰裏の機動推進器を吹かし、中空でぐるりと転身。こちらを睨む機銃へ視線を返しながら、脚装外殻で増幅した脚力を持って飛び出す。
*
《ウェーブ3終了。射撃命中率は悪くない、このままウェーブ4へ入るよ》
「はいっ!」
ヴィクターが走らせたプログラムに従い、新たな訓練用ターゲットが飛び出してくる。
手に持つのは、訓練用にあてがわれたアサルトライフル。手早くリロードを終わらせてから、再びターゲットたちへ狙いを定める。
*
「うおりゃああぁッ!!」
遮蔽の向こうへ身を乗り出しながら、訓練用ターゲットの頭目掛けて、新たに握った長大な剣を叩きつける。
《ターゲットオールクリア。……ふむ、腕力的にはもう少し重い格闘武器でも問題なさそうだね。いくつか新しい武器を選定するから、同じように試してみてくれ》
「はい!」
*
鎧装の完熟訓練に始まり、射撃・格闘・副兵装など、さまざまな武器の適性テスト。次々と与えられるさまざまな課題を、一心にこなしていく。
やがて、最後に与えられた総合訓練の課題を無事に終わらせたところで、ヴィクターからの終了宣言が入ってきた。
《――よし。お疲れ様、チヒロくん。これで訓練プログラムは一通り完了だ》
「はい、ありがとうございました!」
《いやいや、礼なんてむしろこちらが言いたいくらいさ。君のおかげで、普通の機兵では取れないようなデータがたんまり取れたからね。これで新装備開発がますます捗るってものだよ》
ヴィクターの言葉を裏付けるかのように、スピーカーの向こうからは研究員たちの弾んだ人々の声が聞こえてくる。
自分のための訓練ではあったが、多少なりとも彼らの役になれたと聞けば、達成感もひとしおだった。
《適性検査の結果算出には少し時間がかかる。別室でまとめて渡すから、まずは着替えてくるといい。くれぐれも、鎧装の解除は忘れないようにね》
「はい、了解です」
返事をすると、それきりスピーカーは沈黙。代わりに、最初に鎧装を装着したハンガーユニットが、再び床下から姿を現した。
ハンガーユニットに身体を預けると、何かが引き抜かれるような奇妙な感覚と共に、鎧装の感触が立ち消える。
取り外され、骨組みへ固定し直された鎧装の隙間を縫ってハンガーユニットの外へ出れば、なんとも言えない開放感を覚えた。
「ん〜……っ」
なんだか酷く体が凝っているような気がして、ぐっと伸びをする。
この躯体は機械仕掛けなので、疲労という概念とは無関係なはずだ。だが、身体は疲れなくとも心は人間と変わらない以上、ヴィクターが言及していた通り、心労までは軽減できないのだろう。
「おーいチヒロちゃーん、お疲れ様〜」
――なんてことを考えていると、背後からのんびりとした声がかかる。
振り向けばやはり、そこにはスイが手を振りながら歩いてくる姿があった。
「ありがと、スイ。いやぁ……ホントに長丁場だった」
「だね〜。時計見てたけど、かれこれもう3時間以上はやってたからねぇ。昔よりも武器が増えてるぶん、どうしても時間はかかっちゃうねー」
「うへ、そんなにやってたのか」
夢中でプログラムをこなしていたので全然気づかなかったが、やはり相当な長丁場だったらしい。
あれだけの時間をずっと動き続けて、それでも活動に支障がないあたり、流石は機械の身体といったところだ。
「スイ的には、俺ってどうだった? 上手く動けてた方か?」
「いやー、わたしからすればまだまだだよ? 『伸びる素質はあるな』と思ったけど、それでもやっぱり新米機兵と大差ないって感じだねー」
「あはは、手厳しいな。……でも、まったく可能性がないってわけじゃないのは、ちょっと安心したよ」
