都市伝説と女神様と私
トラッキリーという走行車両をご存知でしょうか。
いかにもどこかの業務用車なのに、会社名はない。トラックなのに定期ルートではない。運転席には運転手が乗っているのに、その顔は絶対に見えない。
それは都会の戦死者を選ぶ女神の使い。この街の都市伝説では、トラック+バルキリー、略して「トラッキリー」と呼ばれています。
心を病んだ都会の者たちには、その車両を見つけるとフラフラと赤信号を無視して飛び込みたくなる者が少数いるという。だがそれは「自滅」。戦いもしなかった敗者を女神が選ぶはずもなくそこで消滅するだけ。
トラッキリー自体は道交法を守っているのに信号無視をした歩行者の前にそのブレーキは緩く、その取り消された免許証は警察署内を霊力で舞いながらで免罪符のように事故記録を塗り替えて、今日もこの街のどこかの公道を走っている。
……そんな都市伝説がもし本当だとしても。その通りだったらなおさら、私のつまらない人生には救いの女神になるなんてことはないというわけだ。
地元周りにも職場周りにも「恋人がいなくて素敵な男性」←たったこれだけの条件に当てはまる男性がいない。そんな生活が何年続いただろう。 画面の中やライブ会場に追いかける相手《推し》がいる性格でもないし。そもそもこの魅力がない女ではどうしたらいいって言うの。
あ、トラッキリーが走ってる。本当に走ってるのは初めて見た。
でもあれは、飛び込んだら絶対転生できない走行車両。基本的には小さな子供やお年寄りが信号無視をしてしまってそれを助ける位の状況が揃わないと成功しない。
それに車に跳ねられたからと言って確実に命を落とすとは限らないので、その場合は転生できないどころじゃ済まなくて、深刻な入院費や後遺症を負担したり失業したりするのは私自身になるのだから随分と割に合わない。
私の目の前で信号無視をする幼い子やお年寄りは1人もいなく、私の目の前をトラッキリーは通過した。交差点にとって平和の象徴である青信号に変わり、私は毎日と同じ退屈な横断歩道を歩く。
騒音の中の1つが爆音に変わった。折り返したさっきのトラッキリーが反対車線で……私を目掛けて向かってきている感じがする?
そう気が付いた時に、私の身体は全身の衝撃のあと宙に浮かび、赤く染まった景色の中で、私はこの状況を文学的に表現する時間も与えられないまま、、、、、。
ここはどこ?
「いやー突然でごめんね。最近はみんな歩行者マナーの意識が高まっちゃって、こっちもノルマがさ。」
「はあ、こんにちは。女神の使い様ですか?」
「……受容がずいぶん早いねあなた。ビビるわ。」
「だって有名ですよトラッキリーさん。それにしても酷くないですか、道交法くらい守ってくださいよ。トラッキリーさんですよね?」
「待て待て、私は女神だよ。確かにあいつはバルキリーだ。甲冑兵の時代では翼の生えた騎士姿だし、このクルマ社会ではトラック型でトラッキリーと呼ばれておるようだな。どちらにしても戦場で使者を選ぶ役目の半神だ。使いの者がえらい無作法をしたみたいだね、ごめん。」
「ノルマって言いましたよね、女神様。私の人生のノルマはこれからだったのにどうしてくれるんですか? 勝手~。」
「ああそうだよ私は女神だ。人間ごときが何をそんな。それに、あなたに非が無いわけじゃないんだからとぼけないでよ。ずいぶんと転生したい念を飛ばしてたっていうじゃない?」
「他人が頭の中で何を考えていたって、それを覗き込んで勝手に正当理由にするなんて。女神さまって今時そんなにリテラシーが低いんですか?」
「……仕方ないわね、じゃあ今回の事故の責任配分は50対50で。いい?」
「なんでそこで半々持ちの提案を。交通裁判所に持ち込んでいいって事ですか。」
「くっそ面倒な相手だな……神様が被告で判例に残ったら今後どうするのさ。……ああ、分かった、分かったから怒るな。じゃさ、こうしよう。」
結局私は自分の非を10%認めることになった。勝ち取ったこの90%で、女神様は私に何をしてくれるんですか?
「あなたは、希望の異世界はどこなの?」
きたきた。そんなの決まってる。
「はい、えへへ、あのですね。」
「私に照れてどうする。早く言って。」
「その……大正時代の~お、剣士様がいらっしゃるけっこう平和なお屋敷がいいなぁ。」
「35年待ちだな。」
「何それ、行列が何キロメートルあるのよ。」
「平和な世界って事は入れ替わりが少ないという事だ、それくらい分からんか。待ち人数は20人くらいだから困らんぞ。」
「いるの……20人も。じゃ、ど、どうしようかなあたし。待ってる間は何をして過ごすんですか?」
「何もしないよ。まあ腹は減らないけど眠る事もない。夢を見る時間はあるぞ意識がハッキリとしたままな。」
「いやだ~35年間もそんなの嫌だ~。」
「そこに決まったわけじゃないのに泣くな。言ったろう、ノルマがあるくらいちゃんと回っておる。もっと回転が速い異世界はたくさんあって、むしろ即採用の求人倍率はうんと高いんだ。」
「それってブラック……。」
「ちがうよ! どの異世界を選ぶ? 待ち年数から条件を絞るのが良いか?」
「ただでさえつまらない人生だったのに、ここで待ってるだけなんて耐えられるわけないじゃないですか。待ち時間が今日のうちくらいの範囲でお願いします。」
「まあそれくらいなら、あなたの願望に応えられる異世界が十分にあると思うよ。見える? この中から空中タップして。」
「あらVRみたいでいいですね、これ。ふふ、てっきりアナログ受付かと思ってました。えっと~。」
主人公性別 : 女子
年齢 : 思春期ちょっと後の安定期
時代 : 19世紀 *学園特典あり
転生の方法 : 召喚
人種 : 人間 *亜人は応相談
身分 : - *選べません
魔物の有無 : - *選べません
恋愛の有無 : 有り
恋愛の対象 : 異性
恋愛の種類 : - *選べません
「ねえ女神さま。[ *選べません ]がけっこうありますね。」
「待機日数を、まあ1年くらいまで変えれば選べる異世界になると思うんだけどなぁ。1年、待つ?」
「さっき1日しか待てないって言いました。364日も余計に待てません。」
「意志が固いのか、柔軟性が無いのか分かりづらいな。まあ今表示されてるのだったら悪くないと思うよ。回転が速いのは魔物と戦う冒険者が多いせいだから、魔物を極力避ければ長生きできるよ。うん。」
「その後のほう、異性との、恋愛は、保証されてるんですか?」
「その項目は出雲の神様の担当だから私じゃないけど。あいつは真面目だからちゃんと縁結びしてくれるよ。」
「あ、なんだか由緒あるんですね。……異世界にも融通が利く人でしたっけ。」
「人じゃなくて、神な。決まったかい? それじゃ行ってらっしゃい。」
「わあ、これが転生かぁ。」




