依頼討伐とエルフ少女と私
まだ親しくもないイケメンに想いを寄せている私からすると、彼が異性と近づく度にずっと気になってしまう。
でもこうして管理者権限を持ってみると、新たな反省がある。
当人たちの恋心の有無を「いつでも確認できる」となってしまうと。意外なもので、それだけで心に余裕ができて2人を観察できてしまうようになるのね。
そうするとその2人の関係って、恋人候補でも何でもない事が分かるんだ。
なので、あの後の私は結局一度も、イケメンの心も、聖女様の心も、覗く事はなかった。恋心の時の 余裕 ってそういうものなんだな。
四足疾駆移動で駆け戻ってきたルネアンが深呼吸をしてから、私たちに教えてくれる。
「いた、いた。オークが3匹、あれが討伐依頼の対象だにゃ?」
「そうだ。」
「何本かの木が倒れて足跡があるのにゃ。その先に集まってた。」
「3人とも、治癒は妾にお任せくださいね。」
「よろしくですよ、聖女さま。」
オークというのは、獣人という扱いをされることもあるけど、人間ではない。野生のイノシシに魔性が働いて、立って歩く身体つきや知能が人型に近くなった魔物だ。
ルネアンが見つけた通り。足跡と山林の痕跡の辺りに、私たちのパーティーが到着する。
多くの魔物は嗅覚や聴覚が鋭い。私たちは風上に立たないようにして、声を出さずに合図だけを交わして距離を狭めていく。
それでもこちらは野性から見ればずいぶんと生活臭を漂わせている人間たちなので、早々に勘付かれる。4人で取り囲むはずが、気が付いた時には3匹から取り囲まれていたのは私たちのほうだ。
猪突猛進してきて牙を振り回す1匹目の相手はダルクルト。長剣で頭と前脚を斬られ、短剣で胴体を突かれても倒れず、後退りしたかと思うとまた何度かぶつかり合う。
2匹目は二本足立ちのところに私が魔力攻撃を飛ばす。よろめいたところに、跳躍したルネアンが飛び掛かって短剣で攻めながら倒れ込ませる。3匹目にも攻撃を飛ばそうとしたけど、私は剣で斬り付けることにして駆け出した。
背追われた篭状の枝箱の中に、人の姿があったからだ。
背荷物がある分動きはやや緩慢だったけど、私もその背中を避けないといけなくて、剣だけで斃すのにはちょっと手間取った。
「3人とも、妾のチャージした治癒魔法の使いどころがありません。」
「ふふん、オークごときに苦戦するようでは冒険者は務まらにゃいのだ。」
「まあな。」
「こうして掠り傷が治っていくのだけでも、お肌にも破傷風対策にも助かってますよ。それより……。」
「はい。私も……篭の中で痛かったところが、もう何ともありません。」
「わわ~、私ら獣人はどこにでもいるんにゃけど。あんたは珍しいにゃ。」
「まさかあなたのようなお方が囚われているとは。」
白い肌、ソバージュの銀髪、森の衣、そして長く尖った両耳。なんて爽やかな森林の香り。
「あの、魔剣士さま。そろそろ大丈夫ですので、この両方のお腕を……。」
はっ。枝箱から助け出した時から彼女はずっと私に膝の上で抱きかかえられている。エルフさま……もうちょっとこのままでいましょう。
「妾どもにお示し頂ける御名はありますか? なぜあのような魔物にお囚われに。」
「リェリュス・ルクシェリ、と申します。私……野山で薬草を摘んでいたら森に迷ってしまって。そこからずいぶん遠くまで担がれて来ておりました。」
「エルフ族の里がある、と聞いているのは山脈の向こう側だにゃあ。遠いにゃ。」
「あの、私も長弓でしたら多少の心得があります。皆様のパーティーに加えては頂けませんか。」
「あ~エルフさま、見たところ未成年だし。そういう話はお里のご両親と話し合ってからのほうがいいかなって……。」
「いいぞ。」
あ。決まっちゃった。




