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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
308/313

道中


「さっきの停止はなんだったの?」


「ああ、ポットの兵だった。城都への早ウマだったらしい。」


私は車の帆窓から最後尾へと交代で来たヘルィと会話をしていた。


「早ウマ?何かあったのかな。」


「さあな。何かあったとしても今からハ国へ向かう俺たちにはどうしようもないだろ。まぁアグニン様も副団長も城都に残っているわけだし大丈夫だろ。」


城都を経って1日半、ポットへの中間地点は既に超えていた。以前は3日はかかった経路だけれど天候に恵まれたこと、以前に増して車の性能があがったことで明日の夕刻前にはポットへ到着できそうな進行だ。


「流石にこの人数だと匪賊が襲ってくることもないよね。」


「イ国旗も上げてるしな。ただ油断はできないがな。」


隊列は先頭と後尾に騎士であるヘルィかカマロさんが交代で就き、中央に護衛目標の役人と議員、その前左右は部隊を厚くし、最後尾は私たちホシノ商会という隊列になっている。完全にウチの商会は戦力として数えられてる配置だけれど実際、全員が最新の連弩を携行し実戦経験がある工員もいるウチの商隊は下手な部隊よりも戦力がある。それを理解してこの配置を決めたヘルィはやはり現場指揮官として才があるのかもしれない。


「確かにこの一行を襲うってことは相手もそれなりの勢力だろうしね。」


「その時はお前の魔法で頼む。遠距離で済ました方が被害が少ない。」


その言葉に驚いてヘルィに尋ねる。


「私に頼るの?」


「お前がこの中で最も遠距離での速攻に適してる。リデゴカーカ戦でのお前を知ってて、お前の力を使わない指揮官は無能だろ。」


今まで誰かに頼られることはあってもそれは軍略やその助言だった。戦いの場に出る時は不本意な状況や自発的なものだけ。本来は商会主でしかない私を『戦力』として頼ってくることは騎士団や軍部でさえなかったことだ。彼らとしても矜持があるわけで私を戦力として数えても最初から私を頼るようなことはしたことは無い。


「ヘルィは騎士なのに?」


「…矜持で仲間を守れるならそうする。だけど被害を最小に済ますならお前の力も最大限に利用するのが最適だ。」


私の皮肉に彼の回答は至極真っ当だった。でも騎士団でそれをハッキリと言い切れる人間はアグニン様やヴォルガ様も含めていない。やっぱりヘルィは他の騎士達と少し違う。彼の考えは私寄りの考え、彼にとって私は護衛対象である以前に戦力の一つなのだ。


「いいけど、魔法以外は人並以下だってことは忘れないでよね。矢の一本でも通れば命取りなんだから。」


「それは俺らの仕事だ。お前はお前の仕事をこなしてくれればいい。」


「仕事って私、今回は外交官役なんだけど?」


「お前らの商会の工員もいるんだ。任務じゃなくてもどうせお前はやるだろ。」


まぁそうなんだけども…さも当然と言われるのもなんかちょっと違うかなーって気がしてくる。そうとはいっても、いつもは私が同じ事を他者にしているので反論できる立場でもなかった。


ウカヤリやクマ、ウィリュイさんもリデゴカーカでの私の力は知っている。それだけでなくこの護衛部隊にはそれを知っている兵士さんたちが多い。でもそれ以外の人達はそれをまだ知らない。正直、どこまで表立っていいのかわからなかった。


「わかったけどリデゴカーカみたいなのはしないよ?『色々と』後片付けが大変なんだからね。またアグニン様たちに気を遣わせちゃう訳にはいかないでしょ。」


「へぇ、お前にも『周囲への配慮』なんて考えがあったんだな。大丈夫だよ、万の兵が押し寄せるなんてことあるわけないんだからな。矢手だけでもやってくれれば後はこっちでなんとかするさ。」


だいぶ失礼だな…と思うけれどお互い様。実際ヘルィのいう戦術理論は理解できる。ヘルィたち騎士は当然として実戦を経た今のイ国軍部の部隊が匪賊に劣ることはない。私がするのは遠距離攻撃の妨害だけで十分だろう。


「やっぱりヘルィって変わったね。昔は騎士然となろうとしてたのに。」


「お前のせいだよ。」


「へ?」


「自分のやり方じゃ仲間を守りきれなかった。お前のやり方は被害を最小限とした実績があるからな。」


あ、そういうことか…私のやり方を真似てるから私と似てるように感じたのか。でも騎士は近衛兵とか司法機関みたいな役割が強いのに私のような結果在りきのやり方で大丈夫だろうかとも心配になってしまう。そう思いながらヘルィの顔をじーっと見ていると彼はそっぽを向く。自分で言ったクセに照れているんだろうか。


「そんなことよりもだ。飼畜を連れてくるのは勝手だがちゃんと管理くらいしろ。野獣と間違われて狩られても知らないぞ。」


「え、何のこと?」


ヘルィは無言で人差し指を上に向ける。その向かう方向は私が乗っている車の幌の上だ。えっ、まさか…


私は前側の幌を開けて引手席の方に乗り出す。


「ナイルさん!?動いてる時に出てきたら危ないっすよ?」


そういうクマに天井を見たいと頼むと、引手をもう一人に任せて私を幌の屋根が見える位置まで慎重に持ち上げてくれる。


「何かいたっすか?」


クマの言葉をよそに私は目の前にいたその姿に私は驚いていた。


「…ユマ、なんでここにいるの?」


そこには家で待っているはずの黒く長毛のネコが澄ました様子で座っていた。


もうすぐ今年も終わりそうですね。ちょっと短いですが…


騎士として成長中のヘルィ、成長への糧に貪欲です。

次話も今年中にあげる予定ですが新年のご挨拶になるかも…ガンバリマス('ε`し)


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