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1_11 サーバー再起動(リブート)

シェイディアン編本編完結に伴い毎日更新に切り替えます。

完結まで毎日20時更新

魔鉱エンジン列車暴走事故から一週間弱……。

それは深い、絶対的な静寂だった。

列車事故の直後、世界システム(神)のセキュリティ規制――『403 Forbidden』を無理やりスワイプで叩き潰し、特権コマンド『KILL -9(シグキル)』を強行した代償として、千春の脳内グラフィックボードは完全にシャットダウンされていた。

だが、その「ペナルティ期間」が、ようやくカウントダウンの終盤を迎えようとしていた。

脳の奥底を執拗に苛んでいた重い耳鳴りとノイズが、ある瞬間を境にスッと引き始める。 目を閉じているはずの、光の一片すら存在しない暗闇の奥。そこに、千春にとって嫌というほど見慣れた、冷たいグリーンの文字列がふっと、流れるように滑り込んできた。


[SYSTEM] Penalty duration: 164 hours elapsed.

[SYSTEM] Rendering progress: 92% (Estimated remaining: 03:52:15).

[SYSTEM] Temporary GUI rendering enabled (Low-Res Mode / 144p).

[SYSTEM] Good morning, CHIHARU.


「……あ?」


脳内で、千春の意識がカチリと覚醒へとシフトする。 思考のプロセスが、再起動(リブート)のシーケンスを感知していた。


千春はそこで目を開いた。どうせ開いたところで暗闇の視界だと思っていた闇が、バチバチと激しいブロックノイズを放ちながら明滅を始める。 暗闇の中から浮かび上がってきたのは、極度に解像度の低い、144pレベルの粗末なローポリゴンとモザイクのような世界だった。ド近眼どころの騒ぎではない。部屋の家具も壁も、バケツツールで塗ったような雑な色面とワイヤーフレームでしか判別できない。

そして、その超至近距離に迫っていたのは―― 金色の光る幾何学模様の塊と、銀色のぼんやりした巨大な影。ヴォルフの超ローレゾな顔面モザイクだった。

「うおっ!? 近っ!! 離れろモザイク野郎! 面の解像度低すぎてグラフィック完全に崩壊してんだよ!」

千春は条件反射的に上体を跳ね起させ、ベッドのヘッドボードに背中を打ち付けんばかりにのけぞった。

「……っ!?」

覗き込んでいたヴォルフの影が、心臓が跳ね上がるほどの勢いでバッと後ろに飛び退いた。 何やら端整な顔立ちらしき輪郭を強張らせ、金色のドット絵のような目を大きく見開いている。

「……ち、千春……? お前、今、私の顔が……見えているのか?」

かすれた、裏返りそうな低い声。 ヴォルフはまるで、目の前にいる存在が本当に「生きている人間」なのか、それとも一瞬で崩れ去る幻影なのかを確かめるように、震える手を伸ばしかけ、途中で硬直させていた。

「見えてねぇよバカ! モザイクとドット絵の塊が至近距離に迫ってきたから驚いただけだ! まだグラボのドライバーが完全に上がってねぇんだよ!」

千春が刈り上げた右後頭部をガシガシと掻きながら文句を吐き捨て、視界の隅に浮かぶプログレスバーを睨みつける。

『残り時間:3時間52分15秒』

「チッ……列車に《KILL -9《シグキル》》叩き込んだ時間から計算したら、まだ168時間(7日間)経ってねぇじゃねぇか。13時ジャストにならねぇと制限付きのローレゾモードでおあずけかよ。……クソ不親切なOSだわ」

「ローレゾ……? 13時……?」

理解できずに首を傾げるヴォルフ―のぼやけた影に対し、千春はフンと鼻を鳴らしてベッドの上に胡坐をかいた。

「要するに、今はド近眼状態だっつってんだよ。部屋の輪郭と、お前がヒドいクマ作って徹夜続きのブサイク面になってることくらいしか判別できねぇわ」

「ぶ、ブサイク……!? 誰のせいで私が寝不足になっていると思っているのだ……!」

ヴォルフは抗議するように声を荒らげたが、その声には安堵と動揺が入り混じっていた。ナイトテーブルから湯気を立てるスープのトレイを引き寄せると、スプーンをスープに浸して千春の口元へ突き出してきた。

