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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第12話 機兵となるために

 


 ひと悶着ありながらも身支度を終えた俺は、手伝ってくれたスイの案内に従って、マザーの元へ向かっていた。

 行き先は、スイが「メンテナンスセンター」と呼ぶ場所。なんでも、そこにある機材を使って、俺のこの躯体(からだ)を鎧装機兵仕様に改装するのだそうだ。



「……ところで、朝からずっと付いてくれてるけど、スイは大丈夫だったのか?」


 案内に従うまま通路を進む傍ら、俺はふと気になったことを聞いてみる。

 こうして俺の世話を焼いてくれるのはありがたいのだが、彼女にも彼女の予定があるはずだ。ひょっとしたら、自由な時間の妨げになっているのではないか――と考える俺に、スイはやんわりと首を横に振って笑いかけた。

 

「わたしは大丈夫だよー。もともとチヒロちゃんにコロニーを案内してあげたいなって思ってたから、むしろちょうど良かったって感じかなー」

「それはありがたいけど……仕事とか予定とか、あったんじゃないのか?」

「んーん、もともと今日は休暇だよ。予定のほうも、今回は特になくてヒマを持て余しちゃうつもりだったからさ。わたし的にも、むしろ好都合だったってのもあるんだ」


 そう言って、スイは特に気負った様子もなく笑って見せる。

 言われてみれば、昨日マザーと対談する前の別れ際、マザーが「別命あるまで待機」のようなことを告げていたような覚えがある。それを踏まえると、少なくとも休暇期間であることに嘘はないのだろう。

 

「あと、わたしもそろそろ定期メンテナンスが近かったから、そのついでっていうのもあるねー」

「あぁ、そっか。スイもロボット……というか機兵(イェーガー)なんだよな」

「そーだよー。目立った損傷(ケガ)はしてないけど、躯体(からだ)の内側にダメージが入ってる可能性はなくもないからね。ちゃんと診て直してもらわないと、いざという時に困るかもしれないからね」


 こうして自然な受け答えをしていると、ついつい彼女がロボットであることを忘れてしまいそうな自分がいる。

 あるいは、もはや彼女を普通のロボットと定義すること自体が、すでに無意味なことなのだろうか……なんてことを考えていると、俺とスイは通路の終端へと辿り着いた。

 


 

《おはようございます、チヒロ。昨夜は眠れましたか?》


 自動でスライドしながら開いた扉の向こうに立っていたのは、立体映像で象られたマザーの姿。

 半透明の姿のまま折目正しく一礼し、妙齢の容貌に柔和な笑顔を浮かべるその姿は、正しくマザーと呼ぶに相応しいものだ。


「おはようございます。おかげさまで、ぐっすり眠れました。……機械の身体で眠るってのも、なんか変な感じではありますけどね」

《そう不思議なことではありませんよ。記憶領域の最適化(デフラグ)自己修復(オートメンテナンス)を行うためのスリープモードは、鎧装機兵たちにも備わっています。あなたのそれも、おそらくは似たような機能の一環なのでしょう》


 そんな雑談を交わしながら、マザーの後に続いて室内へと足を踏み入れる。


 室内にあったのは、横倒しの状態で整然と並べられた大きな機械たちだ。

 人間一人がすっぽりと収まるであろう角柱型の巨大な装置が、大きな空間に所狭しと並んでいる。同じような装置が部屋全体を埋め尽くすその光景は、ある種の異様さすら感じさせた。


《ここに並ぶ機械は全て、鎧装機兵の躯体を修理・調整するための〈メンテナンスポッド〉です。これからあなたには、この機械の中に入ってもらい、そこで機兵化の施術を受けてもらいます》


 マザーの説明に合わせて、手近にあったメンテナンスポッドの一基が、わずかなモーター音と共に起き上がり始める。

 やがてポッドが完全に起立すると、圧縮空気の抜ける音を響かせて、前面のハッチがゆっくりと上下にスライドしながら展開。中を覗き込むと、そこにはちょうど人一人が身体を預けるのに適したサイズの空間が広がっていた。


