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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
304/313

遺跡の来訪者 1


「止まれ。」


「「えっ?」」


気の抜けた声が聞こえる。


「遺跡はこの丘の先ですよ?まだ500メト―はある。」


「だからだ。この丘陵を越えれば下りしかない。これ以上近づけば気が付かれる可能性がある。森を伝うのも有効だが、まずは相手の状況を確認する。」


「はぁ…」


兵からは生返事が帰ってくる。ネビスが付けた兵2名は察しは悪いが、ネビスが言うにはこれでも先鋭らしい。やや懐疑的だが、こいつらが言いたいことも理解できる。


『ここからだとこちらも相手の姿が見えないのでは?』と言いたいのだろう。

だが俺にはそれは関係ないことだ。


俺はウマから降りると兵には待機を命じる。荷の中から棒状のソレを取り出し、片手に持って丘陵を登る。念のため陽の角度を計算しながら影が相手側に映らないように気を付けた。


「黒ずくめの集団か。さて、どんな輩か…」


一人そう口にしながら稜線の手前についた俺はナイルから譲り受けた望遠鏡を覗いた。


まずは鉄の遺跡の中心、鉄屑がある所を覗く。あいかわらず短い草に埋もれた朽ち果てた鉄の塊が地面に横たわるだけ。

鈍いが陽を反射する光を確認する。あれが新しい鉄層か。

元々あった4つの鉄の層、その最も新しい層と同じ場所に確かに鈍く光る真新しい鉄塊が視界に映る。


たしかアイツが言うにはアレは金属でできた床だったか。鉄を床材に使うなど普通では考えられないが、アイツはあれは足場なのだと言った。鉄は網目の形状になっているが言われてみればその上に立つことができるし、床であるなら数百メト―あるのも頷ける。ただ、何故こんなところに、どうやって運ばれて来たのかまではわからないらしい。3層の確認が15年前、4層は数年内だろうとも言っていた。


ならば今回の出現は間隔が少し早い。そんなことを考えながらその周囲を確認する。本来4層があった場所に重なるように現れた新しい鉄の床、その周囲に線状の痕を見つけた。


何かを引き摺ったかのように長く伸びる痕が4本、部分的に重なっていて途中は草に埋もれている部分もあるので近づかないと詳細は不明だ。だが足跡ではないし、荷車の轍にしては大きすぎる。どこへ続くのかとその先を追っていくと、箱型の建屋を発見した。


…確かに建屋とするには少し異様だ。まず深い緑のそれは石材なのか木材なのか材質がわからない。外観も歪であるのにその造りは直線的で明らかに人工物である。なにより地面から少し浮いており着地しているのは大きく黒く輪となった円形なもの…まさかとは思うがアレは車輪か?


ホシノ商会の車の車輪を思い出すと、車輪の外縁には弾性のある特殊な素材が使われている。軍部に支給された靴にも使われていているが色は茶色に近く黒くはない。だが車輪の外縁に別の素材を使うことは共通している。

しかし、周りには車を引くウマの姿はない。何よりあんな巨大なものを動かすならあれが木造だったとしてもウマが5.6頭では足りないだろう。しかもそれが2棟だ。そんな大きな車を造る意味もないからあれはやっぱり建屋だろう。


車にも見える建屋は森沿いにある。周囲をくまなく探すがウマも兵が言っていた黒づくめの集団も見当たらない。位置的に森の中にいるのだろうか…


そう思いつつ流し見ていると一部の草枝が揺れた箇所を発見した。するとそこから黒ずくめの人物が出てくる。そして続いて数人の姿が現れた。素振りから何か会話をしているようにも見えるが…だがアレは人なのだろうかというのが最初の感想だ。


その姿は確かに頭部があり、二本の腕に二本の脚、人だ。だが全身黒い何かに覆われている。服にしては体の線が出すぎだ。それに頭部までもが黒く覆われている。顔が見えない。硝子か何かだろうか、光が微かに反射しているように見える。


確かにアレは異様だな。

異様な姿の集団に、異様な建屋。近づくとその姿は消え、人の気配がするのに姿は見えないとなると恐怖を感じるには十分だ。


何より俺はその異様な集団の手に持つ物に注目した。それは見覚えがあるものだった。


望遠鏡から視界を外し、兵の一人にこちらに来るように手信号をするとすぐに一人が近くに駆けてきた。


「今すぐにネビスに城都から騎士一小隊の派遣を要請するように伝えろ。」


「はっ、騎士を一小隊ですか!?」


「そうだ、軍部ではなく全て騎士でだ。装備も万全に整えろ。合わせて動けるのであれば軍部に打診して鉄砲隊も派遣してもらえ。」


兵が狼狽える。それを見た俺は木札を鞄から出して指示を走り書きする。こいつらはロ国戦に参加していないから鉄砲隊も実際に見たことがない。ちゃんと伝わるか懐疑があった。

指示を書き記した木札を布で包むと兵に渡す。


「これをネビスに渡せ。それで伝わる。行け。」


俺がそれだけを言うと兵は敬礼だけして、すぐにウマに乗りポットへ向けて走らせた。

状況が理解できなくとも、すぐさま指示通りに動けるという点は確かに他よりも優秀な兵なのかもしれない。


その姿を見届けて俺はまた望遠鏡で奴らの姿を確認する。同じ姿の者が9人まで増えていた。どうやらまだ俺たちは気づかれていないらしい。少しヒリついた自分を落ち着かせ再び気配を消す。


その手にあるもの、それは騎士棟の雑品庫で見たことがる。直接アイツに聞いたわけではないがヴォルガに聞いた話ではあれは『ジュウ』だ。


城都に帰れる状況ではなくなったな…今回は長期戦になる、そう予感していた。




……



ジュウとはナイルが開発した魔法で爆発を起こし、弾丸と呼ばれる鏃を放つ遠距離武器だ。その威力は絶大で、ロ国騎士の分厚い鉄鎧さえ貫く。だがそれを使うには魔法の適正が必要で使いこなせる者は限られる。