「……見えないのなら、まだ私が食わせてやる。口を開け」

「自分で食うわ! 右手は元からピンピン動くだろーが!」

千春は袖から右手だけをちょこんと出すと、そのスプーンの柄を乱暴に叩き落とすようにして奪い取った。

「貴様、せっかく私が食べさせてやると――」

「うるせぇ! 一口食わせろ!」

スプーンを口に運び、濃厚な温かいポタージュを胃に流し込む。 五臓六腑にしみわたる滋養。だが、胃を落ち着かせながら、千春は極悪な笑みをヴォルフに向けた。

「……ていうかよぉ。目が見えねぇのをいいことに、この一週間、ポタージュだの、苺のソフトクリームだの、パンケーキだのを、毎日毎日『あー』して食べさせやがって……! 風呂でも壊れ物みたいに、全身隅々まで液石鹸の泡で洗いやがって! こちとらなぁ、視覚ポートが絶たれてた分、聴覚と触覚がデスマの修羅場期より冴え渡ってたんだよ。全部筒抜け、完全ログ保存フルキャプチャされてんだよボケ!」

「なっ……!?」

ヴォルフの顔―のモザイクが、一瞬で耳の先まで真っ赤に染まるのが色の変化で分かった。 世間では冷徹だの天才だの言われているシェイディアンの領主が顔を真っ赤にして完全にフリーズし、オーバーフローを起こしたシステムのように口元をパクパクと動かしている。

「お、溺れたら困るからだ! 貴様が勝手に動いて頭を打ったら、その足りない脳ミソが完全に潰れると言っただろう! そもそも、普段からまともに飯を食わん貴様が悪い!」

「誰が足りない脳ミソだクソガキ! その脳みそに救われてんのはどこの領地だ! あと、あのソフトクリームは練乳みてぇでマジでうまかった。そこだけは評価してやるわ!」

「……っ、やかましい! ならば大人しく完食しろ!」

「食うわ! だからお前はちょっとそこ座ってろ、目障りだ!」

部屋の外で聞き耳を立てていたセバスとマーサが、「まぁ、千春様のお元気な声が」「これで坊っちゃんも一安心ですねぇ」とクススク笑い合う声がかすかに漏れ聞こえ、千春は「外の爺さん婆さんも静かにしろ!」とスプーンを振って毒づいた。

午前中、千春がスープを平らげて羊皮紙の束を眺めている間も、システムプログレスは静かに進んでいた。 144pから360p、720pへと少しずつ描画精度(レンダリング)が上がり、部屋の家具やセバスたちの輪郭が立体感を帯びてくる。だが、肝心のピントは甘く、全体に白いモヤがかかったような状態が続いていた。 そしてヴォルフは、一瞬たりとも千春のベッド脇から離れず、じっと祈るような視線で千春を見つめ続けていた。


――そして、正午が過ぎ。 領主館の館内に、重々しい時計の音が一回響き渡り……『13:00』を告げた、その瞬間だった。

キィィィン――!

耳鳴りのような澄んだ電子音が千春の脳内を一直線に駆け抜ける。そして視界の隅のログが一気に超高速で流れていった。


SYSTEM] Penalty duration expired (168 hours).

[SYSTEM] Security restriction completely lifted.

[SYSTEM] Visual sensor fully recalibrated: 1080p TrueColor.

[SYSTEM] Welcome back, CHIHARU.


