召喚の間とTシャツと私
色々な光り方や光線がいっぺんに柔らかく全部放たれて、それぞれほどけて消えていった。見えてくるのは大きな室内。
天井が……吹き抜けどころじゃなく、とても高い。
私が真ん中に立っている場所は大きな魔方陣。5~6人のコスプレみたいな恰好の人たちが呪文を唱え続けたまま全員私を向いている。
私に声をかけてきたのは、その中の1人のご高齢な女性だ。
「セレンテルー王国にようこそおいでなされた、冒険者殿。」
なるほど、召喚されるとはこういう事みたい。どうすればいいんだろう……自己紹介かな。
「こんにちは、私は名前はまだ決めてなくて。恋愛ができる目的でここへ、、、、えっ、冒険者っ?」
「左様です、冒険者殿。見たところ、ご立派な魔剣士様でいらっしゃいますな。」
たしかに、さっき女神様は「冒険者が多い」と言ってた。私が冒険者になるなんて聞いてない、けど、そうじゃないとも聞いてなかった。
「まあ魔物から逃げればいいって言ってたくらいだから、何とかなりますよね~、、、、、えっ、魔剣士っ?」
「会話が一つズレる冒険者さまじゃの。」
うは~~、私の……何この露出衣装は。
異世界アニメではこれくらいが当たり前なのは分かるけど、私にビキニアーマーを着させてどうするんだあの女神様は。
国王の間に謁見しに行くというので連れていかれる途中で、外への廊下が見えたので、お婆様を引っ張って私は町が見える場所に立つ。
「あのう、お婆様。どこか近くにTシャツ屋はありませんか? 胸の上半分がこれでは。」
「その出で立ちは職業に固定ですじゃよ。レベルが上がるとだんだん際どく美しくなりますのう。」
「着替えの自由は……えっ。ありますよね?」
「どうじゃったろうか皆の者、あるわな? 魔剣士様にも色々な日常イベントがあるだで、その時には入手出来て着用できるようになっておるはずじゃ。しかし城下町を歩いたり戦闘の時はその設定衣装ののままじゃ。」
「え~~私こんな格好で外を歩くんですか?」
「初期衣装を日替わりで着替える冒険者なんぞ見た事ありゃせんですがな。一目で職業と戦闘タイプが分かってとてもお似合いですじゃよ。」
「いやいや、城下町がビーチで皆さん海パンや水着で歩いてるのなら分かりますよ。なんで私だけ男性誌のグラビア写真みたいな露出なの。」
「戦闘の時に動きやすいと聞いておりますじゃで。」
「いや、おばあさま。よく見てください、首から胸にかけて素肌です。素肌。無防備ですよね。心臓とか喉とか人間が即死する急所ですけど、その大事な部位が護られてませんよねこのアーマー。護ってれば助かることもあるはずなのに、これ着てたらわざわざ死にますよね。」
「憶えたつもりのキャラが変わったみたいで分かりづらい、と言われても知りゃしませんよ?」
「いえ、あの、さっき転生したばかりなんで誰からも憶えてもらってない今のうちだからです。さあ、Tシャツ屋へお願いします。」
「仕方ありゃせんのう、いちばん近いのは一つ目の角の手前じゃよ。」
何人もの衛兵が待機してたり門番が立ってたけど、私はお婆様をなかば羽交い絞めにして仲良さそうに城門を通過して目的のお店へ向かった。
多くの異世界ファンタジーというのは中世の西洋みたいに言われてるけど、時代を照らし合わせると大抵は19世紀。つまり近世を通り越して、近代に相当する。
19世紀って言うとどっかの大陸ではゴールドラッシュが起こってそこでジーンズが考案されたりしてる時代。Tシャツでなぜ話が通じてたのかと後で気が付いたけど、ジーンズ屋がこうして始まってる。だからそれ系のスタイルに合わせて、T字型のシャツも作られているみたい。
正確にはニット生地が生産されるのは20世紀からなので定義からは外れるんだけど、T字型でTシャツという呼ばれ方なんだから問題が無いわね。
意味が共通する物であれば、何と呼ばれていようと現代語から通訳してくれる翻訳性能ってそんなもの。
胸元もだけど、下も短いな……ジーンズも買っちゃおうか。
インディゴ染めの作業ズボン。これが輸入されたゴールドラッシュの余り物、リーバイスだわ。




