ルネアンとみんなと私
この宿屋の3階部屋は1人用としてはやや広い。2人でちょうどいいけど3人でもなんとか。
でもその人数感覚は、それぞれお互いに知人らしい距離感があればの話。
今この部屋の住人は5人。
私ミレフィア、ルネアン、ベアトリーチェ、リェリュス、エルゼ、以上5人の女子だ。身を寄せ合うというほどではないけれど、お布団の数が3人分なので何かしら誰かと誰かがくっつき合って朝を迎えるかな。
私たち5人は乙女なので普段は大変お淑やかなんだけど、寝相は不可抗力というか躾けのされ方の及び知れるところではないため、みんな大の字や小の字の表や裏で思い思いに睡眠中だ。でも1人だけは、そんな無意識下の彼女たちから奪い合うかのように1~2人に抱きしめられている事が多い。本人も満更ではなさそうにそのまま寝てる。それがルネアンだ。
モフモフできる長毛種や短毛種……というほどではないけど、思春期前頃の産毛がちな子がそのままもう少しフサフサになった感じ。そして全身の骨格が柔軟な上に、時々は日光浴の匂いがする。
そんな可愛さなので、まあ女子たちの抱き枕争奪戦の獲得対象になるのは仕方ない。
耳は頭の上にあるし腰に尻尾もあるけど、それでも呼ばれ方が「猫人」ではなくて「獣人」なのは、進化系統樹で言うと人類の一種でしかないからだ。ネコ科との混血はない。だから口の周りにヒゲはないし、お手々は人間と同じ。そう、肉球の感触は味わえない。でもどうしてもついお手々を開いてもらってプニプニしようとしたり頬っぺに触ってもらったりしてしまう。
本人のために言うけど、お食事の際、お皿のスープやシチューにはスプーンを使うわよ。
このセレンテルー王国生まれだから、召喚されて間もない私とダルクルトよりもずっとここの城下町に詳しいので頼りになる。
「でも生まれ育ったのは獣人街のほうだにゃ。城下町全体にはお祭りや買い物で寄ってたくらいで、私一人がこっちで生活するようになったのは最近にゃのだ。」
「それだけでもすごく大先輩だよ~。」
「妾は訪れる事はあっても行事関連の場所しか知りませんでした。」
「私なんて人の里が初めてです。ルネアンさんのおかげで楽しい。」
「あらそいをこのまぬけものびとのむすめよけだかさをほこるがよい。」
「お部屋を狭くしちゃうような家具とかは買えないけど。ご飯を食べたら、お買い物に行きましょう。ルネアン、案内を頼んだわよ~。」
「おお、任せるにゃ。」
武器類はお部屋に置いて、荷物が少ないうちに王立図書館と天文台を観光する。
「何かこの世界の調べ物をする時は、ここに来るのがいいにゃ。」
大聖堂にもお祈りくらいするつもりの予定でいたんだけど、それは中止となった。
「妾が遊びに赴くと緊急公式行事になってしまいますので……。」
「けっかいがわしにはきかぬようだがあやつらのかくごはよいのか?」
そして、もう何度かみんなで行ってる中央市場広場。防具類じゃなくても町を歩けるような衣類を古着で少しずつ揃えてる途中だ。
耳を隠すだけだったり、全身を隠すだけだった衣服以外にも、子供服っぽくさせてあげたい子たちもいる。
「腰から上下に別々なお洋服を、私も着るの?」
「あたしはわんぴーすひらひら~。」
あとはルネアンが散歩に大好きだという城壁回廊を回り道して、職人街で装備品も物色する。みんな冒険者だもんね。
みんなも、別に神聖じゃない日用品や、上級の長弓、おもちゃ魔道具を欲しがってたりしている。でも今日はそれらを買わない。こっそり買ったのは、新品の革手袋と革鞄と耳飾りのリボンを数種類。
「ルネアンちゃん、今日は名所案内してくれてありがとう。」
「わにゃにゃ、私にかにゃ。照れるにゃ。」
それから屋台街でちょっと幾つかの甘い物系名物を食べる。
王都焼きも甘くて美味しかったので、宿屋の女主人にもお土産の分を買っちゃった。
「日頃のお礼にね。」
誰かの分を忘れてるな、と気が付いたのは、宿屋が目の前になって、2階の男子部屋からダルクルトがぼーっと通行人を眺めてるのが目に入った時だ。
路上から手を振る私たちに、顔を向けるでも無しに、あご肘を付いてないほうの手で無気力に手を振り返す。
「そう言えば勇者さんには何か……。」
「あ……大丈夫よ。うん。」
いつでも渡せる私からのプレゼントは渡せてないままだし。
「ビキニアーマーの通行人すらいないなんて。」
男子部屋の勇者、聞こえる声でつぶやかなくていいですから。




