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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
302/313

出発前夜

後半はナイルとは別視点、時系列も少し前になります。



「準備はもう終わったの?」


「うん、今回は乗用も荷積みも車は商会から用意することになってるし、必要そうな荷物は先に積み込んだの。後は手持ちできる物くらい。」


夜も更けて後はお布団に入るだけ。


ハ国使節団への同行を頼まれて、あれから2週間が過ぎ去った。正確には1週間と5日間。これは思いの他ユトマル王子の滞在が早く終えたことにある。お陰で準備は急ぐことになったけれど、特段騎士さんや護衛部隊に変更は無かったし滞りなく進んだ。


今回の旅路にも私にも側仕えを就けてくれるらしい。今回の使節団では私はウィリュイさんの元外交役という立場なのに申し訳ないと思う反面、今回はミズリーやラベが居ないので側仕えさんがいてくれるは私だけでなく同行するクマやウカヤリの負担も減って大いに助かる。彼女たちは実務向きで、給仕や世話役には向いていない。

正直そんなの必要とはしないけれど、なんでも自分でやってしまうのは品がないことと認識されるので対外的にはそうもいかないのだ。


他にも染色工房と鉄工房からも数名が使節団に加わる。これは外交とは関係なく使節団としてイ国文化との交流という純粋な目的だ。ハ国の鉄工は優れていると聞くし、文化もイ国やロ国とは大きく異なるらしい。今後の開発にも良い影響を与えると思う。まぁこれには他にも理由はあるのだけれど…


「ハ国までどれくらいかかるの?」


「だいたい1週間くらいかな。距離的にはロ国とかよりも遠いけれど今回は寄り道しないからね。」


予定では3日でポットの町を経由して、そこから2日ほどでハ国に入る。国境付近でハ国の先導と合流してから更に3日、城都があるウンラクに到着する予定だ。


「せっかくナイルも落ち着いてきたと思ったのにまた知らない所に行っちゃうんだ。」


「ごめんね。でもロ国の時は正直そんな状況じゃなかったけれど、今回は楽しみじゃないっていったら嘘になるかな。ハ国にはカサイもいるし。」


「その子って前にナイルが言ってた子でしょ?確かハ国のお姫様。」


「うん、お姫様って印象ではなかったけれどね。」


カサイは一見浮世離れした雰囲気はあるものの、その中身はお姫さまというよりもちょっと好奇心旺盛が強すぎるってだけの女の子な印象だ。どこか不思議というか何を考えているのか読めないところもあるがそこが魅力的でもある。私の数少ない同年代の友人の一人で以前イ国に使節団として来ていたところ、訳あって知り合いとなり友人となった。その後も何度か手紙でやり取りをしていたけれど、それもロ国戦が本格的になってからは、不通となってしまっていた。

彼女と再会できることは外交やジュウの問題を抜きにしても楽しみにしている気持ちがある。旅路に関しても今回は戦場に行くわけではないし、責任ある立場でもないから普通に楽しむ余裕がある。突然のお話だったけれどそんなに悪い話ではないと思っていた。


ミーナの「灯りを消すよ?」という声に私は「うん」と答えてお布団を被る。次いでユマも状況を理解しているのかピョイっと跳ねて一緒に布団に入ってきた。それを確認して灯りを消したミーナも暗闇の中ゴソゴソと潜り込んでくる。


「この子全然鳴かないよね。そうサシャなのかな?」


「どうなんだろう。私が知ってる子は普通ににゃーって鳴いてたけれど。」


ミーナはそんな鳴き声なんだとクスクス笑う。ユマが来て約2週間、この子が鳴いたことを一度も見たことがない。個体差はあると思うけれど食事を貰う時でさえ鳴かないし少し心配だ。病気かと思ったけれど私のいない昼間は家を抜け出してどこかに行っているくらいには元気らしいから大丈夫だとは思う。行儀も良く、手間もかからない良い子だ。


私のお腹付近で丸まってこちらをじ〜っと睨むようなその目は微かに漏れる星光を反射して輝いている。やっぱり目つきだけは悪いんだよねー…そこも可愛いけれど。


「ナイルに懐いてるからナイルがハ国に行っちゃったら寂しくて鳴いちゃうかも?」


「どうかなぁ…この子結構度胸がありそうだし、以外に全然変わらないかも。」


突然見知らぬ家に連れられてきてもまったく動じるような様子は見られなかった。誰に触られたり突然持ち上げられてもされるがまま。解放されるまでは抵抗することも無く相手をジーと覗くように見ているだけである。野生だったにしては人慣れしすぎな気もする。

まぁこの子とも暫くは会えなくなるのだから、その分今夜はモフっておこう。私はユマを胸の位置まで寄せると両手で抱きしめてモフモフ。ユマはされるがままだ。暗がりでもその様子が見えたのかミーナの小さな笑い声が聞こえる。


