エルゼとデーモン討伐と私
私ミレフィアは冒険者ギルドに登録されて、普段から仲間と一緒に討伐依頼などをこなしている冒険者だ。
ただし掲示板に貼られている幾つもの依頼票を自由に選べる……かというと、ランク制限があるのでそうはいかない。ここの冒険者ギルドでは半年に1度、冒険者にそれぞれランク審議が行われて、成熟度合いや討伐成績などからランクが調整されていく。
色々な状況があるので細かい条件変更はあるけども、魔物の種類にはランク付けがされていて、冒険者ランクとの対応付けになっている。弱い冒険者が無謀な仕事をする危険を防いたり、強い冒険者が軽い仕事を片付けてしまう独占をも防げる。そういう分配のための仕組みだ。
だから、実質Eランクの私はどんな特例が付いたとしてもAランクの仕事を請け負う事はあり得ない。そこで私は特例ではない方法を考える。
最近デーモンが目撃されているのはゲランゴン領。同じくゲランゴン領から出ているゴブリン数体の討伐依頼を私は引き受ける。
「あの~受付係さん。もしも、もしデーモンと遭遇しちゃった時にはどうすればいいか、出没情報を知りたいです。」
「ミレフィアさんの場合だったら、全力で安全な所へ逃げてください。領内の西側の森で目撃されてますから、そこに近寄っちゃダメですよ。」
「西側の森ですね。注意しなくっちゃ。」
デーモンという名前はいろんな意味で使われるけど、この異世界の場合は最上位の魔獣の一種の事だ。ちょっと二足歩行をする人間型にも見えるけど、魔族というよりは魔獣らしい。それがなんと1匹でランクA。本当ならこのギルドでトップ級の強者パーティーが命懸けで戦う相手だ。
「エルゼちゃんからせがまれた……ゲランゴン領にまで買いに行くような物って、どんな物なの?」
「いつもほら不思議なお喋りをするじゃない? なので今日は1日エルゼちゃんと2人でお出かけしてきま~す。」
私はそう言って、城下町からヒッチハイクでゲランゴン領に向かった。ギルドの手前上は手っ取り早くゴブリンを片付けて、みんなの手前上はこの地方のお土産をいくつか買って。そしてエルゼをおんぶしたまま、西側の森に向かう。
高価なほうのポーションも、脱出魔方陣も準備よし。そして、手の人差し指と親指を[ ]の形にしてスマホを出現させる。ステータス・マネージャ・ホログラムの略。
「もしもし女神さまですか、ミレフィアです。はい。デーモンの出没地点に来ました。事前の相談通り『4つめのお願い』よろしくお願いしますね。」
「2つめも3つめも却下だから、これが改めて『2つめの願い』だな。なんだっけ、あなたたちが失敗した場合に、安全地帯に転送して蘇生させればいいんだね?」
「はいっ。」
「あなたが何をしたいかはあなたの自由だけどさ。」
「私も痛いのは嫌なので……できるだけ安全にはしま~す。」
よし、これで最悪の事態は避けられるかな。あとは背中の子だ。
「起きてる? 下ろすわよ。これから、エルゼはこわ~い魔獣とお会いするからね?」
目をこするエルゼと手をつないで、私はなんとも頼りの無い魔剣を鞘から抜いて身構える。
するとエルゼは私の手を、合図のように引っ張る。
「ミレフィアちゃん……きておるぞ……おぬしはいまわざわざしのうとしているのかねそれともたおしたいのねかわからぬではないか。」
梢を揺らしていた木々のざわめきが、風ではなく、地面からの揺れに変わる。
鳥たちは囀りを止め、地面の草木が黒ずんでいく。
ズズン……。ドスン……。
木々の隙間の巨大な影に二つの眼が浮かび上がる。
隆起した筋肉質の四肢、鋭く湾曲した爪、不自然に巨大な角を持つ頭部。
デーモンがゆっくりと首を傾ける。
大きく口を開いた牙の隙間から漏れ出すのは、獣の咆哮ではなく、地の底から響くような低い唸り声だ。
私ミレフィアの職業は魔剣士なので、ちょっと攻撃魔法は使える。我が魔剣をデーモンに向けて、消耗が大きいので滅多にやらないけど、魔剣の先からの魔力攻撃を放つ。あ~、痛くも痒くもなさそう。
これだと威嚇じゃなくて、逆撫でにしかなってない。
「あなたの力を見せてエルゼベッタ、いえ。アゼルフィーネ・デュジエルンギ……よね。」
デーモンはその研ぎ上げた重機のような爪で立ち木を薙ぎ倒しながら突進してくる。躱したはずの私たちに外し気味に大振りされた巨爪を、私の魔剣は払うのがやっとだ。こちらに向き直して、今度は近距離から、来る。
「さほうのしつけがなっておらぬでーもんであるよされどしつけがなされておるまものもいないものであるきにするでない。」
エルゼはその小さくてかわいい手を開いてデーモンに向けて開いた。そして空中をつかんで手首を くいっ と軽く捩じる。
私たちに目掛けて大腕を振りかぶったそのまま、デーモンは突然その巨体を硬直させて立ち止まる。
「なにもせぬのかみれふぃあよそのまけんはなにのためにここにあるのだそのためにこうしておるのではないのか。」
「っ、手を放しても大丈夫かな? 大丈夫だよね、じゃお姉ちゃんちょっとやってくる。」
「わ~いミレフィアちゃんがんばれ~。」
片手持ちしていた我が魔剣を、私は両手で構え直して、動けないでいるデーモンを斬っていった。返り血が黒い。
こうして今回の検証は無事に済んで、エルゼが誰なのか少しだけ分かった気がする。
ああ……これなら、私たちのパーティーはいつか 魔王 を斃せるかもしれない。そうとも思った。
その時にはダルクルトが勇者の名を歴史に刻むことになるだろう。
冒険者ギルドでは、私は受付係からちょっと叱られて、ギルド副長からは疑問符ばかりを浮かせながら手続きをしてもらった。
「こちらはゴブリンの報酬です、お疲れさまでした。ところでゲランゴン領の西の森には行かないはずじゃなかったんです? 誰かから斃されてたから生還できたんですよ?」
「ほ、方角を間違えちゃったみたいで。」
「それじゃミレフィアさん、ここにも拾得者ご本人のサインをお願いします。いや、しかし? 一体誰が? 魔物の同士討ちだとしてもデーモンは最上級だし? う~む?」
ゲランゴン領の森で何者かから斃されていたAランクの魔物を私は拾得物扱いで届け出たので、数か月後まで討伐主が申し出なければ、拾得者扱いの私に報酬が来るらしい。なのでパーティーのみんなには、しばらくの間はごまかし続けられる。
「ミレフィアちゃん、こっちこっち。」
「ギルド副長から呼ばれるなんて、本当にどんな拾い物をしたんです?」
「そうだな。」
エルゼやリェリュスを冒険者ギルドの中には連れていけなかったので、みんなには近くのお店で待ってもらっていた。
「ゲランゴン領のお土産、この城下町でこんなに探しても見つからにゃいね。本当に美味しかったにゃ。」
「エルゼちゃん、どこでああいうお菓子を知ったの?」
「おかしだいすき~。」




