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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
309/313

騎士の要請


「よく来たわね。待ってたわよ。」


ポットに到着して領主館に入った私を待ち受けていたのはこの町の主であるネビスさんだった。


ネビス=ククーロ、元騎士でドニエプルさんやユーコンさんとも旧知の人だ。一見物腰が柔らかそうに見えるけれど実は理想の邪魔となるものなら排除も辞さないという徹底した全体主義な人だ。今は友好な取引相手だけれど油断がならない人でもある。そんな彼の館は以前に立ち寄った時と変わらず派手な装飾や風変りな調度品が置かれている。むしろ前より増えている気もする…


「ごきげんようネビスさん。わざわざ出迎えまでして頂けるなんてどうなされたのですか?」


「んー…そうねぇ…」


言葉を濁らせながら同行する議員たちに視線を巡らせる。何か内密な話があるらしい。


「あとで私の部屋に来てもらえるかしら。まずはあの人たちにご挨拶と案内をしないとね。」


彼はそういって手の平をヒラヒラとさせて議員たちの方へを足を運んでいった。私はなんだろうと思いつつも一部の荷下ろし等工員たちに指示を出す。今後の予定をヘルィとカマロさん、ウィリュィさんとも調整をしてから用意された客間へと移動した。


……


「ウカヤリさん、申し訳ないのですけれど私と同行して貰っても宜しいですか?」


「ううん?良いけれどどうしたの。」


「今回は私には専属の護衛が居ませんからね。ウカヤリさんなら戦力もポットの町に精通してる点でも申し分ないので。それともどこか行く予定がありましたか?」


ウカヤリさんは以前ポットの町に住んでいた。この町でウチの商会で勧誘して工員になってくれた人だ。少なからずこの町にも知り合いがいると思う。


「特にないよ。この町も以外に住み心地は悪くなかったけど腰掛けで居ただけで思い入れもないからねぇ。」


うーん、この町の住み心地が悪くないってウカヤリさんらしい。


勧誘した後に解ったことだけれど彼女はこの町で娼婦として働いていたけれど、その実は自分が認めた人しか相手にしない、どちらかというと娼館の用心棒としての役割が強かったらしい。


確かに彼女は強い。その辺の兵士さんでは相手にならないし、騎士さん級かもしれない。元来の身体能力が桁違いなのだ。

彼女の種は不明、彼女が言うには孤児で両親の記憶もないからわからないということだ。尻尾や耳の形からクマと同じサシャっぽいけれど、それとも少し違う気がする。サシャ自体が種として希少な方だけれどクマは身軽なだけで力は人並だ。大柄でもない彼女の剛力をみるに別の種っぽい。


そんな彼女と一緒にネビスさんの待つ部屋へと向かう。彼女は以前はカセさん率いる傭兵団にいたこともあり、ロ国戦では私たち侵攻部隊と別行動だったけれどかなりの活躍だったらしい。扉の開け方、歩く時の立ち位置、どれも騎士の護衛と遜色ない。


「やっぱりウカヤリさんに同行をお願いして正解ですね。戦後に騎士団からも勧誘があったと耳にしましたけれどなんで断ったのです?」


「そうねぇ、私は戦うのは得意だけれど別に好きってわけじゃないのよ。報酬も今と大差ないし、お陰様で今の立場にはそれなりに気に入ってるからねぇ。」


「それは皆そうでしょう。好き好んで戦おうって人は珍しいと思いますよ?」


「そうでもないのよ。たぶんもうすぐ知ることになると思うけれど。」


??


彼女の含みのある答え方に少し疑問を感じ、尋ねようとしたものの、正面からミバーンガム氏が側仕えと共に歩いてくるのが目に入った。


「ミバーンガム様もネビスさんにご挨拶に?」


「ああ、商いの話も兼ねてな。ナイル嬢も同じようなところかね?」


「そんなところです。」


彼とはここまでの旅路の途中に何度か話をしているけれど、その内容の殆どは商いに関するもの。城都で主要な木石材商であるウルペ商会はホシノ商会とも取引がある。ウチで材料として使う木材や石粉は彼の商会のものだし、商会の建屋も彼の商会系列の工房が入っていて、その系列工房はイ国からも直注を受ける老舗だ。その商主も今回同行するランマゼ氏なのだからあまり私も下手な対応はできない。


「ふむ、正直これ以上ホシノ商会にだけ鉄を回されてはウチも困ってしまうのだがな。」


「そこはご心配なく。今は復興、拡張が優先なのは私も理解しています。とはいえ軍事以外にも鉄は多用するので減量するわけにもいきませんが…」


染色衣類や加工食品部門はともかく軍事と通信は鉄が無ければ立ち行かない。戦前からネビスさんから.は優先的に良質な鋼や鉄を回してもらっていた。想定していたロ国との戦も終わり、戦時特需はもうない。それでも鉄や錫胴はいくらあっても足りないくらいだった。


