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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
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遺跡の痕跡 2


「ここが鉄の遺跡とか言う場所か。何も無いところだなぁ。」

「開けた土地だが警戒はしておけ、人気は無くとも野生動物が襲ってくる可能性もある。」

「あいあい。四周警戒、オヤジはお嬢さんたちについててくれ。」


カセさんに警戒を促され護衛部隊の歳若い兵士が率先して数人をつれて警戒にあたる。確か彼はカセさんと同じ傭兵部隊出身だ。


ポットを出発して数刻、何事もなく私たちは鉄の遺跡に到着した。


「カセも初めてなのかい?アンタが知らない場所があるなんて珍しいね。」


「国境付近ならともかくイ国はロ国への通り道でしか無かったからな。主要経路から外れてるこんな場所なんて来たことないさ。」


傭兵といえば国や商会に雇われる以外にも富豪の私兵や商隊の護衛など色んな土地に行くことが多いはずだ。でもここはイ国が管理する地で要件のないものは立ち入りを制限されている場所。管理を任されているのはポットの軍兵、今回の同行者で訪れたことがあるのは以前の旅で同行したキノさんの小隊とクマくらいだろう。


「これが噂の鉄だね。でも本当になにもないところだね。こんなところに何があるってのさ。」


「ナイルさん?」


「少し歩きます。」


各々に辺りを見回していた商隊や部隊の人を余所に私は簡素に答えた。


この地を鉄の遺跡と言わしめる鉄の床、以前見たときよりも真新しいグレーチンが増えている。しかも今度のはかなり範囲が大きめだ。そして何故か古びて錆びたものも増えていた。それらは以前にあった床の上に重なるように地面に横たわっている。

それ自体も奇妙だけれど私が注目するのは別のもの。そのグレーチングから伸びる轍にあった。それを追って山林の方へと私たちは移動する。


轍の太さから車輪幅は315ってところか。かなり重量があるのか沈み込みも大きく潰された草がまばらになっている。幾重にも重なっているのは移動した車が多装輪である証拠だ。しかも2台ぶん、いずれにせよ蹄の痕がないし、ウマで引くような車の轍ではない。


轍は山林の手前側で一度止まっていた。


「なぁに、この何かを引きずったような痕…」


「車輪の轍ですよ。」


「え、でもこの太さってあり得なくない?それに蹄の跡も残ってないし…」


ここで切り返して数日は停車していたのだろう。草が潰され、影に無っていただろう部分は芝がまだ寝ていることから、その様子が窺える。その範囲は10メトーはあるか、例え木製であったとしてもこの大きさの荷車を引くならウマが5頭以上は必要だろうが蹄の痕はない。


周囲には火を起こしただろう形跡もある。ここに誰かが滞留していたのは確かだ。しかし、その周囲に焚き木すら残っていないのは移動前に処理したのだろう。痕跡を最小限にする軍職の仕事に思える。


「この辺りです!この辺に背丈くらいの柱が立ってたんですです。」


少し離れた位置でオッゴさんが声をあげる。その場所一帯は草地が開け地肌が多い場所で、重量物を設置していたような形跡が見られる。四方の数十メトーに渡って芝が寝ており、草や土に黒く焦げた痕がある。


大きさ的には小型のミサイル…いやSLVだろうか。彼の指差す方向は上空に向けてまっすぐだ。出発の日に見た飛行機雲、私が見た時は少し流れていたけれど、あれがその軌跡であったなら若干東向きに向かっていた。それなら高高度上に何かを打ち上げようとしていたと推測するのが妥当だ。


「こーんな大きな虫があっちからぶわぁーって飛んできて奴らが前に降り立ったんですよ。ユーコン様は虫じゃないとか言ってたけど、ありゃ鳥って感じでもなかった。あんな化け物を使役しているなんてとんでもねぇ奴らですよ。」


オッゴさんが指さした方向はポットの町がある方向、おそらく虫でも鳥でもなく無人偵察機のことだと思う。足が複数ある型なら知らない人から見たら大きな虫のようにも見えるかもしれない。小型のプロペラ音は羽音にも聞こえなくもないし。


