第3話 僕とメイド長
————次の日、僕は自分の部屋で算数と国語と歴史の授業を受けていた。
幼なじみのエリーゼは近くの学校に通っているけれど、僕はあまり学校に馴染めなくて家庭教師に勉強を見てもらっているんだ。
ちなみに教師はこの邸のメイド長で、体育と図工以外の科目を教えてくれている。
メイド長は青空みたいな綺麗な髪をしていて、表情はあんまり変わらないけれど母上と同じくらいの美人なんだ。
そして、昨日ダンスの練習に付き合ってくれたエリーゼの母親でもあったりする。
「————では今日の国語はここまでです。次の歴史まで少し休憩と致しましょう」
メイド長が眼に掛かった青い前髪を払いながら言うと、タイミングを測ったように若いメイドがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
このビスコッティはメイド長の手作りで僕が大好きなおやつだ。
喉をゴクリと鳴らした僕が手を伸ばすと、メイド長の待ての声が掛かる。
「ベルディオ様、その前にまずしなければならないことがございますね?」
「う……、何かを食べる前には手を洗う……」
僕の返事を聞いたメイド長は「よろしい」とばかりにゆっくりとうなずいた。
◇
「————美味しい! やっぱりメイド長の焼いてくれたビスコッティは最高だね!」
「恐れ入ります」
僕の心からの褒め言葉に、普段はあまり変わらないメイド長の表情が少し緩んだ気がした。
その様子を見た僕はメイド長に質問を投げ掛ける。
「メイド長、ちょっと訊いてもいい?」
「先ほどの授業で何か分からない箇所がございましたか?」
「ううん、そうじゃなくて……母上のことなんだ」
「奥様の?」
僕の言葉にメイド長が珍しくキョトンとした顔つきになった。
「うん。メイド長は確か父上が子供の頃からウチにいるんだよね?」
「はい」
「それじゃあ、母上はいつ頃ウチに来たのかな……?」
「…………」
メイド長は僕の質問に考え込む仕草を見せた後、静かに口を開いた。
「……奥様がお邸に来られたのは15年ほど前になりますね」
「15年前……。母上はどこから来て何をしてた人なんだろう……?」
「————ベルディオ様」
「え?」
メイド長の声がさっきまでより少し鋭くなった気がして僕はちょっとビックリしてしまった。
「申し訳ありませんが、奥様のプライベートなことについては私の口から申し上げることは出来かねます」
「あ……、そうだね。変なことを訊いてゴメン……」
「いえ……」
メイド長は小さく答えた後、少し経ってから口を開いた。
「ベルディオ様、やはり先ほどのことは直接奥様にお尋ねになられた方がよろしいかと存じます」
「う、うん。そうだね。そうしてみるよ……」
僕は曖昧に答えたけれど、メイド長は納得したようにうなずいた。
「それでは、本日最後の歴史の勉強を始めましょうか」
「うん。よろしくお願いします」
僕は食べかけのビスコッティを口に放り込み急いでお茶で流し込む。
さっきまであんなに甘かったビスコッティが何かちょっとだけ苦く感じた。




