遺跡の痕跡 1
まだ薄暗い頃にポットを出発する。同行する工員は車の引手4名のみ、護衛部隊はカセさんたち元傭兵の部隊とウィリュイさん、車2台計11名と少数だけれどその方が足が速い。案内としてオッゴさんという兵士さんが同行してくれる。
城都から来た道を半日ほど戻り、森と山地を抜けて途中の草原で東へと道を外れる。もう暫くして丘陵を超えると鉄の遺跡が見えてくるはずだ。車内にはウィリュイさんと私だけ。引手はウカヤリさんとシルダリアさんが、クマには本隊同行の商隊を指揮して貰っているので今は別行動だ。
「すみません、ユマがいつの間にか荷に紛れ込んでいたようで…」
車内の一角はネコが我がもの顔で占有してしまっていた。
「構いませんよ。」
元貴族の人には獣の匂いを嫌う人もいるけれどウィリュイさんは気にする様子はない。やはりネコ好きなのかもしれない。
「ウィリュイさんは遺跡には来たことはあるんですか?」
「いえ、ありませんね。他国へは行くことはありますがこのような場所は初めてです。」
「今回は何故、同行しようと?」
「特に理由はありませんよ。ただ役人たちと共にいるのに飽きただけです。」
意外な回答だった。私の中のウィリュイさんの印象は公私ともに固く真面目で融通が利かない人柄だと思っていた。存外に砕けたところもあるようだ。
「ナイルさんこそ遺跡には行ったことがあるので?」
「ええ、以前ユーコンさんとご一緒しました。金属の床が地に落ちているだけで特に面白みがあるような所ではありませんでした。」
「金属の床ですか…アレを『床』と評したのはナイルさんだけと聞いてます。ナイルさんから見てあの遺跡は何か思い当たる事があるので?」
「あの形は私の記憶にある物と同じなんです。でも他はまったくわかりません。誰が、なんのためなのか、どうやって運んできたのか、どうやって造られたのか、そもそも本当に床としての用途なのかも。」
数十年単位で増え続ける、それがいつから続いているのかすらわからない。朽ち果てて地中に埋まってしまっているものもある。
「貴方が意外に知らないことが多いってのは知ってますけれど、まったくというのは珍しいですね。」
「皆さんそう言われますけれど、私知らないことの方が多いですよ?」
「確かに普段の貴方を見てるとこの世界のことは知らなさすぎる部分はありますね。でもそんな貴方だからこそ解ることもあるのでしょう。ユーコンもそういう所を貴方に期待しているのでは?」
「期待に応えれると良いのですけれどね…」
正直いって鉄の遺跡についてはまったく想像さえつかない。あの遺物と言われている物がグレーチングなんだろうってことは解るけれど何故それがここにあるのか、どこから来るのか想像さえできない。
ただ今回はそんなことはあまり関係ない。
ユーコンさんと同行した兵士さん、特にオッゴさんの話す内容は実際に目にしたものの自分でも理解できていない様子だった。空を飛ぶ大きな虫、煙をあげて空へと向かって飛ぶ柱、建屋程の大きさで引手もなく自走する車、これらがかつての南門襲撃事件の時と同じ姿恰好をした人達が関わっている。彼らの一部が抱えていた黒い長物というのも襲撃者が持っていた小銃の特徴と一致する。あの私しか知らない夢の世界の国の名前が刻まれた銃だ。
「以前の城都を襲撃しようとしていた者達にも心当たりがあるとは聞いています。たった数人で騎士2名の犠牲とその他数十の衛士が怪我を負った。でもその程度です。ロ国以上の脅威とは大きすぎる気もしますが…」
「目的はわかりませんが、以前の襲撃者たちも、もっと脅威になり得るものでした。彼らの装備なら夜間に隠密に行動していたのなら被害はあの程度では済まなかったはずです。」
「それは騎士団の報告書でも記載されてましたね。最初は半信半疑でしたが貴方が彼らの武器を参考にジュウを造り出した時に理解しました。でも何故彼らはあんなにも堂々と昼間から襲撃に来たのでしょう?」
「それは…」
彼らの目的はわからない。でも一つだけ仮説をたてるとするなら…
「その理由があった。堂々と正面から昼間に現れる理由となると…」
「交渉でしょうか?」
「…はい。彼らに戦闘の意思は無かった可能性があります。武器を向けられ仕方なく抵抗した可能性…あまり考えたくはないですけれど。」
以前、彼らの目的を考察したことがある。結果として辿り着くのはその答えだ。ただ戦闘になり犠牲者が出たのは事実。お父さんだって危なかったんだから彼らを庇う必要はない。交渉であるなら武器を使用した時点で決裂したのだ。
「確かにジュウを持った輩が町に意図を持って攻撃を仕掛ければ甚大な被害が出るでしょう。でもそれが『戦争』以上の脅威ですか?」
「現状では何とも言えません。けれど本当に彼らと同じ輩なのであれば以前以上の脅威があるというのは確かでしょう。」
ユーコンさんとオッゴさんが目撃したという情報、私の知る世界の住人なのだと仮定すると彼らが見たものは、無人偵察機、ロケット、自走車両だ。人数も以前の倍、想定される行動範囲は桁違いだ。そして何よりも懸念されるのは彼らが尖兵である可能性があること。その背後に主力本隊がいないとは言い切れない。
どうやって彼らがイ国領地に侵入したのかわからない。そもそもこの世界とあの世界はまったく別物だと思っていた。それこそ今ではあちらの世界は本当に私の夢だったのではないかと思うくらい。でもそれを証明する証拠が有る以上、認めなければならない。本当に車両があるということは物理的に移動ができる可能性も考慮しなくてはならない。
「ナイルさん。」
「はい?」
少し考え込んでいたようだ。気がつくとユマが私の隣に移動してきて丸まっていた。
「考えすぎたところで解決するものではないのでは?ユーコンが権限をナイルさんに投げた以上、騎士団の出動は貴方の判断次第ですが現状では判断材料が少なすぎる。」
「そう…ですね。有難うございます。」
ウィリュイさんの言う通りだ。現段階で答えを出すことはできない。もしかすると思い過ごしの可能性だってある。
けれどたぶんユーコンさんは間違ってない…
ユーコンさんは私の夢の話の内容を知っている。拳銃や気球というこの世界には存在していないものも実際に目にしている。
そして、なにより私のカンが警鐘を鳴らしている。
今だけは自分のカンがハズレて欲しいと願うのだった。
前回から2か月が空いてしましました。更新を再開します。ボチボチ書いてはいたのですがどうも納得できない仕上がりで…やはり一時書いてない期間があると駄目ですね。
ハ国編はナイルとユーコンの視点で話しを進めるつもりです。とはいえまだハ国にも辿り着いていませんが…




