遺跡の来訪者 3
少し時間が経ち陽の光によって空が紫に染ってきた頃、俺は奴らの建屋の様子を窺っていた。
ドン!ゴゴゴゴゴゴゴアァァァァァ……
突然、地響きと共に衝撃を受け、あたりに響く轟音が耳を刺す。あまりの出来事に咄嗟に望遠鏡から顔をあげる。
「な、なんだ!?」
「ユーコン様!あれです!」
オッゴが指差す方向に視線を向けると謎の土台の周りに白い煙が大量に立ち込めている。中央の背丈ほどの円筒の下には炎だろうか、眩い灯りが噴出していた。
すぐさま望遠鏡をその円筒に向けて再び除く、すると煙が舞い上がる中、今まで確かにあったはずの円筒の姿が見えない。
「ユーコン様!ユーコン様!」
肩を叩かれ「なんだ!」と顔をあげる。オッゴの向ける視線は俺でもなく土台のある地面でもない。そして今も上に向かって動いている。
振り返りその視線の先を追うと、そこには既に人の手では届かない位置まで飛び上がった筒が目に入った。更にその筒は火炎と白煙を伴いながらもの凄い速度で空高く上昇していく。俺たちは唖然としながらその行方を目で追う事しかできなかった。
筒と共に轟音が遠くなっても白煙は留まることなくどこまでも続く。東に流れるその行方を俺は目で追い続けていたが、あるところで一瞬強い光が走ったかと思うとその白煙が途切れた。
何が起こったのかわからない。言葉にすることもできない。だが確かに奴らは空に何かを飛ばした。ナイルの気球よりも遥かに速いものだった。
「ユーコン様…あれは何ですか…」
「知るか…あんなもの俺にもわかるはずないだろう。」
俺はそう答えながらも目線は空に消えた白煙の先を追っていた。
……
…
間もなくして奴らが建屋から出てきた。あれが何だったのかはわからないが、土台は回収するつもりらしく幾つかに分解して建屋に持ち運んでいた。
監視はオッゴに任せている。無駄口の多いヤツだが流石に今は言葉がでないらしい。
…俺は思い違いをしていたのかもしれない。
奴らが持っている武器や装備、南門襲撃事件のことも含め奴らの戦力を見積もっていた。ジュウとそれらを使いこなす輩の脅威、だが奴らの行動はそんな俺の推測を遥かに凌ぐ異常さだった。理解を超えた現象には見られているはずだったが、それをも凌駕した常識の通じなさだ。
危険などという言葉で表せるものではない。もしあんなものが我々や町に向けて撃ち込まれてみろ。それこそナイルが言っていたような…
『まったく見えない所から放たれた巨大な矢が空から飛んできて、その一つで数十、数百の人が亡くなるような世界』
聞いた時は非現実的と笑い飛ばしたが、アイツの話が現実味を帯びてくる。
奴らに対する考えを改めなければならない。奴らの目的が何にせよ奴らよりも大きな戦力で制圧したらよいと考えていたが、今のあれを見てしまった以上奴らが他にもどんな手を隠し持っているかわからなくなった。少なくとも力押しで進めるのは得策ではないように思える。
陽が昇りきる頃には奴らは土台だったものは全て回収を終え、周辺の野外に置いていた物品すら全て回収してしまった。汚物を捨てていただろう穴も埋めてしまう。これが兵団であれば移動前の準備だが奴らにはウマがない。あの建屋を放棄して徒歩で移動するつもりだろうか。それならば中を調べたいところだがそれよりも奴らの行方を追う方が優先か…
そんな事を思っていると途端、唸りをあげるような表現のしようのない音が耳に届く。また何か起こるのかと思って身構えて様子を窺っていたが、奴らは建屋に篭って出てくる様子はない。音は先ほどの円筒を飛ばした時の轟音に比べれば大したものではないが、この距離でも十分に届くほどではある。
ガァオン!ガァァォン!…ドロロロロロ…
耳に届く音は低音が続き、時たま唸りをあげる。どこから発しているのかわからない。少なくとも奴らの居る方向から聞こえてくる。そして一瞬音が小さくなったかと思うと信じられないことがまたもや起こった。
突然、10メトーはあろうかという建屋が動き出したのだ。あの何輪にも連なる輪が車輪であったのは予想通りだったのだろう。しかし、そんなことよりも問題なのはウマがいないことだ。何にも引かれている様子はないのに車が一人でに動き出したのだ。
ゴォォン…ゴオオォォォォォォォォ…
2つの建屋…いやアレは車なのだろう。最初はウマが歩くような速度、次第に駆ける程度になったかと思うと、途端にウマでも追いつけない速度となり遥か彼方へと走り去ってしまった。
「あ…れ…俺には引きウマが見えなかったのですが、見えなかったのは私だけですか…」
「お前の目は正常だ。俺も引きウマは見えなかった。わからんことだらけだが、説明できそうなヤツを俺は一人だけ知っている。」
とはいえ説明されたところでも理解できるとは限らないのだが…
俺は木札を二つ用意して書き記す。一つの宛名は城都宛て、騎士の要請を一時待機に変更する旨。そしてもう一つはその『説明できそうなヤツ』宛てだ。今頃はハ国に向かって城都を経った頃だろう。数日後にはポットにも立ち寄るはずだ。
書き終えると木札を布で包み、オッゴに手渡す。
「ネビスに必ず届けろ。俺は奴らを追う。」
「追うってどうやって…もう奴らの姿は見えませんよ?」
俺はその質問に奴らの車があった場所を指差す。
「見ろ、アレは相当に重いのだろう。強く轍が残っている。あの痕を追えば追いつくことはできなくとも辿ることはできる。」
「わかりました。必ず届けます。ユーコン様もご武運を。」
そう言い残し、すぐさま騎乗しポットへと向かって走り去るオッゴを見送った。そして俺もウマに跨り奴らの車があった場所へと向かう。
鼻につく何かが焼けるような臭いが残っている。どういう原理か不明だがアレは自走できる車であることは間違いがない。信じられないし、理解できないことだらけでも目の前で起こったことは現実だ。無かったことにはならない。
地面には思った通り、独特の形をした轍が続いている。これを追えば奴らの行く先に辿りつけるだろう。奴らが走り去った方向に視線を向ける。まっすぐ行けば山中、迂回しても峡谷だ。さすがにあのデカブツであの速度は維持できない…と思う。
正直、奴らの目的がつかめない。イ国の脅威となるかすらも不明だ。少なくとも奴らがどこかの町に接触すれば南門襲撃事件のようなことが起こる可能性は十分にある。目的がわからない以上、放置はできない。
またアイツに頼るのは癪だが、後の判断はアイツに任せよう。本当に癪なのだが…たぶんナイル以上にこの状況を適切に判断できる奴はいない。
俺は俺で今できることをするまでだ。
そう思いつつ俺は手綱を振った。
ナイルの行動を見慣れたユーコンでもさすがに目を疑う状況です。
次話からはナイル視点に戻ってハ国へ向け出発です。