私の返答に彼はこちらを見定めるように見つめながら口を開く。


「理解しているようで助かる。まぁ君の商会が大きくなれば我が商会にも旨味はあるのだから問題はないのだがな。」


そういって彼は私の肩を軽く叩いて去る。

彼の言葉は商いとしては別に構わないが、国として考えろという議員の立場でのことだろう。アグニン様とは対立してるというからどんな人かと思っていたけれど中々どうして…どうやら老舗商家とはいえスースやハンジールのような人たちばかりでもないらしい。


「…ちょっと臭うね。」


「え?」


「あの手はあんまり信用しちゃだめよ。」


「どこか不審なところがありましたか?」


「うぅーん…カン?」


そんなウカヤリさんの意見に少しズルっと肩が落ちそうになるけれど、私の今の立場は複雑だから確かに警戒しておくに越したことはない。彼らに対してアグニン様やヴォルガ様からは忠告は受けていないけれど無難な対応に徹しておくのが良いだろう。




……


ネビスさんの部屋の前で兵士さんに声をかける。兵士の一人が部屋に入り、暫くして私たちも部屋の中へ通された。


「あら、やっと来たわね。」


「改めてお久しぶりです。1年ぶりくらいですか。」


「もう、ナイルが来ないからお陰であのミーバンガムの話が終わらなかったじゃない。」


「すみません、騎士たちとの調整が長引きまして…。ミーバンガム様とは何のお話をされてたんですか。」


「商いの話、それとちょっとばかり政治のお話ね。そのうちナイルもわかるわよ。」


「どういうことでしょう?」


「そんなことより、ちょっと急ぎで見てもらいたいものがあるものがあるの。」


側仕えさんから木札を手渡されたことで話を逸らされてしまった。仕方がないので数枚の木札に目を通していく。


「今から3日前にユーコンが鉄の遺跡に向かったわ。許可なく遺跡に進入滞在してる一団の監視と拘束が目的だったのだけれど、ユーコンは到着とほぼ同時に城都からの騎士団中隊規模を支援を要請、翌日にはその指示を撤回、待機に切り替えたわ。」


「え、ユーコンさんが?」


ポットにいると聞いていたからどこにいるのかと思ってたけれどすれ違いだったらしい。そんなことよりも騎士を中隊のみで中隊規模なんてロ国戦ですら編成されたことがない規模、尋常では無かった。


ユーコンさんの文字で書かれた木札からはその一団というのが危険であること以上のことはわからない。最後の木札を開くとそこには私の名前がかかれていた。


『ナイル=ホシノの所見を要請、騎士派遣の判断については彼女に委託する。』


……やってくれるなぁ。

騎士からの要請はイ国からの公式な要請。私は断れる立場にない。ユーコンさんのことだからたぶん解ってやってる。けれど使節団はアグニン様の依頼だ。普通に考えれば優先すべきはそちらだけれど…


「ホントあの人は、こっちもやる事あるっていうのに…」


「あの人ねぇ…一応ユーコンも王族の血筋よ?」


「そうなんですけど…いいんですよ。なんだかそんな気配ないですし、本人もそういう気は全くないみたいですから。」


「ふぅん、ユーコンのことよく解ってるのね。」


「まぁそこそこ長い付き合いですし…」


私もちょっと雑かなーって思う時もあるけれど、ユーコンさん本人もそれを望んでる…ような気がするのでそれでいいんだろうと思ってる。何より私も今さら畏まった扱いなんて、なんか気持ち悪い。


「でもヴォルガだって長いでしょ?」


「ヴォルガ様はまたちょっと違うっていうか…」


「どう違うの?」


なんていうか今日のネビスさんってぐいぐい聞いてくなぁ…そんな柄だっけ?ちょっと面倒くさいなぁと思いつつ答える。


「そうですね。ヴォルガ様は優秀で頼りになるけれど、どこか心配になる…弟みたいな感じでしょうか。」


「…ぷっ、くく…」


ネビスさんは反対側に顔に向けて肩をヒク付かせている。私なにか面白いこと言っただろうか。


「はぁ…そうね、貴方ならそう言えるかもしれないわね。まぁいいわ。それでユーコンのことなんだけれど…」


ネビスさんは目尻に少し涙が残ったまま話を続ける。


「一緒に同行していた兵から聞いた話だと結構やっかいそうなのよね。それも急ぎで対応が必要そう。肝心の本人は一団を追って東に向かっちゃったみたいだし。」


「急ぎでって、私今からハ国への旅路の途中ですよ?他の人たちにも迷惑かけれませんよ。」


そうは言いながらも私はどうやったら遺跡に行けるかを算段していた。どちらを優先すべきかはわかっているけれど無理をしたら対応できなくもないと思う。なにより騎士団を中隊規模なんて尋常じゃない。わざわざユーコンさんが私を巻き込むのだから何かそれだけの理由があるような気がする。


