宿屋とホットラインと私
私ミレフィアとダルクルトは、城内で案内係の人から地図を書いてもらって、まず冒険者ギルドの場所を確認しに行った。
建物は大きい。私たちはギルドの中には入らなかったけど、時々職員さんっぽい人や色々いかにもな冒険者たちが出入りしている。
私もイケメンが通る度にときめいてはいたので、ビキニアーマーが通る度に彼の視線が追っていたような気がする件は不問にしようと思う。
「明日のうちに準備を整えて、明後日ここに来て、この異世界で私たちが何を冒険すればいいかを知っていけばいいんでしたよね。」
「ああ、そうだ。」
やっぱり無口だな、このイケメンは。
私たちは一旦王城の前まで戻ってきて、そして今度は城下町のほうに歩いていく。見えてくるのは私がこれから生活するであろう町だ。
なぜ私ミレフィアとこのダルクルトが一緒に行動しているかというと。それはほら、同日召喚だったから同期入社みたいな関係でしょ。パーティーを組むとはどちらも言い出してない。だけど、知らない異世界に放り出された同士がすぐ別行動に分かれる理由もない、お互いそんな雰囲気だ。
「案内係が言ってた宿屋でいいよね?」
「うっうん。いいんじゃないですか、ハズレの宿ではないって安心だし。」
そこそこの所持金もあるので好きな宿屋を選んでいいらしいんだけど。地図を書いてくれた案内係の人によると、召喚されたての冒険者にご用達の宿屋というのが一応決まっているっぽい。
やった。2人ともその通りの宿屋に決めるという事は、私はこのイケメンと同じ宿に泊まるという事を意味しているじゃないの。そうですよね? 固定電話番号を教えてもらったのに等しい気分になっちゃう。
「ここの飲み屋さんが、そうですよね。ほんとだ上階の窓からすると宿泊部屋になってる感じ。」
「ああ。」
それだけ答えてダルクルトは飲み屋の華やかな入口に進む。
「宿泊者の食堂がこうして飲み屋を兼ねている、つまりダイニングバー形式です。?……もういないし。」
私は慌てて、まだ閉じかけの扉の後を追いかけた。
「あんたたちは1泊が銀貨1枚だよ、分かりやすいだろう。もうパーティーは組んだのかい?」
「いや他人なので別室で頼む。」
「う~んお部屋の間取りがシェアできるなら……早っ。」
別に同室にするか悩めとは言わないけどさ。私に一言確認する、もう1クッションあっても良いんじゃないかな?
私の部屋は3階だ。窓からは見晴らしがよくて城下町の様子がけっこうよく分かる。
間取りのほうは2人でも泊まれる1人部屋だから、私としてはどっちでも良かったなぁ。
それはさておき、身の回り品はどうしよう。
私もダルクルトも、召喚された時点で職業に割り当てられた武具一式は装備済みだった。
生活用品は部屋の備品が多少はある。
私物の諸々はこれからこの城下町で買い揃えていくと思うけど、あんまり急がないかな。
私本人の意志に反して冒険者ではあるので、いろいろな冒険用の支度を揃えないといけない。移動するにしても、もしかしたらアウトドア野宿するにしても、食料周りもどうしたらいいんだろう。明日は市場で探し回る事になるだろうな。
あ、そうか。これってダルクルトも同じはず。なあんだ一緒にショッピングする理由があるじゃない。彼は2階の部屋だと言ってさっき分かれた。今から明日の待ち合わせ時間を決めよう……。
私が廊下に出ようと思ったら、扉をノックする音。
「あ、彼。……じゃなかったダルクルト。あ、あのね。明日私たち一緒にお買い物に……。」
「これ。」
「はい?」
「君の分も買っておいた。」
「あ~、これは準備がよろしいわね……。」
タオル、水筒、ロープ、毛布、狩猟ナイフ、救急用具、裁縫道具、方位磁針、着火具、ランタン。
「銭湯に手ぶらで行くとタオルや石鹸やシャンプーのセットが売られていて便利よね。あれと同じ。この宿屋が召喚冒険者ご用達、ってそういう……。」
「金貨1枚。」
「あ、あ~代金。立て替えてくれてありがとうございます、金貨、金貨……1枚っと。」
わ~、彼から私の部屋に訪ねてきてくれたという事が凄く嬉しい。
でも……待って。あれ? これだと明日のお買い物デートは無くなったわね。
ここはさすが異世界、自分のステータス・ホログラムを空間に出現させられる。方法は薬指だけを立てて大体の大きさで空間に四角を描くと効果音と共に表示されるのね。
いろいろなページに項目や数値が並んでるけど他の人と比べてないから自分がどんなレベルだとかはよく分からない。なんにせよ初心者はこんなもの、というのだけは何となくわかる。
さて、ここまでなら召喚冒険者の一般ユーザーインタフェース。
私ミレフィアには、それ以外にもう1つのインタフェースがある。
両手の人差し指と親指を直角にして、[ ]の形にする。ハートマークに似てるけど指どうしはくっつけないで長方形にするわよ。そうすると私の指の形の間の空中に出現するのが、第2のインタフェース、スマホだ。
ステータス・マネージャ・ホログラム。3単語の頭文字を取って「ス・マ・ホ」ね。
出現したその小型のステータス・ホログラムを左手でつかんで耳と口に持っていく。
「あ、女神様ですか? 私です~。ありがとうございます、出会えました。えっプロポーズ? してませんしされてません。でも、でもでも、出会いってそれだけで、これまでゼロだったのがゼロじゃないのって幸せです、えへへへそれじゃまた。」
あれ、そういえば。私はこのまま冒険者になるって事でいいのかな。
命が危険では元も子もない? だって今こんなに幸せなんだもの。きっとこの勢いで行けると思うんだ。




