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29話

よろしくお願いします

暗く淀んだ世界。どこまでも続く混沌。争いは絶えず、自分が君臨する今でも戦争は絶えない。争いを好まなければこの世界では生きてはいけない。

 ときどき覗くあの世界は眩すぎた。そこで出会った乙女は美しく清らかで自分をも救ってくれるのではないかと思わずにはいられないほどだった。だが、あの乙女も今はこの世界にはいない。

 何度嫁を取りに行ってもあの乙女はいなかった。ならば、あの世界ごと、自分のものにしてしまえば良い。

 手にした酒を煽って近くにいた少女に酌をさせた。

「そなたはここにいて楽しいか?」

 少女の顔は何も感じていないようで無表情だった。

 少女自体は言葉も発することなく微かに横に振る。

「そなたを連れてくるのは早かったようだな」

 一つ呟いて少女の頭を撫でると抱き上げた。

「今日は部屋にいると良い。そのうちそなたの友人がここに来よう」

 彼の言うことに初めて少女が反応した。大きく首を横に振る。

「ああ、あうっ…ああっ」

 少女は言葉を失い、喘ぐように発することしかできなくなっていた。それでも必死の抵抗を見せる。もうやめてっ、と。

「やめるわけにはいかんのだよ。私は昔決めてしまった。あの世界を手に入れる。お前の故郷を我が手にすればそなたも会いたい人に会えるようになる」

 少女はその言葉を聞いてもまだ必死に首を振り続ける。涙を流して訴えても魔王はそれ以上聞いてはくれなかった。

「何を泣く?そなたの涙のわけが私には解らん。そなたの言葉が私に届けば少しは良かったのかもしれんが…」

 そう言って魔王は少女に優しく頬に唇をあてた。

 少女は一瞬魔王を見上げた。なんて悲しい瞳をしているのだろう。

「美菜。そなただけだ、私に安らぎをもたらしてくれるのは」

 魔王はそう言うと少女を部屋に残して去ってしまった。

 少女、美菜に身体の自由は殆どない。両足は動かすことはできず、言葉も呻き声の様な声しか出せなかった。故郷の世界で死を迎え、この世界に連れ去られてから二年。小学生の身体のままもう成長は止まっていた。

 ここに連れられた時は殆ど泣いてばかりいた。魔王が片時も離さなかったから更に恐怖が勝り、泣き止むことはなかった。困り果てた魔王の表情を見ているうちに感情があるということを知った。

しかし、まだ心を開くことはできなかった。表情は無表情になり、言葉はいつしか失われていた。無理矢理連れ去られた反動からか足の自由は最初からなく、逃げることもままならなかった。

 最近は魔王が自分にだけ優しいことを知った。他に何人か連れ去られた人たちはいたけれど、自分の様な扱いはされていないらしく、魔王の側近に下賜されて久しい。今は自分しか傍に置かれていない。

 時々部屋を連れ出す時は魔王自ら迎えに来る。時々疲れた表情をしている時があり、その時は泊まって行くが手を出されたことはなかった。

 自分が泣くと魔王は決まって困った顔をする。そして、優しく頭を撫でる。

 どうして、こんなことをしているのだろう。もう、あの世界から手を引けばあなたはきっとこんな顔をしなくて済むかもしれないのに、如何して…と美菜は思う。何が欲しいの?何を求めているの?

 少しずつ惹かれている自分が居ることが信じられなかった。あんなに憎んでいたのに。

 先程出て行ったドアを見つめて、美菜は思っていた。



「あの娘、魔王様を汚す」

 美菜の部屋の前で苦虫を噛み潰したような表情をしてひとりの女性が立っていた。その部屋は魔王しか立ち入ることができない結界の中だった。女性もそのことが分かっているから手を出せずにいた。外に連れ出されたとしても魔王が片時も離しはしない。

 ただ地団太を踏むしかなかった。

 魔王に相応しいのはこの世界で生まれた自分以外あり得ない。しかし、魔王は時々あの世界に足を運び、人を連れてくる。今までは遊び道具を連れてくるだけだと思っていた。しかし、二年前は違った。今までになく小さな少女を連れてきた。それも愛玩動物のようにするのかと思っていた。

 可愛らしく泣く少女を魔王は献身的に面倒見ていた。

 だから呪ってやった。それは上手く行き、少女は言葉を発することができなくなった。

「こんなところで何をやっておられるのですかな、将軍?」

 女性に纏わりつくような声色の青年が話しかけてきた。

「何でもないわ、カグエリル将軍。そろそろ貴公も行かねばならぬのではないか?」

 女性に促され、思い出したように青年は手を打った。

「そうでした。では、参りましょう」

 青年はそう言うと女性を促した。

 カグエリルは美菜の部屋を一瞥する。

「…待っていなさい、至宝の乙女」

 にやりと笑うその顔は陰湿だったが、女性もそれには気付かなかった。

ありがとうございました。

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