試してみたが俺には適正は無かった。だが俺にはナイルから貰った拳銃がある。これは魔法の適性など関係なく誰でも使えるものらしい。原理が禁忌に触れるためそれを俺が持っていることは他者には秘密にしてある。


これが俺が知っているジュウの特性だ。だが、奴らの持っているものはその『元』となったもの。アイツは騎士棟の雑品庫に置かれてある用途のわからないアレを見てジュウを造りだしたと聞いている。元々は南門の襲撃事件の犯人たちが使っていた武器だ。


その原理はナイルにもわからないらしく、アイツでも使用することはできなかったと言っていた。アイツにもわからないことがあるのかとその時は思ったが、今俺の前には実際にそれを手にしている集団がいる。


見たことがない黒く薄い生地の装具、顔まで覆った兜は顔面部が硝子で出来ているというところも話で聞いた南門襲撃の輩と同じ特徴だ。何より奴らには尻尾が見当たらない。耳は兜で確認できないがきっと全員がレタルゥだ。一致している。


「あの…ユーコン様。あいつらは何者なのです?」


残った兵が戸惑いながら問う。尋ねていいのか迷っていたのだろうが流石に、理由も解らず数刻も経てば疑問の一つも出てくるだろう。泊りがけの監視になることは既に告げていた。


「城都南門での襲撃事件を知っているか?」


「はい、噂で聞いた程度ですが。確か正体不明の集団が現れて衛士と騎士が対応し、騎士が犠牲になったと…」


「その一味と奴らは同じ特徴だ。」


「え!?まさか奴らがそんな危険な輩だったとは…」


「まだ可能性があるというだけだ。ただもし本当なら少なくとも俺たちだけで相対していい連中ではない。」


彼は驚きつつも、尻尾と耳の動きから恐怖する様子はみえない。虚勢であるかもしれないが、この兵もポットのその他大勢のボンクラ兵どもより多少は優秀なようだ。


「でも、もしそのような輩であるなら何故このような何もない場所を根城にしているのでしょう。城都を襲うような連中なのでしょう?」


「わからん。現時点では奴らの目的も敵か味方かさえ不明だ。だからこそ動向を監視する必要がある。」


少なくとも直接相対するのはこちらの戦力が同等以上でなければ避けたい。南門襲撃の際は衛士20名近くと騎士3名で対処したと聞いた。結果は、衛士の半数が負傷、騎士2名が犠牲となった。生き残った騎士がレナだ。そしてその件に関わった一般民というのがナイルだった。

ヴォルガの作成した調査報告ではどこから来たのか、目的も不明。見た目は人の外見をしているものの死しても空に還ることは無く、本当に生物であるかどうかも怪しいという見解だった。ナイルの具申で残った死体はイズニェーネと同じ処分をしたと聞いている。

一部見解ではコフの新種ではないかという意見もあったが、コフが衣服を身に着け尚、我々も知らぬ武器を手にするなど考えられない。ヴォルガはナイルが言う通り間違いなく人であろうと言っていた。


そして今、先にいる連中はその特徴が一致する。動きは少し緩慢、報告でも相手の動きが緩慢であり、近接戦闘により対処が可能であったとされていた。

今のところ確認できたのは10…いや11名だ。身体の線からたぶん9名は男、1名は女だ。残り1名は子供なのだろうか、背丈はナイルと同じくらいで、ここからでは性別までは判別できない。


この数刻、監視している限りでは何かを設置する作業をしているようにみえるがこの距離では声は聞こえず何をしているかまでは確認できない。だが今こちらに気づかれる訳にもいかず監視を続けるしか選択肢がなかった。


「暫くは張り込みだ。お前は仮眠を取っておけ、交代で見張るぞ。」


「は、はぁ…」


その時だった。何か遠くから異音が聞こえてきた。その音は奴らとは反対方向、俺たちが来たポットの方向から聞こえてくる。



ブゥゥゥゥゥ…



羽音のような異音が少しづつこちらに近づいてくる。それは空から聞こえてきた。そしてそれは俺たちの頭上を通り過ぎる順路だ。


「ひっ!?」


「…声を出すな。」


俺の指摘に兵は慌てて手で口を押さえる。その何かは羽音を立てながら丘陵の先へと飛んで行った。虫か何かにしてはあまりに大きなものであった。


「…でかい虫でしたね。」


「いや、あれはたぶん虫ではないな。」


「虫じゃないって…では鳥ですか?そうは見えなかったですけど。」


俺は兵の問いに答えず、望遠鏡を片手に奴らを確認する。するとその『虫もどき』は奴らの居る位置に降り立つところだった。


羽音や形は虫に近いが虫にしては大きすぎる。何よりまるで目的地に向かって最短を飛んでいるようだった。あれが何で何の目的なのかはわからないが奴らがきっと飛ばしたものだろう。信じられないようなことでも現実に起これば認めて受け入れるしかない。それはこの数年で嫌と感じてきた。


ナイルの気球に比べると遥かに小さいが、魔法を原理として飛んでいるのだろうか?それともアイツでもわからない別の手段か…そもそもあの気球の原理もまったく理解していない俺が考えたところで無駄だろう。少なくとも奴らは空を飛ぶ何かを使役している、その事実だけで十分だ。


ただ理解できたのは奴らは放置していい連中ではないってことだった。




望遠鏡自体は一部地域ではこの世界でも存在していますが、また硝子研磨が未熟ですから精度も低いものです。一般的に広がってはいません。


次回もユーコン視点で続きます。

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