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54話

よろしくお願いします

「魔王を騙す人間め!」

魔族の一人が叫ぶように言った。

「騙されているのはあなた達の方よ!」

沙久羅の声は魔族の声をはるかに超える大きさで響いた。

「皆、騙されるな!」

後ろの方から誰かが叫んだ。その声に応じるかのように魔族たちが魔力を解き放つ。

「やっぱり、誰か先導する奴がいる」

耀に耳打ちして、沙久羅は襲ってきた魔族を手から伸びた光の糸で拘束し、魔族の固まる場所に放り投げた。

「耀、少しの間で良いから、ここを任せても良い?」

沙久羅は考えがあるのか、魔族たちの方を睨みながら聞いた。

「それは構わないけど……」

「じゃあ、お願いね」

耀の言葉を遮って沙久羅は言うが早いか、床を蹴って大きく跳躍した。

耀は沙久羅を援護するように沙久羅目掛けて降ってくる魔力の球を(ことごと)(はら)っていった。

「強くなれたんだね」

沙久羅は別れた時よりも精霊魔術を使いこなしている耀をみて呟いた。闇の精霊はともすれば魔族の能力に近い。他人までも巻き込みかねない危険な能力なのだ。耀がそれを自然に使いこなしているのが嬉しくもあり、少し寂しかった。


でも、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったね。


成長している耀を横目に知らず笑みが零れる。

「じゃあ、私は私のするべきことをしなくちゃね」

そういうと短く単語のような言葉を紡いだ。

「…耀、目の前五十メートル先の魔物を討って」

沙久羅は何かに気付いたようにはっと顔を上げると、耀に指示した。

「…わかった。イヴァーレ、少し力を借りる」

耀は一瞬躊躇したが、沙久羅の言葉に何かあるのだろうことを悟り、すぐに実行した。

その間に沙久羅は耀の担当していた魔族たちを引き受け、両手に持った黒い鎖を自在に操り、薙ぎ払っていった。

「……俺、沙久羅には逆らわないようにするよ」

それを見ていた耀はイヴァーレにそう呟いたのだった。

『…そうか……お互い苦労しそうだな』

イヴァーレは憐れむような瞳で耀を見下ろしていた。

「耀、先に進むわよ」

沙久羅はそんな会話があったことも知らず、先を促していた。

「まあ、今はここを抜け出すことが先決ってことだよな」

『そうだな』

二人はそう頷き合って後退しつつある集団を退かせるために魔術や剣を駆使していった。

先導する魔族がいなくなったことは大きく影響しているのは明らかだった。



(そそのか)した者が誰かはわかっている。それは不問にしよう。だが、そなた等は鍛え直しだ」

やっと立っている者が数人、魔王を気だるげに睨んでいた。戦力は圧倒的に自分たちが有利であったにもかかわらず、魔王はたった一人で将軍連合を打ち破っていた。将軍達は息も絶え絶えで、戦う気力さえ奪われていた。

「それにな、お前たちはどこを見ていた?敵は我だけではなかったことにまだ気づかぬとは……本当に情けない」

魔王は大量の魔族を率いながら、それでも先を走ってくる人達の姿を確認してそう嘆いた。

「…は?」

将軍の一人が間の抜けた声を出し、魔王の視線を追って目を疑った。取るに足りない人間が魔族を薙ぎ払い、こちらに近づいている。それもたった二人で蹴散らしているのだ。夢にも思わない光景だった。そして、庇われながら来る少女は見紛うことなき魔王のお気に入りと噂の人間の子供。あれは今頃死んでいるはずではなかったか。

「な……んで」

将軍達は戦慄した。魔王の姿を直視することさえできずにいた。それほどまでに魔王の魔力は増大し、怒りがそこにいる者すべてに伝わった。

「そなた達は我の怒りを買ったとなぜ気づかぬ」

魔王はそう呟くと人間たちのもとに一瞬で移動した。

「美奈」

できるだけ優しく愛しい者の名を呼んだ。

「…ま、おう。会いたかった」

ラティアの腕の中から必死に手を伸ばし、魔王の頬に手を触れた。能力の使い過ぎでまだ意識が混濁していた。

「美奈様は大丈夫です。今は貴方様の魔力を使い切っただけですから、少し休めば戻ります」

ラティアはそう言いながら魔王の腕の中に美奈を抱かせた。魔王はほっとした表情をして、美奈の頭を一撫ですると表情を一変させ、先ほどの怒りを露わにして美奈を抱いたまま、振り返った。

「我に刃向う者はすべて葬り去る。我に従う者のみ命を助けよう。将軍、民草関係なく我に従う者のみこの世にいられるものと心得よ」

魔王の言葉はどこまでも響き渡り、本当に世界中に宣言が響いているようだった。

ありがとうございました。

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