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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第13話 心身を改めて


「ん、んん〜……っ」


 ゆっくりと開いたポッドの中で、俺はぐっと伸びをする。

 機械の身体に凝り固まるという概念があるのかはわからないが、無意識に染みついた一連の動作は、なんともいえない心地よさを感じさせた。


《おはようございます、チヒロ。改修作業はつつがなく終わりましたよ。そちらのほうも、基礎講習は無事に修了できたようですね》


 起き上がったポッドから身を乗り出すと、ホログラム姿のマザーがねぎらいの言葉をかけてくる。

 

 夢を通じて行われた基礎講習は、基礎というだけあって、初歩的な知識を補うのに十分なものだった。

 鎧装機兵の基本理念――ここはマザーやスイから聞かされたものと大きく相違はなかった――に始まり、調査や戦闘、未踏域開拓や市民交流など、主だった任務の概略解説など。最後の方では、任務で運用するいろいろなデバイスの使い方を実践形式で学んだりもして、非常に身になる時間だった。


「おかげさまで、ためになりました。戦闘に関して学べなかったのは、ちょっと残念でしたけど」

《〈ファイント〉……いわゆる敵性存在との戦闘に関しては、専用のシミュレーターか実戦での訓練となりますね。ただ、あなたの場合はまだ使用する外装も決まっていませんので、戦闘訓練はもう少し後になると思います》


 言われてみれば確かに、俺はまだ使用する鎧装すら決まっていないのだ。何をどう使うかも決まっていない状態で訓練するのは、流石に無理がある話だろう。


「あ、チヒロちゃんおはよー。手術は無事に終わった?」


 そんな話をしていると、スイ本人がひょっこりと顔を出す。


「スイ? そっちはもう終わったのか?」

「終わってるよー。もともと単なるメディカルチェックくらいしかやることもなかったから、けっこう早めに終わってたんだ」


 どうやらスイは、全身に施術を行っていた俺とは違い、検診だけして終わりだったらしい。詳細な時間はわからないが、口ぶりから察するにまあまあの時間待たせてしまっていたようだ。


「そっか。ごめんな、待たせちゃって」

「いいよー、気にしないで。それよりも、はいこれ」


 言うが先か、スイが俺に大ぶりなカバンを手渡してくる。

 開いた口から中を覗いてみると、そこに入っていたのは服らしきもの。確認がてら小さいのを一枚引っ張り出してみると――()()()()()()()()()()()が姿を現した。


「あー……これはどういう意図のもので?」

《そちらは、私からの支給品となります。今後コロニーの中で一般市民と生活を共にしてもらうことになる以上、いつまでもあの入院着で過ごしていただくわけにはいきませんからね。最低限ではありますが、着まわすのに困らない程度の分は支給させていただきます》


 スイに変わって答えたマザー曰く、この衣類は生活必需品としての支給らしい。

 最低限とはいえ用意してくれるのはありがたい。の、だが……指先に引っ掛けたこの小さくて薄い布(女性用の下着)は、元男にはちょっと刺激の強い代物だった。


「……一応聞くんだけど、男物を着るって選択肢は?」

「だめだよー」

《ありませんね》


 ささやかに抵抗してみるが、声をハモらせた二人にバッサリと切って捨てられる。


《これから先、あなたには鎧装機兵という名の女性として生活してもらうことになります。心身の乖離を埋めるためにも、可能な限り女性としての所作を身に着けるようにお願いします》

「ほらほら、教えてあげるから着替えよーよ。いつまでも裸んぼのままじゃ風邪ひいちゃうよー?」

「ぐ、ぐぅ……」


 二人がかりで諭された俺は、しぶしぶスイの手ほどきを受け入れ、未知の装備(ふく)を身にまとうこととなった。





 

「うー……背中に金具が当たってるのが凄い違和感……」


 メンテナンスルームを退出してからずっと付きまとう「ブラジャーの違和感」に、歩きながらもぞもぞと身じろぎする。


「そのうち慣れるから大丈夫だよー。どうしてもっていうなら別のに変えてもらうこともできるけど、まずはスタンダードなタイプに慣れた方があとあと楽だよ?」

「まぁ、それはその通りなんだろうけど……」


 スイに諭されるものの、それで違和感が気にならなくなるわけもない。

 なおも背中に手をまわしてもそもそしていると、その様子が可笑しかったのか、スイが苦笑を漏らす声が聞こえた。


「……そういえば、これから〈工房〉に行くってのは聞いてるけど、なんで街の方へ向かってるんだ?」


 背中の金具の位置を調整しながら、ふと気になったことを聞いてみる。


 マザーの案内曰く、これから俺は〈工房〉と呼ばれる施設へ向かい、そこで戦闘用の装備――いわゆる〈鎧装(がいそう)〉を見繕うことになっている。

 今歩いているのは、その工房へ行くための通路なのだが、近場の案内板を見る限り、どうもこの道は人々の住まう街へと通じているらしい。


「工房は軍事区画(こっち)じゃなくて、街を挟んだ反対側にあるんだよー。街のインフラを支える工業区画の中に併設されてるから、街を突っ切るのが一番手っ取り早いんだ」

「あぁ、だからいったん街に出ようとしてるのか」


 スイの説明に、納得の首肯を返す。

 鎧装機兵(メタルイェーガー)関連のあれこれは軍用区画の中で用事を済ませることになると思っていたので、なおさらこの道を通ることに疑問があったのだが、蓋を開けてみればなんて事のない理由だったようだ。