――カチリ。

世界の焦点(アライメント)が、完璧に噛み合った。


視界を覆っていた不快なモヤとブロックノイズが、潮が引くように一瞬で吹き飛ぶ。 窓から差し込む常冬のやわらかな光が、真の『TrueColor』となって部屋の隅々まで満たしていく。

そして、千春の目の前で、息を呑んで立っていたヴォルフの顔に――バチッと、極限の解像度(FHD)でピントが合った。

「お、見えた」

千春はベッドの上でパチパチと目を瞬かせた。

「千春?今度こそ見えるのか?」

「おー。見える見える。バッチリ」

そこに現れたのは。

一週間分の凄まじい寝不足で、目の下に痛々しいほど濃いクマを刻み。 限界まで痩せ細り、浅い呼吸で肩を震わせながら、今にも壊れそうな目つきで千春を見つめる、二十四歳の若き領主の真の姿だった。

そして。 その端整な顔立ちに嵌め込まれた金色の瞳から、一粒、また一粒と、大粒の雫が溢れ出し、白い頬を伝ってポロポロと崩れ落ちる瞬間だった。

「……あ?」

その涙に、千春は息を呑み、思わず眉をしかめた。

「お前は……お前はその身体を代償に、我が領地の民と魔鉱列車という技術を救ってくれたのだ……! そのお前にこれ以上何かあったと思ったら、私は……私は……!」

ヴォルフがベッドに乗り上げ、千春の右手を両手で激しく掴み取ると、そのまま己の額へと強く押し当てた。 まるで祈るように深く頭を下げ、千春の胸元に頭を押し付け、厚い肩を激しく震わせるヴォルフ。

その重すぎる感情の熱量に、千春はギリギリと歯をすり合わせた。

「うっせーわ! 大げさ! だっる! うっざ! 出来たからやった! 目の前にやったら出来ることがあった! だからやった! それ以上もなにもねーわ!! いちいち大げさにすんな、きっちーんだよ!」

「言わせてくれ、千春、ありがとう……! お前のおかげで、多くの民が助かったのだ……!」

「だっる! そーゆーのいらねーんだよ! 礼ならもうもらった! タバコとこれ! 左腕! これ以上いらねーよ! これでももらいすぎなくらいだ。世の中等価交換、もらい過ぎも払い過ぎもバグになんだよ!」

千春はこれでもかというほど叫んだ。 大声を出しすぎてくらりと脳が揺れたが、それでも右手を離そうとしないヴォルフの銀髪に、千春は義手の左手をそっと乗せた。

「なぁ、見ろよ、お前が作った腕。こうして俺の死んでた左腕を動かしてんだ。お互いが出来ることで応えしてお互いを生かした、それでいーじゃねーか」

バッとヴォルフが顔を上げた。 その金色の瞳は、激しい寝不足と涙で真っ赤に充血していた。

「……ふっは。ひっでぇ顔だな、クソガキ」

千春が不器用に破顔すると、ヴォルフは情けなく眉を下げた。

「笑うな……。無事で、本当に良かった……」

「治ったっつーの。まったく、クソ不親切な一週間メンテだったわ」

千春はベッドの上に胡坐をかき直し、満足そうに息を吐くと、そっと右腕の左袖をまくった。 一週間のあいだ、触覚と感覚だけで動かしていた、ヴォルフ作の『銀と真鍮のスタビライザー義手』。その全貌を、今度こそ己の完全復旧した「目」で真上から視認する。

「……」

千春は、思わず息を呑んだ。

触覚だけで分かっていた以上の、それは恐るべき「工芸品」であり「精密な実用ギア」だった。

千春の細すぎる腕の質量、そしてそれに伴う歩行時の体幹のブレを完璧に相殺し、荷重を背中と腰へスマートに分散させるフレームの絶妙な湾曲。 シルバー鋼の滑らかなラインには、無駄な魔力の熱暴走を防ぐための精密な放熱(クーリング)ラインと、関節の衝撃を逃すための美しい幾何学模様の魔術刻印が、ミリ単位の狂いもなく刻まれている。 右手一本で、ワンタッチでバチッと磁力固定できるラチェット構造のバックル。

千春は右手の指先で、スタビライザーの冷たい、けれど滑らかなシルバーの刻印をそっと撫でた。

「……お前、本当に手先器用だな。この左腕、背中と腰への荷重分散ロジックが完璧だ。重心の相殺もミリ単位だし……まぁ、あのクソ重くて暑いホルダーよりは100倍マシだ。ありがとな、クソガキ」

