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権限転生  作者: 純銀
エルフ少女リェリュス・ルクシェリ
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リェリュスとみんなと私

この宿屋の3階部屋は1人用としてはやや広い。2人でちょうどいいけど3人でもなんとか。

でもその人数感覚は、それぞれお互いに知人らしい距離感があればの話。

今この部屋の住人は5人。

私ミレフィア、ルネアン、ベアトリーチェ、エルゼ、この4人まではありふれている種族のどれかで、そこの中にあと1人いる。

セレントルー王国の城下町は、過半数の人間と、その残りの獣人がほとんどなのだけど。それ以外には、驚かれはしないけど少し珍しがられるくらいには少数を見かけるのがエルフ種族の人々。私たちと生活を共にして人間社会を勉強中な、そんなエルフ女子がリェリュスだ。


耳がつんと長くて色白な以外は、人間の女子と何も変わらない。……と言いたいところだけど。何か、こう線が細くて、森の香りがする。

この小学生くらいの同居人女子を中学生くらいの同居人女子が抱きしめて匂いを堪能しても、怒る人はいませんよね。いませんよね? では無言のお言葉に甘えて。すーはー。

なんで森の香りがするんだろう?

樹木みたいな、青葉みたいな、それでいて雨上がりみたいな匂い。


私がリェリュスを抱きかかえたまま、ベアトリーチェに聞くと、聖女さまはなんて崇高で神聖な知識を習うのかという言葉を浴びせてくる。

「αピネンなどのテルペン類、青葉アルデヒドなどの青葉香成分、ゲオスミンじゃないかしら。それと季節や生物相によってそれぞれの揮発性有機化合物が含まれると思う。」

う~ん私は聖職者じゃないし、分かんないよ。※異世界間自動翻訳機能が働きました。


ルネアンは私に同意してくれる。

「うん、森の香りだにゃ。」

あなたは日光浴《ひなたぼっこ》の香り担当なので、わりと同格よね。

「2人とも、お顔を近付けてくるのはもういいですか~? ベアトリーチェちゃん助けて~。」


大人用の弓はまだ背丈に合わないし、エルフ種族用の本物の武具なんて見かける事が無い。なので買ってあげられるのは練習用の子供用の弓だけど。弓術練習場に連れていくとリェリュスは大喜びする。

「今日は1矢も外さないから。ちゃんと見ててねミレフィアちゃん。」

リェリュスの弓使いは、人間の弓術士とは色々と違う。

まず矢が早い。姿勢を決めて弦の張りを固定して狙い定めを……という事をせずに、矢をつかんで弦を引きながらその矢1本1本ごとの性質と癖を読む。弦を引き終える頃にはすでに風の流れも読み終えていて、動作が次の矢をつかむ時に前後して矢が的の真ん中に深く刺さる。

「よ~しぃ、5本連続。的を替えないと矢が傷んじゃう。」

「風がそんなに弱い日じゃないのに、リェリュスはすごいわ~。」

「じゃあ次のクエストから私《わたくし》も参加していいの?」

「いえいえ、リェリュスはその……まだ身体が出来上がってないんだから。今は練習だけでいいのよ。」

「ミレフィアちゃんだってまだ大人じゃないじゃな~い。」

そこはほら、同じ義務教育年齢でも、運動部の部《クラブ》活動が ルール憶え と 実践試合 とではけっこう違うのよ。と言いたいところ。

「小さい妹を守るのがお姉さんたちの役目だから。リェリュスは宿屋《おうち》で私たちを待っていてくれるのが一番嬉しいな。」

あれ、なんだかいつもよりちょっと機嫌が良い。

「今日は私を……芳香薬みたいに言わなかった。」


もちろん、大人の背丈になったらそういう弓術がすごく頼りになると思うのは本当。

でも、小学生くらいのエルフ族が大人の背丈になるのって。何年かかるんだっけ?


「ご寿命が数百年とも、数千年とも言われているわね。」

「聖老院の人のベアトリーチェにもあんまり分かってないんだ?」

「そうですよ考えてみて。人間も獣人もエルフとは深く関わらないし、言い伝えようとしても記録者の家系や仕事場の寿命が尽きちゃうもの。」


「獣人には野性生活好きの仲間もいるにゃ。だから山脈のほうのエルフの里とも近い場合があるんだにゃ。」

「そっか、樹上生活とかお友達が多そうよね。エルフの里って、どんな感じなの?」

「交流をしたことはあっても、それでも詳しい事は分からないらしいにゃ。なんでも、幾つも散らばる里には何本かずつ大樹が生えていて、その大樹からエルフの命が生まれるんだそうだにゃ。」

「それって神話の伝承でしょう。そうじゃなくて……。」

「目撃談だそうだにゃ。」

みんなで食事中だけど、私は改めてリェリュスの様子をまじまじと眺める。


私たちと同じようにこうして野菜も穀物もお肉も食べて、元気なしぐさ。町の中の同じくらいの女子と何も変わらない。

ちょっと長く尖った耳がアクセントで、ちょっと透明感があるだけで、お肌もこんなに柔らかい……。

「人間とは違う種族……ですらなくて、動物ですらないなんて。私は信じられないわよ。」

私は今の一口をほおばったそのほっぺを中指でぺたぺたする。血色もうっすらと赤みがかって健康そう。

「妾《わらわ》も信じられないですけど……。」

「私たちは見てしまってるのにゃ。」


これくらいの子供というのは元気すぎて、どうしてもしょっちゅう怪我をしてしまう。リェリュスもそこは同じで、この間ちょっと尖った物にぶつけて怪我をする、という事があった。大したことはなくて、みんなで手当てをしたんだけど。

白い包帯を染めたリェリュスの出血は赤色ではなくて、水色がかった白色だった。

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