「それに、工房は人間の職人さんが働く場所だからね。機兵しか使えない軍事区画には置けないんだ」

「……え? 工房って、普通の人間が働いてるのか?」

「そうだよー。というか、わたしたち鎧装機兵の装備は基本的に、工房で働く人たちが設計開発してくれてるものなんだよ」


 続くスイの解説に、思わず関心の声が漏れる。


「そうなのか……機兵(イェーガー)に関することはマザーが一括で管理してると思ってたけど、そういうわけでもないんだな」

「昔はその通りだったんだけどねー。でも、『人間の叡智なら私に作れないものも生み出せる』ってマザーが言ってたのと、人間さんたちが『俺たちも守られるだけじゃいられねぇ!』って声を上げたことで、今のしくみができたって感じなんだ」


 確かに、人間の豊かな発想力は、時に常識の埒外へ飛んでいくこともある。それが自分たちの生活を豊かにし、未来を切り拓くことに繋がるとなれば、奮起するのも理解できる話だった。


「ってことは、これからその人間の職人さんに会うことになるのか」

「そうだねー。わたしもお世話になってる人だよ。ちょっと雰囲気は怪しいけど、すごく気さくな人だから安心していーよ」


 なるほど、スイが日頃世話になっている人物というなら安心だ。

 これで頑固一徹なオヤジが出てきて「お前のようなどこの馬の骨とも知らん奴にうちの技術は使わせん!」なんて言われたらどうしようかと思ったが、口ぶりからして少なくともそういう人物ではないのだろう。


「ついでだから、道中でコロニーの中も案内するね。あんまり寄り道はできないから、サラッとになっちゃうけど」

「いや、助かるよ。どこに何があるのかだけでもざっくり把握できれば充分だ」


 そんな会話を交わしていると、長い通路の終端に大きな隔壁扉が姿を表す。

 初体験と称するスイに促されるまま、扉の脇に設置された端末へ片手をかざすと、電子的なジングルとともに端末の表記が変化。ついで、ガコンと音を立てながら、目の前の隔壁扉がゆっくりと持ち上がっていく。


 眩く差し込む外の光に目を慣らしてから、改めて視界を正面にやると――


 

  そこに広がっていたのは、想像よりもはるかに大きな「街」の光景だった。


「お、おぉ……!」


 どうやら、俺たちがいるのはやや高台となっている場所らしい。

 ちょっとした広場を挟んだ眼下には、大小も外観も様々な建造物の群れが、所狭しと立ち並ぶ光景が広がっている。

 頭上を見上げてみれば、格子状に組まれた骨組みがドーム状に張り巡らされていて、その向こうには気持ちの良い青空が広がっていた。

 

「ここが、このコロニーの主街区だよー。上にあるのは天蓋の骨組みで、ドームの裏側に映像として空を投影してるんだ」

「あぁ、やっぱり映像なんだな。外から見た時と印象が違うから、もしかしてとは思ったけど」

「そうだねー。外から見えるのは分厚い防護壁だけだから、知らない人からすれば外と中の印象は新鮮かもね」


 解説するスイの先導に続いて、広場の端へ移動する。

 設けられた欄干の向こう側に目を向ければ、眼下に広がる往来をたくさんの人が行き交っているのが見えた。


「街はだいたい三つの区画に分かれてて、あっちにあるのが居住区だよ。このすぐ下にあるのは商業区画で、ここをまっすぐ突っ切っていけば、目的の工業区画があるんだ」

「なるほど、わかりやすいな。……車がほとんど走ってないけど、移動手段は基本徒歩なのか?」

「普通の人は基本的に徒歩だねー。急いでる時や大荷物を運ぶ時は輸送機をチャーターとかできるけど、そこまですることは稀じゃないかな?」


 言われて空を見上げてみれば、昨日俺が乗り込んだものとよく似たティルトウィング型の輸送機が飛んでいる光景が目に入る。積載物まではさすがにわからないが、あれもこのコロニーで日常的に使われるもののようだ。


「とりあえず、今日は歩きで工業区画まで行こうね。ほとんど一本道だけど、これから通うことも多いだろうから、道は覚えておいた方がいいよー」

「だな。よろしくお願いします、先輩」


 はーい、と朗らかに笑うスイに続いて、俺は高台の広場を後にした。

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