「明日は早いんでしょう?ちゃんと私も起こしてよね。私が髪を整えてあげるから。」


「うん。」


初めて街を出て旅をした頃に比べてミーナもお父さんたちも私が街を出ても、もう一大事という雰囲気はない。それは私へ信頼ができた証でもあると思う。流石に騎士と軍が守る旗を掲げる公隊に仕掛けてくる匪賊はいないだろうけれども、それでもやっぱり旅路には危険が付き物だ。行先が異文化圏であることも忘れてはいけない。


風通しのために少しだけ開けていた木窓の隙間から星を覗く。


この世界の旅は山脈の形や時間と太陽の位置、守護の星を基準に行う。『彼』の世界でいえば北極星みたいなもの。方位磁石は作ってみたけれど方角がまったく安定していなくてあまり使えなかった。理由はわからない。


ロ国を周ったことでわかったこともある。気球に乗った時に見えた風景からわかったけれど、この世界は『彼』の世界と同じで丸い。高度を高くした時は遠くに海が見えていたのに標高が下がると見えなくなった。惑星のように球体かはわからないけれど湾曲しているのは確かだ。それにこの世界は狭い。習事で習ったことが本当ならロ国にあったぺスカギリデアスより北方は断崖の山脈、その奥にも土地はあるみたいだけど、そこは人の住める土地じゃないらしく、すぐに『世界の果て』となる。習事の時に見せてもらった地図がどこまで正確かわからないけれど、直線距離はコルトーとリデゴカーカより短かった。そこから換算するとこの世界は『彼』の世界どころか、あの島国よりも遥かに狭い範囲ということになる。


私は夜風が入らないように木窓の戸を閉める。漏れる星と月の灯りが部屋から消えさった。


何も知らないあの頃の旅より今は不安をあまり感じない。けれど同時に城都を出るだけでワクワクしていた頃の自分ももういなかった。そのことを懐かしく思いつつ感慨に耽りながら私は眠りについた。







*********************************************



夜も更けた頃の議堂荘園。ここは襲撃を受けた際に戦場となった場所だ。今では衛士が警邏に周る程度で積極的に人が寄り付くこともない。だからこそ人払いするには向いた場所だ。


「こんな場所に私を呼び出すとは私は暗殺されるのか?」


「御冗談を。貴方には強そうな騎士が護衛に就いていますし、私は一人。そうでなくても貴方様ならいつでも私を斬って捨てる程の腕をお持ちでしょう?ユトマル様。」


案内役はいない。会談の終了時に彼は二人だけで話をしたいと誘ったのだ。だから私はこの場所を指定した。明日の早朝にロ国に帰国する前に私と話をしておきたかったのだろう。彼の護衛である騎士は少し離れた位置に控えている。


「貴様たちの言う通りにした。これでよかったか?」


「はい、何事も滞りなく済んで助かりました。さすが一国を治めるに足ると認められたお方、何の苦言も御座いません。」


「たかが用意された獣を贈っただけだ。それに以前からイ国には直接伺わなければならないとは考えていたのだ。それが多少早まっただけのこと。」


「さようであれば私も憂う気持ちが軽くなります。」


「…断言しておくが、これ以上イ国の不信に繋がるような行動はしたくない。念のため貴様にも確認しておくが今回の件がイ国にとって不敬となるようなことはないのだな?」


「勿論でございます。そもそもイ国の官である私が我が国の不利となるようなことをするとお思いですか?」


私の返事に彼としては珍しく苛立ちを表情に宿しながら私を問いただす。


「貴様といい、アハアルムといい…貴様たちは何を考えているのだ?」


「何をと申されましても当然、世のため人のためで御座いますよ。私たちはそのために仕えているのですから。」


「どうだかな…貴様たちが何を目的としているのかはわからないし、これ以上詮索するつもりもない。しかし、この程度のことでト国からの支援が改められるようになるのであれば安いものだ。本当であるかは今後の様子見次第ではあるが。」


「それは問題ありません。アハアルムも迎えが来たでしょう?」


「ああ、まさか空を駆けてくるとは思いもしなかったがな…事実を知る者は最低限としているし書面上も問題ない。」


「賢明なご判断です。我々の代わりはいくらでもいますが経験を積んだ個体は希少ですからね。」


「他国のこと故あまり口を挟むのは憚れるが、この国を裏切るようなことはしてくれるな。私はイ国とは協調していきたいのだ。」


「それは私も同意で御座いますよ。」


「ふん、ならば良い。では私は戻る。このような場所で貴様といるのを誰かに見られたら困るのは私だけではあるまい。ウィリュイ外交担当官殿?」


「大丈夫ですよ。既に警備順路の変更など手配は済ませております。貴賓室からここまで誰とも会うことは無かったでしょう?明日はお早いご出立でしょうからゆっくりとお休みください。」


彼は踵を返し、騎士と共に今来た道を歩いて帰っていく。



事は多少の差異はあれど思惑通りに進んだ。これが何に繋がるのかなど私たちのような者たちが知るところではない。私たちは疑う必要はなく、従っていればそれだけで良い。それが私たちの存在意義。


すべてはスダージュ様が思うがままに。


なんとか今日中に更新できました…ちょっと仕事が立て込んできたので次話は少し間が空くかもです。


次話はナイル視点ではなく別の人物視点になります。


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