境目 伊坂貯水池の辻神 岸涯蛇候(がんぎじゃこう)③
今、岸涯蛇候と光は空中で向き合っていた。
式神の霊力で空中戦をするのは特に珍しい事ではない。
岸涯蛇候は笑って言った。
「ヒヒッ…ついに境目を抜けた。あの者の言った通りだ。うじゃうじゃ沸いている人間ども…皆殺しだ!」
そういうとダム湖の水を津波のように荒立てた。
明らかにいまある湖の中の水量より増えている。
巨大な水柱が立ち、町もろとも飲み込もうとしていた。
「おっと、さすが辻神。町ごと洪水で消し去るつもりか」
それならばと光は次なる手を打った。奥義、水神を召喚する。
串刺しにされた峨闍髑髏はフッと消えて紙の式神に戻った。
光を中心とした半径30mほどの巨大な陣が出現する。
陣はやはり青白く光っており、召喚文と呼ばれる召喚に必要な文言がびっしりと羅列されていた。
この陣を使えると、呪禁師は長ったらしい召喚文を唱える必要がない。
一瞬で強力なエネルギー霊体を降ろす事ができるのだった。
その陣から出現したのは空を埋め尽くすほど、巨大な水色の龍だった。
月明りを背に宙に浮かぶその姿は神々しく、まさに神様の姿であった。
岸涯蛇候は水神にドーナツ状の回転する水の玉を何個もぶつけた。
水神にすべて当たったが、傷一つついていなかった。
ならばと巨大な回転する水柱で攻撃した。
先端がドリルのように尖っており、石でも金属でもすっぱり切れてしまう威力だ。
だが水神には傷ひとつつかなかった。
次の瞬間、水神は口を大きくひらき、岸涯蛇候に向けて衝撃砲を放った。
青白い光を放つその衝撃砲をくらった岸涯蛇候は一瞬にして霧散してしまった。
「なんか手ごたえ無いな…?」
光は少し警戒したが、水神を収めた。
そして祠のある広場に戻ってきた。
「相変わらず戦い方が派手だね~」
渉が言うと光は少し考えた。
「なんかおかしい。手ごたえ無さすぎる。」
「そう?水神様相手ならこうなるでしょ」
それはそうなのだが、あまりにもあっさりしていた。
捕縛していた犯人の男に乗っかていた釣瓶落としがぐしゃっと破壊された。
その男を捕縛していた紙の式神も切り裂かれ霧散した。
フードを目深にかぶった小柄な男が立ち上がった。
その瞬間、二人は洪水に巻き込まれた。
巨大な水の玉の中で錐揉み状態になった。
「ヒヒッ…あれは残像みたいな物よ。既に大部分はこの体に入り込んでいたのさね」
小柄な男がしゃべった。
フードの中から見える顔はまだ少年のようだが、声はしゃがれて野太い。
その声はさっき聞いた岸涯蛇候のものだった。




