瑠璃色の代償
溢れ出した光に視界を焼かれ、アイルは思わず腕で目を覆った。
網膜に焼き付くのは、地上では決して見ることのできない、純度の高い瑠璃色の輝き。
数秒ののち、おそるおそる目を開けた彼の前に広がっていたのは、海の底に築かれた「星空」だった。
そこは、広大な円形の神殿だった。
見上げるほど高い天井には、無数の夜光石が散りばめられ、それらが複雑な海流に揺れて瞬いている。
壁一面を覆う色とりどりの珊瑚は、まるで意志を持つ生き物のようにゆっくりと脈打ち、神殿全体がひとつの巨大な臓器であるかのような錯覚を抱かせた。
そして、その中心。
透き通った台座の上に、それは鎮座していた。
「これが……伝説の宝……」
アイルの口から漏れた気泡が、光を反射して虹色に輝く。
宝玉は、握り拳ほどの大きさだった。
内部には渦巻く銀河のような光の筋が封じ込められ、青白い光が呼吸に合わせたリズムで膨らみ、収縮している。
それはあまりにも美しく、そしてあまりにも「無防備」にそこにあった。
アイルは、吸い寄せられるように台座へと歩み寄った。
一歩踏み出すたびに、足元の水が震え、神殿の隅々まで波紋が広がっていく。
頭の中では、長老の「代償」という言葉が警告の鐘のように鳴り響いていた。
しかし、目の前の輝きは、それらすべての不安を「些細なこと」に変えてしまうほどの魔力を持っていた。
彼の指先が、冷たい宝玉の表面に触れる。
その瞬間。
ズ、と。
全身の血液が逆流するような衝撃がアイルを襲った。
「あ……っ!?」
指先から、熱い何かが流れ込んでくる。
いや、違う。
自分の中の「熱」が、宝玉へと吸い取られていくのだ。
アイルが驚いて手を離そうとしたときには、もう遅かった。
宝玉は彼の掌に吸い付くように癒着し、激しい明滅を開始した。
同時に、神殿を包んでいた穏やかな静寂が、断末魔のような咆哮へと変わる。
天井の夜光石が次々と弾け飛び、珊瑚の色が瞬く間に灰色に枯れ果てていく。
神殿を支えていた「海の命」が、宝玉という一点に向かって、暴風のような勢いで収束し始めたのだ。
「止まれ……止まってくれ!」
アイルは叫んだが、声は水の渦に飲み込まれた。
彼の視界の中で、神殿の扉の向こうに広がる深海までもが、急激に色彩を失っていくのがわかった。
命の源を奪われた海が、静かに、けれど確実に死へと傾いていく。
やがて、凄まじい衝撃波が神殿を駆け抜けた。
アイルの意識は、底知れない浮遊感とともに、真っ白な光の中に弾き飛ばされた。
次に彼が感じたのは、頬を撫でる冷たい風ではなく、内側から凍りつくような「欠落感」だった。
目を開けると、そこは先ほどまでの鮮やかな神殿ではない。
灰色の霧が立ち込め、音も、温度も、方向感覚さえも失われた、虚無の底だった。
アイルは自分の手を見た。
宝玉を掴んでいた右手の指先が、まるで水に溶け出す絵の具のように、わずかに透き通っていた




