エルゼと魔王と私
私のパーティーのリーダーはというと、勇者ダルクルトだ。
若者というか私と年齢もそう変わらない少年だ。
なぜこんな少年が勇者かというと、召喚された時に勇者、つまりこの世界の魔王を斃すことを誓って転生してきたらしい。
この街の多くの冒険者も、何なら召喚冒険者の私ですら、魔王を斃す最終目的のために冒険者生活をしている事の最終目的という訳ではない。
「あのさ、魔王って何なんだっけ?」
「俺が斃す相手だ。」
「うん、それは分かる。どんな存在なの?」
「……その時になるまでは。」
あ、分からないんだ。「僕は日本の大統領になりたい」とかそういう感じかな。でも心意気のほうが一番大事な事ってあるものね。
イケメンっぷりに違いはないと思う。
さてこの異世界には、光の力と闇の力が働いている。そのうち光の力の、けっこう頂点近くの位置な女子が私たちのパーティーにいる。
「ねえベアトリーチェ。魔王ってどういう存在なの?」
「魔王ですか……。妾は神の神聖なる導きに仕える身ですが、何からお話をしましょう。」
「見た事はあるの?」
「妾はないけど。」
「そうなんだ。」
うん、同い年の聖女さまとの会話だ。
「神様と人間は存在原理が違うので、何をやっても抗えたりなんかしないでしょう? それと同じで、魔の側には存在原理の違う魔神が居るの。」
「言われてみるとそうだわ。神様と、魔神が、同じような原理で存在していて対立してるわけですか。」
「そうそう。妾たちのような冒険者が斃せる可能性がある範囲の一番上で、魔神の下に仕える地上指揮官、というのが魔王ね。」
「魔王って、ギリ生物なんだね。」
「魔力の思念派が使える指揮官だから、戦地に直接出向く必要もないでしょ。それで冒険者たちはいつも魔獣ばかりと戦う事になるわ。」
「それじゃ魔王は……ずっと魔宮で魔獣を可愛がるみたいな生活なのかな。家族とかいないの?」
「妾は若輩なもので、その辺りについては存じ上げてないけど……魔族たちがいるのよ。その中でどうにかして魔王が1魔、決まるんじゃなかったかしら。」
「それは、平和的決定なのかした。それともバトル的勝者なのかしら。」
「人間社会ほどには理性や知性が無いらしくて、そんな魔族に特に社会性があるとは聞かないわね。」
「当番制も選挙制も無さそうだね。」
ふ~ん、魔族は魔族で何か抗争して、それでその時代の魔王が決まっているんだ。
うちのサブメンバーには総勢20人のうち、5人の魔法少女たちがいる。
「あたしの時はジァルゼリ・ネフラディスっていう魔族から姓を借りたな~。その後どこにもいなくなってたけど。」
「あたしの魔族はパルディホ・ヴェルクボイムンって言ってた。なんだか他の魔族に負けちゃったんだって。」
「あたしはゲルグラー・ザルゲニレっていう魔族だった。なんて名前だっけ、強い魔族が勝ち残って今の魔王になったんだよ。」
「あたしの魔族ビレガルン・ルゼグドラが負けたのはクェルザンド・デュジエルンギ っていう魔族だったかな。そいつ?」
「あたしの時もラグゼリド・ラトデロギトが負けた相手はクェルザンド・デュジエルンギだよ。みんなボスが負け組だねえ。」
なるほど、この子たちは5人ともそれぞれ違う魔族に取り込まれていたみたい。そんな魔族同士には争いがあって、それの勝ち残りが今の魔王になったんだ。
もしかしたら彼女たちみんながこうして人間社会に戻ってこれているのは、関わった魔族が魔王に負けたからなのかもしれないんだね……。
あれ、でもなんだろう、引っ掛かる。
「 ファルネデとクラマールさ。今言った、クェルザ……が魔王の名前でいいんだよね?」
「うん、クェルザンド・デュジエルンギが魔王に着任してるから。」
「今はもう、魔王と言えばその1魔の事でしかないだろうな。」
前よりは少し美味しくなってる禍々汁のカップを置いて、ちょっと私はテントの表に出る。
私が両手の人差し指と親指を[ ]の形にすると、空中に現れるのはスマホ。ステータス・マネージャ・ホログラムの略。
紐付け登録してあるエルゼを再確認すると、表向きの個人情報とはなぜか異なっていたる本当の管理情報を確認できる。間違いない、
エルゼの本名は「アゼルフィーネ・デュジエルンギ」。
現魔王の名前は「クェルザンド・デュジエルンギ」。
「合致。……うわわわわわ。」
私は忘れる事にする。禍々汁を一服して落ち着こう。
「ぷはーーっ。」
「ミレフィア、よくこんな味の魔薬を一気に飲み干せるな。」




