旅路の準備 2
「今回の護衛指揮は誰になる予定ですか?」
「マレーはニメレン様に就く。レナも今回はロ国への同行だ。」
騎士棟の書物庫兼副団長執務室、私はヴォルガ様にハ国行きの騎士団の準備状況について尋ねていた。執務室には私とヴォルガ様、そしてその後ろにはマレーさんが控えている。ここにマレーさんがいるということは既にロ国との会談は佳境を越えたのだろう。
今日の私の護衛は先日私を呼びに来た騎士さんだった。話を聞く限りやっぱり騎士見習いでヘルィ達よりも後に任官したらしい。彼は執務室には入らず廊下で待機している。私がヴォルガ様に会いに行くことを伝えた時の驚いた様子からも考えても、まだ騎士団に慣れていない様子が窺えた。
「レナさんも?」
「今回のロ国との会談でアクセニア商会がイ国間だけでなくロ国内での輸送についても一任する話となったからな。本来現主が動くべきであるが商主でしかない重要人物を今のロ国へ赴かせるのは国としても賛同できかねる。そこでドニエプルが指名されていたのだが…」
隠居済みであるドニエプルさんに白羽の矢が立ったの?でも元々はロ国の騎士でもあった人なのだから確かに順当な人選だろう。それでレナさんも追従することになったってことか…
「断られた。ナイルがハ国に行くのであればホシノ商会をみる者がいなくなるとな。」
…それもそうか。私のハ国行きを伝えた時は特に何も言ってなかったけれどその時点でドニエプルさんはロ国行きを断る決断がついたのだろう。
「では何故レナさんが?」
「レナは今回は騎士としてではないアクセニア商会主の代理としての同行だ。」
驚いた。だってレナさんは騎士としての姿、私用の姿はみたことあるけど商いに関わっている姿は見たことが無いし、そんな話も聞いたことが無かった。そもそも彼女は家業を継ぐことに対しては否定的な姿勢だった気がするのだけど…
「ドニエプルから何か言われたのかもしれないが、本件ではレナ自身も強く否定する気もないようだ。我々としては一般人を護衛するよりも遥かに楽なので助かるがな。」
それはそうだろう。彼女なら自分の身どころか普通に戦力としても計算できる。必要以上に騎士を配置して相手国に警戒心を持たせてはならない使節団の編成としては申し分ない人選だ。
「ということはドンノラさんですか?」
「いやドンノラは城都に残る。先の戦で騎士が減っていることもあるが管理領地が増えている今、私が実務に動くのは難しい。ドンノラには城都の守りと元ロ国領地への編成を任せている。」
つまりユーコンさんも任務で居ない今、ハ国行きは今までの遠征で私が組んだことがない騎士さんとなるということだ。騎士団というのは王の兵、アグニン様率いる近衛軍みたいなもの。戦でもない今回の件で流石にその編成に私が口を出すことはできない。
「では誰になるのでしょう。軍部の編成や車数について事前にすり合わせをしておきたいのです。」
「今回のハ国使節団の護衛指揮はヘルィとカマロ。君の護衛はタリムが就く。」
お、おぅ…タリムさんを忘れてた。でもヘルィとカマロさんは見習いを終えたばかりの騎士。タリムさんは確かヘルィ達よりも先輩のはずだけどそんなに差は無いように思える。ロ国戦には参加しているものの戦うところは見たことがないので戦闘力や指揮能力は未知数だ。
「えっと他国への使節団なのですよね?」
「不服か?そもそも私はあの時に君に尋ねたはずだが。」
うぐ…そう言われると何も言い返せない。
ロ国の管轄領地、戦後のどさくさ紛れの詐欺商いや匪賊の横行、ロ国内でも兵士崩れが問題になっている。その対応としてイ国の騎士は各地に派遣指揮に立っていて今この城都の騎士棟にいる騎士さんも以前の半分程も姿を見ない。とはいえハ国への使節団も重要任務、ヴォルガ様のことだし、何だかんだ言いながらもそれなりの熟練の騎士さんを就けてくれるだろうと私は安心していた。
ヘルィもカマロさんもロ国戦では前線で活躍していたし、戦力面では問題ないと思う。タリムさんを就けてくれたのは私や工員など女性が多いことを鑑みてだろう。でも総合的に指揮能力に少し不安が残る。その理由は能力云々ではなく、単純に実績という部分においてだった。
そう思案する私の様子から察したのかヴォルガ様は続ける。
「ヘルィもカマロもロ国戦では部隊を指揮し前線を支え生き残った実績がある。タムリは君との相性を考えてだが護衛騎士としての戦力としては十分であろう。」
「はい、私もそこは問題ないと考えております。ただ不測の事態を想定すると少し不安を感じました。」
「経験の浅さは確かにある。それぞれに長短がまだ残る段階であるからな。しかしそれでも今回の護衛任務には問題ないと私は考えた。以上だ。」
ヴォルガ様はそう言い切ると私から視線を外し手元の書類へと目線を落とした。いつものようにクドクドとした説明や説教もない。たぶん本当に忙しい状況にあるのだろう。それは机の上に積まれてある木札や書面がいつも以上であることからも窺える。
「承知しました。ありがとうございます。」
私は挨拶を終え執務室を後にする。
正直にはヘルィやカマロさんを想定していなかったわけではない。それだけ騎士団に余裕がないことは想像していた。でも数名のうちの一人と予想していた。まさか同行する騎士全員が経験が浅いとは想定外だ。
3人は全員普通の騎士。でも一応タリムさんが最も経験があるから長となるのかな…いや、タリムさんは私の護衛と言っていたから護衛部隊を指揮するのはヘルィかカマロさんだろう。各々との摺合せが必要だ。
私は溜息を吐きつつ、ヘルィ達を探すため騎士舎へと歩みを進めた。
アテが外れたナイル。自分が無意識に甘えていたことに少し反省してます。
次話も明日UP予定…できたらいいなと思います(^^;