鉄の遺跡はポットからは少し城都、今まで来た道を戻らないといけない。進行は予定より半日早い。この進行速度なら明日はゆっくりと出発してもいいと思う。けれどポットから遺跡までは往復1日はかかる。それに遺跡へ様子を見に行くだけのことに他の人たちを巻き込む訳にもいかない。行くとしても工員と部隊を含めても1小隊規模、それに別行動をするならヘルィたちと調整が必要だ。


「それで、どうする?」


「…なんとかするしかないでしょう。不本意ですし、仕方なくですけど!」


「ふふ、よかったわ。じゃあユーコンに同行した兵たちを呼ぶわね。正直、私が聞いても全然理解できないけれどナイルなら何か気が付くこともあるかもだから。」


「はい、お願いします。」


ヘルィたちに相談するにしてもまずは状況を整理しないと。


……


「俺は反対だ。」


ユーコンさんの要請について相談するため私の部屋にヘルィとカマロさん、ウィリュイさんに集まって貰った。私が話終えて最初に発言したのはヘルィだった。


「まず俺たちの任務はこの使節団の護衛だ。危険性が増すようなことには賛成できない。別働隊を組むというならそれは使節団とは関係のない行動ということになるから俺たちは支援できない。つまりナイルたちだけで動くことになる。」


「それはわかってるよ。でもさっき話した通りユーコンさんの依頼も放置できなさそうなの。だから私たちはウチの商会の2台、護衛部隊も1小隊だけいいよ。」


「わかってるのかよ?矢1本でも通れば危ないって言ってたのはお前だろ。大丈夫なのかよ。」


「うん、わかってる。でもウチの工員たちは訓練も受けてるし、少数の方が移動も速いからいざとなっても逃げれるよ。どちらかというと規模の大きいそっちの戦力が減るそっちの方が心配なの。それで私たちが抜けても大丈夫そう?」


「…1日遅れで追いつけるって話が本当ならまだ国境手前だし、1小隊くらい抜けても何とかなるだろう。だけどその話、本当に今対応が必要なのか?ユーコンは急を要するとは書いてなかったんだろ?」


「うん、でも同行した兵士さんたちの話を聞くに放置してていい話じゃないって感じなんだよね…カマロさんとウィリュイさんはどう思いますか?」


カマロさんはヘルィと合わせるという。つまり反対だけれど、限定的であれば別働も可能。あとはウィリュイさんだけだ。


「私は…」


この使節団護衛の責任者は騎士二人と公人代表のウィリュイさんだ。彼が否定するなら使節団としての任務を優先しなければいけないだろう。


「よければ私も同行させて貰っても宜しいですか?その一団っていうのはいつかの襲撃事件と同じ姿だったのでしょう。」


「えっ、いいですけれど…ヘルィたちも言った通り少数ですから何か起こっても安全は保証できませんよ?」


「それで構いません。では私もナイル嬢に同行します。」


ウィリュイさんが同行するのは意外だった結果だった。でもこれでユーコンさんの要請に応えることができる。ウィリュイさんは非戦闘員だけれどロ国戦でも私たち侵攻部隊と同行していたし、一人くらいなら問題ないだろう。


「本当にお前は護衛しがいのない要人だよ。だけど副団長にもお前の意見は騎士相当と考えるよう言われているし俺自身もナイルの意見は無視できないと思ってる。たぶんお前には俺たちが見えない何かが見えてるんだろ。」


ヘルィからちょっと意外なことを言われて虚をつかれた。けれどそれなら話は早い。


「うん、まだ確証はないけれどもしかしたら使節団どころじゃない話なのかもと思ってる。それこそロ国以上の危機かもしれない。」


「戦争以上って…ナイル嬢だけで大丈夫なのですか?」


「大丈夫、当の一団はユーコンさんが追ってるって話だから戦闘になったりはしないはずです。カマロさんは皆の護衛任務をお願いしますね。」


兵士さんたちから聞いた話は、どこまでが本当かわからないし、又聞きだけでは判断はできないけれど空を飛ぶ虫の使役、上空への何か打ち上げ、ウマを必要としない車、それらの内容は放置していいものじゃない。南門襲撃事件の再来…いやそれ以上の脅威となり得るものだ。

本当ならユーコンさん一人でどうにかなる相手じゃない。早めに対処する必要がある。


…少し焦っている自分を自覚する。でも今から遺跡に出向いても着く頃には陽は落ちている。焦ったところで結果は変わらない。冷静に…


「私たちは明日の早朝、陽が昇る前に出立します。ウィリュイさんは私の車と一緒の車に乗車をお願いします。」



新年明けてしましました…今年もよろしくお願いします(*_ _)



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