「そうだねー。初めてにしては充分動けてたし、武器の扱いも素人なりに申し分なしって感じだったからね。あとは、身体に合う鎧装と武器を選定して、実践あるのみって感じかなー」
「ならよかった。これだけやって『お前は戦闘に向いてない!』なんて言われたら、立ち直れなくなるところだったよ」
苦笑をもらすスイとひとしきり笑い合いながら、俺は訓練用スーツを脱ぐため、訓練場を後にした。
*
「さて、それじゃあ改めて、訓練の総合結果を発表しよう。チヒロ君、心の準備はいいかい?」
「そんな心の準備が要るような結果なんですか……?」
ところ変わって、小さなミーティングルームにて。
なにやら意味ありげな表情で眼鏡の位置を直していたヴィクターが、おっかなびっくりな俺の返事を聞いて、愉快そうに肩を揺らす。
「冗談だよ。むしろ結果は上々といっていい。もちろん、ずぶの素人にしては、という枕詞は付くけどね」
「だと思いました。……正直割と頑張りはしたんですけど、現実はマンガみたいにいきませんね」
「そりゃそうだよ。いくら君が特殊な出自の持ち主と言っても、他の鎧装機兵が積み重ねた『経験』を埋めるのは難しいだろうね。……ま、それはともかく、君の適正試験の結果を聞かせようじゃないか」
そう言って話をまぜっ返したヴィクターが、手元の端末を操作すると、ホワイトボードのようなパネルがその色を変える。
一瞬のうちに切り替わった画面には、AやBといった記号を割り振られた、いくつかの項目が記されていた。
「まずさっきも言った通り、結果に関しては上出来な部類だ。武器に関してはまだ改善の余地はあるけれど、鎧装のコントロール技術は申し分ない。訓練の通りに動けるなら、実戦でも充分通用するだろう」
ヴィクターの口から、嬉しい評価が伝えられる。
訓練の通りに、というくだりは少し引っかかったものの、あらゆるイレギュラーが生じうる実戦で全てが訓練通りに行くとは限らないのだ。それを考えれば、ヴィクターが注釈をつけるのは理解できる話だった。
「で、こっちは君の詳細な武装適性だ。横の数値でわかると思うけど、Aが最高ランクで、Eへ下るほど君の苦手な分野だったと考えてくれ」
口には出さず納得していると、ヴィクターがさらに画面を切り替えて説明を続ける。
画面を見てみると、評価点は大半がBからDので収まっていたが、その中にはほんのいくつかだけ、Aランクが記されている項目があった。
「……なんか、意外な感じです。確かにうまく動けた自信はあったけど、自分の得意武器が大剣だとは」
そのAランクのうち、最も高い数値が記されていた武器こそ、〈大剣〉と呼ばれた武器。
身の丈ほどに長く、身を覆うほど分厚い刀身を備えた、大型の格闘武器だった。
「そこまで驚くものじゃないよ。テストの映像やデータを見てみても、君はこの武器をうまく使いこなしている。盾と剣の同時装備スタイルの時も近い数値を出していたし、どうやら君は手堅く防御するのが得意みたいだ」
言われてみれば確かに、大剣を使っている時は刀身の腹で攻撃を受け止めるという運用をすることが多かった。ヴィクターの口からもわざわざ言及されたということは、実際にそれが俺の得意分野だということなのだろう。
「というわけだ。特にこだわりがないのなら、この大剣を主力武器にするのをお勧めするよ。実戦で運用して足りないと思う部分があったなら、その時は別の武器を試すなり、副兵装を増設すればいいからね」
「そうですね。そうしようと思います」
「よし、決まりだ。あとは鎧装の方だけど……君の適性に合うのはこの辺りかな。外観と性能、どちらを重視しても構わないから、好きなものを選んでくれ」
「はい!」
それから、スイの助言ももらいつつ、たっぷり時間をかけて鎧装を選定した俺は、長く滞在した工房を後にするのだった。