千春が、いつもの嘲笑を交えず、技術者(エンジニア)としての純粋な敬意と感謝を、静かな声で告げた。

「……!」

ヴォルフは不意を突かれたように呼吸を止め、耳の赤さを隠すように横を向くと、ふっと嬉しそうに口元を緩めた。

「……お前が『無駄だらけのスパゲッティコード』などと我が領の技術を馬鹿にするから、完璧な仕様で組んだだけだ。気に入ったなら、二度と外さず大人しく着けていろ」

「言われなくても着けとくわ。これねぇと肩のバランス取れねぇしな」

千春がフンと鼻を鳴らした瞬間。 首元から、シャラリと金属が擦れるような音がして、チョーカーが波打つ。 細身の黒蛇――闇の精霊ダクネスが首をもたげ、赤い目を爛々と輝かせてきた。

『キシシシ、パッチ当て完了、サーバー再起動おめでとうなぁ、チハル。左のポート(左腕の義手)も、なかなか綺麗にマウントされてるじゃねぇか』

「二度とこんな不親切な長期メンテすんじゃねぇぞクソヘビ。サ終するかと思ったわ。次やったらその細い三半規管に直接《KILL -9(シグキル)》叩き込んで、二度と再起動できねぇようにしてやるからな」

千春は容赦なくダクネスの蛇頭を右手で掴み、ぐっと引っ張ってからチョーカーの位置に押し戻した。 ダクネスは『キシシ、冷たい奴め』と笑いながら、再び大人しく首元に収まる。

「さて、千春」

ヴォルフが、スッと立ち上がった。 そして、部屋の執務机の上に山積みにされていた羊皮紙の束を、容赦なく千春のベッドの上にドサリと放り投げた。

「目が治ったなら、約束通りこれを読んでもらおう。我が領の運命を左右する、農地改革プロジェクトの初期仕様書だ」

「……はぁ? 治った途端にこれかよ。デシマル10進法もまともに使えねぇ奴らの書いた仕様書なんて、見るだけで目が腐るんだけどな」

愚痴を叩きながらも、千春の右手はすでに羊皮紙の束を掴んでいた。 広げられた図面には、現地の技師たちが「融雪エネルギーを農地に回す」ために組み上げた、無駄な記述と非効率なループ処理で埋め尽くされた、目眩がするほどのスパゲッティ魔導式が並んでいた。

千春の口角が、極悪に、そして不敵に吊り上がる。 その瞳に宿ったのは、かつて徹夜のデスマを数々踏み越え、クソシステムを根こそぎリファクタリングしてきた、血気盛んなドカタSEの光。

「……へぇ。やっぱり脳みそまでスパゲッティな奴らが書いたコードだな。よし、お望み通り、俺の目で直接、このクソシステムを根こそぎ最適化(デバッグ)してやんよ!」

千春はナイトテーブルからペンを引ったくり、不機嫌に、けれど最高に楽しそうに、羊皮紙の上に狂暴な速度で「修正コード」を書き込み始めた。


◆◆


千春が数枚修復コードを書き進めたところで、千春のペンの動きがピタリと止まる。

「……チッ。複数スレッドの同期タイミングが合わねぇ。机上デバッグじゃ限界があるな。本当にこのスレッドが衝突(スレッドセーフ)せずに動くか、テスト環境(ローカルホスト)なしじゃ動作保証できねぇぞ」

眉間にシワを寄せて行き詰まる千春。ふと、自分の左腕を支える、銀と真鍮のスタビライザー義手を見つめる。 一週間のあいだ、感覚だけで少しずつ指を動かすイメージを掴み、ヴォルフが徹夜で仕上げてくれた最高の結晶。

「……待てよ。この義手のフレーム、俺の『ダクネスの闇魔力』を通したらどうなる?」

千春はベッドから這い出し、ソファの近くにある暖炉へ、まだ少しおぼつかない足取りで近づいた。 暖炉の中では、千春がかつて「ミニファイ&エグゼ」をかけて最適化した白いこぶし大の魔鉱石が、静かに熱を放っている。 千春は右手でその魔鉱石を一個、慎重に取り出した。

