第4話 僕と執事長
————お昼ごはんを挟んで、午後からは中庭で体育の授業だ。
僕は木製の剣を握り締めて、燃えるような赤毛のガッシリとした体格の男性と向かい合っていた。
この人こそがウチの執事長で、エリーゼの父親でもある。つまりメイド長の夫ということだね。
「さあ、ベルディオ様。始めましょうか!」
「う、うん。よろしくお願いします……」
「よろしくお願いします!」
執事長が爽やかな笑顔で木剣を構え、僕も慌てて構えて見せる。
授業の内容は剣術なんだけど、正直に言って僕はあんまり身体を動かすのが得意じゃない。でも、執事長のことは好きだからこの時間は僕にとって楽しいものでもあったりする。
「————今の打ち込みは素晴らしかったですよ、ベルディオ様! 腰がしっかり入っておられました!」
「ほ、本当⁉︎」
僕が息を弾ませながら声を上げると、執事長は木剣を振って見せる。
「ええ。剣に体重がしっかり乗っていました。手打ちではなくなっている証拠です。今の感覚をお忘れにならないうちに続けましょう!」
「うん!」
執事長に褒められた僕は嬉しくなって、息が整わないうちにまた打ち掛かった。
◇
————今日の授業を終えた僕は中庭のガゼボ(西洋風東屋)で乾いた喉を潤していた。
「うーん! やっぱり執事長のいれてくれた紅茶は美味しいね!」
「恐れ入ります」
執事長はニコリと笑顔を見せて胸に手を置いた。剣術の授業中は声を張り上げる時もあるけれど、普段の執事長は穏やかで優しい人柄なんだ。
僕は午前中にメイド長から聞けなかったことを訊いてみることにした。
「執事長、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「母上のことなんだけど……」
「奥様のこと、ですか……?」
執事長はメイド長と同じリアクションを取った。
「うん、母上っていったいどんな人なのかなって……」
「…………」
僕の質問に執事長もやっぱり考え込む様子を見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「……ベルディオ様。もしや奥様に何かご遠慮をなされているのでは……?」
「…………!」
執事長の言葉に図星を突かれた僕は思わず黙り込んでしまった。
「……うん。執事長だから正直に話すけど、実はそうなんだ。母上って、うまく言えないんだけど、なんだかすごい迫力があって気軽に話しかけることが出来ないっていうか……」
「…………」
「僕にすごく厳しいし笑顔を見せてくれたこともあんまりないし、母上は僕のこと好きじゃないのかな————」
「————それは違います、ベルディオ様!」
僕の言葉の途中で執事長が声を張り上げて、僕の肩をガッシリと掴んだ。
「そのようなことはございません。奥様はベルディオ様のことを誰よりも愛しておられます……!」
「執事長……」
執事長は自分が傷つけられたみたいに表情を歪ませて僕に説明する。僕は執事長にそんな苦しい思いをさせてしまったことが、なんだかすごくいけないことをしてしまった気になった。
「……ゴメン、執事長。変なこと訊いちゃって……」
「いいえ。とんでもございません」
執事長は笑みを浮かべてそう言ってくれたけど、その表情は少し寂しげなものだった。
「……執事長。僕、ちょっと疲れちゃったから部屋に戻って休むね」
「それでは、私がお部屋までお連れしましょう」
「大丈夫。一人で戻れるから」
「ベルディオ様……」
心配そうにつぶやく執事長に背を向けて僕は自分の部屋に戻った。
体育のあった後はいつも昼寝をする僕だけど、今日は何か色々考えこんじゃって結局夕食まで眠ることが出来なかった。