《チヒロはこちらのポッドを使ってください。スイはいつも通り、16号ポッドへ移動をお願いします》

「はーい。じゃあチヒロちゃん、終わったらまたここに集合ね」

「了解。また後で」


 ひらりと手を振り、目的のポッドへ向けて立ち去るスイを見送ってから、俺は改めて自分が入るポッドへと向き直る。


 このポッドへ入れば、そこから先に待つのは鎧装機兵として生きる日々だ。

 今にして思えば、我ながら結論を出すには早すぎたかもしれないとは思う。だが、そこに後悔の気持ちは微塵もなかった。


《さあ、チヒロ。心の準備ができたなら、ポッドの中へ入ってください。……それと、施術には邪魔となりますので、その服も脱いでから入ってくださいね》


 マザーに促されて、そういえばずっと入院着――昨日目覚めた時に身につけていた服を着たままだったことを思い出す。

 というか今にして思えば、俺は今に至るまでこの服を脱いだことがない。つまり、()()()()()()()を目の当たりにするのは、この瞬間が初めてということになるのだ。


「……着たままじゃダメ、ですよね」

《はい、脱いでください。心配せずとも、ここにはあなたが裸になって困るような相手は居ませんよ》


 せめてもの抵抗を試みるが、ややズレた回答とともにバッサリと切って捨てられる。

 そういうつもりで言ったんじゃない、と言い返したかったが、ここで問答していても始まらないので、諦めて飲み込むことにした。


 ……まぁ、これから先この身体と長く付き合っていくことになるというのに、いちいち恥ずかしがっていてはキリがないということは理解している。

 だがそれでも、いざ実際に脱ぐとなると、自分の身体にも関わらず、無駄に覚悟が試されるような、そんな気がした。


 ふぅ、と軽く息を整えてから、意を決した俺は――ぎゅっと目を閉じる。

 服の合わせに手をかけ、手早く上着の袖を脱ぐ。ついで下も剥ぎ取るように脱ぎ捨てると、メンテナンスルームに充満するひやりとした空気が、むき出しになった肌を撫でていくのを感じた。


 おそるおそる目を開けて、自分自身の首から下を覗き込む。

 視界に入る自分の身体は、自分が思っていたよりも細く、丸い。そして、人ならざる身であるというにも関わらず、細部――具体的には胸先やへそまわりなどに至るまで、人間の女性の形状が精緻に再現されていることがうかがえた。


「……機械の身体なのに、なんでこんなにいろいろ再現してるんだか」

《あなたの身体がそうである理由は、私にもなんとも。鎧装機兵は『生身の人間と同じ空間で暮らすこと』も想定した造型になっているので、もしかするとあなたのその身体も、同じような理念のもとに造られたものなのかもしれませんね》


 傍らでそう述べるマザーにあいまいな相槌を打ちながら、俺はあらためてまじまじと自分の身体を見やる。


 片手を持ち上げて閉じ開きしたり、片足を軽く動かしてみたり、お腹周りに手を添えてみたり。

 自分の意思に沿って動かすことでいくらか違和感は和らいだが、やはり「この身体は自分のものだ」という認識を確たるものにするには、今しばらくの慣れが必要そうだった。


「ま、ゆっくりと慣れるしかないか」


 時間以外の解決手段はなさそうなので、潔く諦める。

 今はそれよりも、鎧装機兵化の手術の方が優先事項だ。


 マザーの指示に従い、メンテナンスポッド内の空間へゆっくりと足を踏み入れる。

 体を寝かせるためのシリコン製クッションへ身体を預けると、開け放たれていたハッチがかすかな駆動音を立てて閉扉。ポッドの中が闇に満たされた直後、内壁に配されていた小さな照明が、ポッドの中を薄ぼんやりと照らし出した。


《施術の完了には、しばらくの時間が必要となります。その間、あなたの深層意識を利用して、鎧装機兵としての講習を行おうと思うのですが、良いでしょうか?》

「大丈夫です、お願いします」


 返答を告げると、「了解しました」という声を最後に、外部からの音声はぷつりと途切れる。同時に、かすかな揺れと共に、ポッドが元の角度へと戻りはじめるのがわかった。

 ゆっくりと重力の向き変わっていくのを感じていると、首の裏付近にカシャリと何かが接触。金属特有のひやりとした感触が伝わってきたのもつかの間、首裏にチクリと痺れのようなものが走った。


 とたん、強い眠気のような感覚に襲われる。

 ひょっとして、これが人間でいう麻酔なのだろうか――なんてことを考えるうち、俺の意識は転がり落ちるように暗転していった。

 

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