「おい、何をしている。熱いぞ」

部屋の隅のデスクで書類をめくっていたヴォルフが、怪訝そうに眉をひそめて立ち上がる。 千春はそれを無視して、取り出した魔鉱石を、まだぎこちない動きの左手(義手)にしっかりと持たせた。

「テスト環境がないなら、この石一個を検証用モジュールにする。……ちょっと疎通確認(ピン打つ)だけだ、黙って見てろ」

千春は、義手の指先から、魔鉱石に向けて少量の魔力を流し込んでみる。 素手(右手)で直接魔導回路を弄るときは、魔鉱石の不規則な魔力の熱暴走やシステム的なノイズが直接指先に伝わり、脳に走る激しいストレスを伴っていた。 だが、このスタビライザー義手を通した瞬間――驚くほどクリアな「静寂」が脳内を包み込んだ。

「……え?」

千春は思わず目を見張った。 ヴォルフが、千春の細すぎる腕への負荷を減らすため、徹夜で刻み込んだ精密な「放熱(クーリング)ライン」と「衝撃を逃す魔術刻印」。それが、千春の放つノイズだらけのハッキング用魔力を完全に均一化(フィルタリング)し、魔導回路とのズレをなくす**「超高性能なインピーダンス整合&ノイズフィルター」**として、奇跡的なまでに機能していた。


[SYSTEM] Hardware interface detected: STABILIZER_V1.

[SYSTEM] Intercepting magic pulse... Noise canceled.

[SYSTEM] Loading device memory dump... Success.


脳内コンソールに、ボケのない、極めて鮮明なTrueColorで魔鉱石の内部プログラム(レジスタ値)が、整然としたツリー構造としてロードされていく。

「……マジか。ノイズがゼロだ。お前、この義手にどんだけ完璧なシールド処理施したんだよ」

「シールド……? 私はただ、お前が魔力を流したときに、その脆い左腕が熱暴走や衝撃でこれ以上壊れぬよう、徹底的に防御壁(プロテクト)を組んだだけだが……」

ヴォルフは困惑しつつも、千春の左手の義手から青白い静かな魔力のラインが暖かく発光しているのを見て、絶句した。

「それがハッキングのノイズフィルターに化けたんだよ! 最高の『デバッグポート』じゃねぇか!」

千春は不敵に笑うと、右手で持ったペンで羊皮紙の仕様書をガリガリと修正しつつ、左手の義手を通して、魔鉱石の中の中枢プログラムを直接リファクタリングして書き換えていく。

右手で「仕様書の修正」、左手で「実機の単体テスト(ローカル検証)」。


「……よし。ローカルテスト一発合格(ノーエラー)。並列処理のスレッドも衝突せずに綺麗に流れたわ。これなら農地改革の温室制御プログラムをデプロイしても、絶対暴走しねぇ」

満足そうに息を吐き、千春は最適化された魔鉱石を暖炉の中へと戻した。 瞬間、ふわりと心地よい暖気が部屋いっぱいに広がり、暖炉は今までの半分以下の魔力消費量でありながら、驚くほど静かに、均一に温かさを増した。

呆然とその光景を見ていたヴォルフは、頭痛を堪えるようにおでこに手を当て、深い深い溜息をついた。


「……お前というやつは……。私は、お前の身体のバランスを支えるために、そのスタビライザーを作ったのだぞ。それを魔鉱石を使って検証用にし、実機テスト用として活用する奴があるか」

「役に立ってんだから文句言うな。仕様以上のパフォーマンスを引き出すのが、優秀なエンジニアってもんだろ。……ほら、そこ座ってろクソガキ。この農地改革のゴミコード、今日中に全部リファクタリングしてやっからよ!」


千春の右ペン先が、今度こそ快音を立てて羊皮紙の上を滑り出す。


ヴォルフが作った義手(スタビライザー)という、最高に過保護な盾であり最強のインターフェースを手に入れ、デバッグSE・桜木千春の、真の生存闘争(システム開発)は、今ここに完全再起動(フルリブート)した。




少しでも面白いと思ってもらえたらブクマ、★などよろしくお願いします。

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