グラディオ街道と聖女様と私
獣人ルネアンは猫ちゃんなのか人間なのか、というと人間だ。人間語を分かるし喋れる。ネコ科動物との血縁があるわけではなく、遠い先祖の進化過程で枝分かれして、野山に収斂進化したのにゃ……と本人が言っていた。だから人間だけどたまたま耳が頭の上で、尻尾も残ってるという種族なのね。
人間と獣人って、恋人になったり夫婦になれたりするのかな? 私はここで焼き餅を焼けばいいのかどうかわからなかったんだけど、そんな迷いもどこへとやら。優秀なパーティーメンバーだという事が分かった。
何よりも現地に詳しい。グラディオ街道まで何一つ迷子にならずに進めているし、そしてその機動力だ。
「あんたたちは、そのまま歩いていればいいにゃ。」
ギルドの受付嬢から言われていた通り、この一帯にはゴブリンやグレイファングが出没していて、何度か遭遇してしまう。ルネアンは鼻を利かせて風を読み、四足疾駆移動でだいぶ先を下見してきてくれる。そのお陰で私たちは急襲される前に準備を整えられて、魔物を少しずつ退治しながら進んで来れている。
そんな何回目かの斥候から戻ったルネアンは、今までより息を切らしながら困った顔をしている。
「護衛がにゃられた馬車がゴブリンの集団に襲われてるんだにゃ……。今はすぐ近付かにゃいほうが。」
「分かった。」
ダルクルトは一言だけ言って駆け出し、1人で先に走っていく。
「あ~あ、何匹いるとかも聞かないで無計画だにゃあ。」
襲われていたのは立派だけど数の少ない商人の馬車一行だ。
護衛隊もきちんと揃っていただろうけど、群れの数の多さでほとんどが倒れている。荷馬車も2台が破壊されて色々な物が散らばっている。
ダルクルトは(真っ先に駆け出したのに)少し遅れて着いたけど、脚は私とルネアンのほうが早かった。私は衝撃魔法で何匹かを吹き飛ばし、魔力を注いだ剣で斬っていく。ルネアンはその俊敏力と小剣で一匹ずつ倒し、近接戦なのにゴブリンが彼女を傷付ける事はない。
形勢逆転。
山林へ逃げ潜もうとする数匹を追ってから私たちが戻る頃、ダルクルトは護衛隊の生き残りたちに混じって、横転した最後の馬車を守っている。私とルネアンがそこに加わると、攻撃力を残すゴブリンは1匹もいなくなった。
「冒険者殿……かたじけない。加勢のお陰でこの馬車だけは守れた。」
「うむ。中には誰か?」
「ああ、お一人いらっしゃる。だが俺はもう……。」
「ひどい負傷……無理をしないで。あれ? でも防御魔法と治癒魔法が掛かり残っている。」
「命には別状がにゃい隊員さんが多そうだにゃん。」
「中にいるのか? 無事か!」
ルネアンが扉を開けようと道具を選びかけている所で、ダルクルトは蝶番側を剣で破壊する。10秒そこらくらい待ちなさいよ、とは思った。
馬車の中にいたのは1人の女子。
白い法衣。胸元には小さな銀の紋章。その姿を見たルネアが驚く。
「聖女様だにゃ……?」
少女は苦しそうに目を開ける。
「ああ、なんという事でしょう。妾が気絶してる間に魔法が切れてしまってこんな……。」
「それでなのね。まだ魔法の効力は残ってましたよ。それでもゴブリンの数が多かったみたいです。……えっ、聖女様?」
横転した馬車の上に彼女は立ち、他の馬車の近くの商人たちや十数人の倒れた護衛隊員に向けて何やら柔らかな光を放射する。あ、私の掠り傷まで治っていく、すごい。
「妾はベアトリーチェ。小国ルーヴァの神殿に仕える者です。」
「歩ける?」
「はい。あなた様が助けてくださったのですね?」
「うん。」
即答だけが早い。聖女様はダルクルトを見つめている。お助けしたのは、私も、ルネアンも、そして十数人の護衛隊の皆さんもですよ~?
「あなた様は、このままグラディオ街道を進むのですか?」
「討伐依頼でね。」
「でしたら妾も同行させてください。」
「妾は、あなたに助けていただいたまま何も返さずに去ることができません。我が国ルーヴァでは、それは恥ずべきことです。少なくとも、あなたが受けた依頼を終えるまで、妾にも戦わせてください。」
その言葉には、何だか単なる礼儀以上の決意があった。
せ、聖女様って穢れのない女性だから。冒険者男性なんかと恋に落ちないわよね? 大丈夫よね、私のイケメンは大丈夫よね??
そんな事よりも私とルネアンは、意識のある何人かの商人さんや護衛兵から話を聞いて、馬に乗って動ける人がどう連絡に走って救護を待つかを決めてもらった。




