ルネアンと夢と私
「ああやって私たちが日光浴でゴロゴロするのは、本能にゃんにゃけど、それって闘争本能の裏返しの休息でもあるんにゃ。でもにゃ、裏返ったままの獣人たちの居場所が獣人街にゃのでは……と。私にはそう思えるんにゃ。
うん、まあ人間にもそれは分かる気がする。人によって違うかもだけど。
「一人一人は個性だから仕方にゃいにゃ。」
そうそう、そこだよね。
個性もそうだし、たぶん年齢にもよるかな。
「私は冒険が好きだにゃ。でもずっと老後まで冒険するとも考えにゃいので、ちゃんとお金も貯めて、お客さんも作って行きたいにゃ。」
ああルネアン、あらあら。私よりずっとしっかりしてる。
「お店を作ることが夢と目標なんだね、ルネアン。とても素敵じゃない。」
「そのお店もにゃ、こっちの人間街でだにゃ。」
私ミレフィアと言ったら、夢と目標って何だっけ。イケメンと出会う事。そこまでしか考えてなくて冒険者をやってる。
と言っても私としては「冒険者のいる世界を選んだ」だけで、あとは女神様の采配でこうなったんだけど。
「いいなあ、そういうお店の将来。」
「お店を構えるまでは大変すぎて、私も特にゃ計画はないにゃ。まずは稼げる冒険者ににゃらないと。」
「うん、そうなった時はしばらく半々の職業でもいいわよね。冒険者をやってれば獲物を原料にして商品も調達できるし。」
女神さまにお願いをしてみようかな。
私は両手の人差し指と親指を[ ]の形にして、スマホを出現させる。ステータス・マネージャ・ホログラムの略。
直通電話。
「……ダメだ、自分の都合の事に使え。あなたとは個人交渉だから私の裁量でギリ許されるんだ。私だって、そうとは望んでいない第三者の人生を操作したら始末書ものだよ。」
「お店ができて、そこの店主になることをルネアンが望んでるのは確かですよ。望んでない……なんて事はありますか?」
「物事は順番を考えて理解するもんだよあなた。他の事と噛み合わなくなるだろう?」
「棚から牡丹餅……みたいなパターンでどうにかならないもんでしょうか。」
「なんなら、あなたに運営資金や権利が転がり込む事を『第2のお願い』にするかい? 共同経営すればいいぞ。あなたが店長なら。」
「それだとまるで私の夢になっちゃうし。それも急かなって。」
「まあいきなり店舗が宇宙から降ってきてそこに建っても、それがあなたたちの権利になる訳じゃないし。それなりに商い経験をしたり教えてもらったりして努力はしてもらう事になるよ。」
「こう見えて努力する時はしますよ。でも私はお店を開く人生にするか決めてないし、決めちゃったらそれで忙しくなっちゃいます。」
「相変わらず面倒な人だね。」
「だってほら、私はイケメンと恋をする人生があればいいんです。お店は彼氏さんがそう言う段階なら……なんて、きゃ~。」
「あのさ、えっと、あなたって分かってないのかな?」
「えっ、どうするのが良いですか? 何だか難しそう。」
「いや、私からは言えないよ、あなたの望みの話なんだから。」
女神様が何を言ってたのかケチだから教えてくれなかったので、『第2のお願い』は使いどころが保留になった。
「そこの通りのお店だった3階建てがにゃ、丸々一軒、空き家になったらしいにゃ。」
「土地や建物の権利は、領主さん? 都市自治体かな? でも取引も契約も、どっちも資金はないよね~。」
「いいんにゃ。これから私の姿が見えない時があれば見にきてにゃ。」
「へ、へえ~。」
それからしばらく気になってたけど、ルネアンはいつも私たちに同行してたり宿屋にいたので見に行く機会はなかった。
さっきからリェリュスが何か用事があるらしく、ルネアンを探している。
「ルネアンちゃんはどこ?」
「あ、そういえば……いないね。言ってた空き家に行ってみよう。」
私とセレネの2人が、通りを一つ曲がったすぐ近所の、聞いていたお店の建物に向かった。
うん、空き家のままだ。
1階の店舗は備品類が片付けられていて、開きかけの扉の奥には「内部の下見ご自由に」の札が掛かっている。
「おじゃましまーす……誰かいますか~?」
床埃も少なく、掃除されたガラス窓からは日光がきれいに差し込んでいる。奥には裏口と、2階へ続く幅の狭い階段があるわね。
私とセレネは2階にも上がって、居間と台所と、寝室のドアだけ開けて見てまわる。
さらに階段を上っていくと、3階の2室は倉庫になっているようで立ち入り禁止になっている。
「ルネアンちゃん、いないね。」
「いないわね。……このハシゴは、屋上があるのかな?」
リェリュスは身軽くハシゴを上り、何かに気が付いたかと思ったら、笑顔で静かに私においでおいでをしてくる。
「どうしたの?」
「し~~っ。」
なるほど。その辺りの斜めになった屋根と違って、ここは物干し場になってたような屋上だ。
「3階の屋上なら、見晴らしがいいし隣の建物の陰にもならないね。」
ご近所のお友達どうしと思われる獣人さんたちがくつろいでるのに混ざって、うちの女子もお昼寝中だ。