ここまでの情報を踏まえるとここに居た黒服の人たちは、近代装備を保持した軍隊の可能性が高い。しかも装備は装甲車2台にSLVにドローン、携行武器しか持ち得なかった襲撃事件の人たちより遥かに大規模だ。


それを今はユーコンさんが単騎で追ってる…


もう一つグレーチングからとは別経路で続く轍が残っている。これが今回移動した形跡だろう。東方向…この先にある大きな町はサーラン、そこから南にリーチェという町や国境沿いにも小規模な集落があったはずだ。


「こことかレンガか何かで抉ったようなものすごい轍だよ。」


「タイヤ痕ですね。荒れ地を走る仕様の溝模様です。」


「たいや…なに?」


湿っていたのだろう。深く抉れた轍が残っている。


「ウチの車の車輪にも溝が刻まれてるでしょう?あれと同じです。」


「いや、え?でもこれ…」


この世界の車輪はほとんどが木製、金属製の物も試作はしてみたけれど今の製造技術じゃまだゴムチューブが作れない。タイヤという概念がないから想像できなくても無理はない。そもそもウマで引く荷車の車輪とは大きさが桁違いだ。


「それで答えは出たのですか?」


「ええ。オッゴさん、書面…いえ玉を用意するので城都の騎士団へ渡してください。」


「今からですか?!」


「申し訳ないのですがポットから早ウマを走らすよりもここからの方が早いです。食料は私たちの分をお渡ししますので。」


案内の兵は3名。2名は城都へ伝達、1名はポットに帰還して貰って報告。ポットの兵士さんを勝手に使うのはネビスさんに嫌味を言われそうだけれど仕方がない。


私は腰に連ねた玉の一つを手に取り両手で全体を包むように握ると、その玉に向けて必要な内容を口にする。終えたらその玉を強く握り、今度は鞄から取り出した生地で包む。


「この玉をヴォルガ様へ。」


「この玉は…ってヴォルガ様って副団長ですか!?」


「ええ、渡せば使い方は解ると思います。ヴォルガ様が不在ならばアグニン様へ。」


「えっ、お、王様ですか!!?」


「議堂か王邸にいると思います。いずれかに確実に渡してください。」


オッゴさんは面喰いつつも了承すると包みを懐に納めすぐさま騎乗して、もう一人の兵士さんとともに城都に向けて走り去る。残る一人にも顛末をネビスさんに報告するよう伝えると早々にポットへと向けて走り去った。理解できなくても命令には即行忠実、如何にもネビスさんのところの兵らしい。


「パプゥガイの玉ですか…あんな高価なものを伝達に使うなんて豪気ですね。」


「内容が内容ですから。それに私の声であった方が書面よりも信頼できるでしょうから。」


パプゥガイの玉は音声を録音再生できる玉、『ぼいすれこーだー』みたいなものだ。でも高価で一般的に流通していない。だからこそ使い方が解る人物は限られるので信憑性や秘匿性も高まる。まぁパプゥガイは生息している地域が限られていているから本当に高価だったのだけれど仕方ない。ヴォルガ様に届いたのだったら後で返して貰おっと。


「そうですね…かなり無茶な内容でしょう。」


「でも先にユーコンさんの伝令も届いているでしょうし、ヴォルガ様ならなんとかしてくれるでしょう。私ができるのはここまで後は任せて私たちはハ国へ向かうとしましょう。」


そう言いつつ私は東へ続く轍に目を向ける。少しズレた位置に残る二本足ウマ独特の蹄跡が残っている。


きっと大丈夫、そう簡単に死ぬような人じゃない。


私はほんのちょっと、本当に少しだけ気に掛かりつつ、車への踏み台に足をかけた。


ユーコンが立ち去って2日が経過しています。使節団が無ければナイルは大軍を率いてユーコンを追おうとしてヴォルガあたりに叱られてたでしょう。


次回は本隊と合流、国境手前の町が舞台です。

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