境目 伊坂貯水池の辻神 岸涯蛇候(がんぎじゃこう)②
光はおかしいと思っていた。
自分の呪禁術で捕縛したのが人間ならば、動けるはずがないからだ。
「あいつナニモンだよ。」
そう言うと、一枚の紙の式神に霊体を降ろした。
紙の式神は一瞬で巨大な顔だけの物体にになった。
これは西の方では釣瓶落とし(つるべおとし)と言われている。
光に捕縛された男の上に釣瓶落としは乗っかった。
どんどん重くなって乗られた者は動けなくなるはずだ。
人間はこの霊体の事を妖怪などと呼んでいる。
肉体を持たない自然エネルギーの霊体は各地に存在する。小さなあまり害のないモノは妖怪、幽霊などと呼ばれる事が多い。
基本的には皆同じ自然エネルギー霊体なのだ。
強大な力を持っていて、人に脅威な状況を作り出すものは妖、辻神と呼ばれていた。
対して人に恵や利益をもたらす自然エネルギー霊体は神として崇めていた。
渉は境目から出現した岸涯蛇候と対峙していた。
岸涯蛇候は筋骨隆々の人型をしている。人と圧倒的に違うのは下半身が巨大な蛇になっていることだ。
頭巾の様な物をかぶり顔が半分隠れていて表情は伺い知れなかったが、顔は人型のようだった。
大きさは祠の傍に生えている大木よりももっともっと大きかった。
湖の上に悠然と浮かんでいた。
さっきから封印の札を撒いてはいるが、一向に効果がなかった。
封印の札は呪禁師がよく使う霊力の込められた札だ。
自然エネルギー霊体にはやはり霊体にしか触れられない。
霊体を拳銃で撃っても空気に撃つ様なものだ。
人間の武器では自然エネルギー霊体は捉えられない。
では呪禁師はどうやって自然エネルギー霊体と戦うのか。
呪禁師は霊体を操って霊体を攻撃しているのだ。
武器を使って戦うにしろ、武器や札に霊力が込められていなければならなかった。
「光、封印の札がきかない。」
「んじゃぶっつぶすしかねぇな!」
光は巨大な青白い光の円陣を出した。その円陣から強大なエネルギー霊体が出現する。
鎧をまとった巨大な骸骨型の見た目の峨闍髑髏だ。
峨闍髑髏の出現の衝撃でダム湖の水が噴水のように宙を舞った。
「いけ」
峨闍髑髏は光に言われた通り、岸涯蛇候に襲い掛かった。
その口から発せられる黒い吐息に触れるとエネルギー霊体はどろりと溶けて黒い液体になってしまう。
峨闍髑髏の黒い息が岸涯蛇候の顔左半分に掛り、どろりと溶けてぼちゃぼちゃっと湖に落ちた。
岸涯蛇候は半分落ちかけている左目という姿でニヤリと笑った。
近づいていた峨闍髑髏は鎧をかぶっている頭の部分を両こぶしで殴打され、湖に落ちそうになった時、
湖の水が巨大な針状に変化し、峨闍髑髏を串刺しにした。
そして湖から水の玉が浮き出てきた。水の玉はドーナツ状になってぐるぐる回りながら光と渉のいる祠に襲い掛かってきた。
渉は咄嗟によけて、光は防御結界をはった。
水の玉は木や地面に当たり、すっぱりと切れてあたりは音を立てて崩れていった。
「水を凶器化する系ね。やってくれんじゃねーか。」
そういうと、光もニヤッと笑った。




