↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第七章 『過去戻しの回廊』
PR
89/91

86.隠された通路

ティシアとフシは、男たちと昼食を取ったあと、店の前で別れた。

「じゃあな。元気でやれよ」


「ああ。あんたたちもな」


男たちに手を振り、二人は歩き出す。


しばらくして、ティシアがふと思い出したように口を開いた。

「結局、名前聞いてないね」


「まあ、いいだろ」

フシは気にした様子もなく答える。


そんな話をしながら歩いていると、前方からノアが歩いてくるのが見えた。

「ノア、お疲れ様」


「お疲れ様です。ちょうど依頼を終えたところです」


ノアは二人の前で足を止める。

「昼食にしませんか?」


「ごめん。さっきフシとラーメン食べたばっかりなんだ」


「そうですか……」

ノアの表情が、ほんの少しだけしょんぼりする。


それを見たティシアは、慌てて付け加えた。

「でも、ノアがどこか行くならついて行くよ。旅のために食料も買わなくちゃいけないし」


「本当ですか?」

ノアの表情が少し明るくなる。


「ああ。今日はまだ時間もあるしね」


「じゃあ、一緒に行きましょう」


三人は並んで歩き出す。


どこで食料を買うか話していると――


「……ん?」


港の方から、騒がしい音が聞こえてきた。


それに混じって、人のの慌ただしい声が響いている。


ティシアたちは足を止め、港の方へ顔を向けた。

「……何かあったのかな?」


フシが目を細める。

「面倒ごとは御免なんだが………」


ノアも港を見つめる。

「気になるので行きませんか?」


フシは気怠そうにしながらも頷く。


三人が港を覗くと、そこには一隻の大きな船が停まっていた。

船からは、次々と荷物が運び出されている。


中でも目を引いたのは、大量に積まれた水晶だった。


「……あれは審判晶に、投影晶だな。他にもいろいろあるが、俺には分からん」

フシが荷物を眺めながら呟く。


「エルフの貿易船だ」


船の上では、何人ものエルフが忙しそうに荷物を運んでいる。


その様子を眺めていたティシアは、ふと船の先端に立つ一人の女性に目を向けた。


金色の長い髪が、潮風に揺れている。


身に着けているのは、白い鎧。


その周囲には、黄色い精霊が四体ほど浮かんでいた。


「……あの人、精霊が多いね」

ティシアが呟く。


女性は船員たちに指示を出しながら、ときおり街へ視線を向けている。


「…………」


その姿を見つめていたノアが、静かに口を開いた。

「あの人の魔力、かなり凄いです」


その言葉が聞こえたかのように、女性がこちらを振り向いた。


緑色に輝く瞳が、港の人混みの向こうからフシの顔を捉える。


「……!」


女性が懐から水晶を取り出した時、


三人は反射的に近くの物陰へ身を隠した。ティシアは壁に背を預け、そっと港の様子を窺う。


(サーナトスの気配は消してるから、大丈夫なはず……)


フシは額に浮かんだ汗を拭う。

「とりあえず、ここから離れよう」


声を潜めながら、港の方を気にする。


「シルヴァリアに潜入するんだから、ここで顔を覚えられるのはまずい」


「そうですね……」


ノアも小さく頷く。


三人は周囲を確認しながら、港から早足で離れていった。そして宿へ戻ると、シルヴァリアへ向かうための旅の準備を始めた。


────────


宿に戻ると、三人はそれぞれ大きく息を吐いた。


「何で、こっちを見たんだろうな」

フシが椅子に腰を下ろし、港での出来事を思い返す。


「金髪が目立ったんじゃない?」

ティシアが答える。


「金髪なんてそこら中にいるだろ。俺だけじゃない」


「それもそうですね……」

ノアは顎に手を添え、しばらく考え込む。


そして、ゆっくりと口を開いた。

「…………もしかして、フシの顔がフシのお父さんと似ていたんじゃないですか?」


「俺は父さんの顔を見たことがないから、断定はできないな」


「そうですよね……」


三人はしばらく顔を見合わせ、それぞれ考えを巡らせた。


「まあ、考えても分からないものは仕方ないか」

フシが話を切り上げるように言った。


「食料とかを買ってる途中でギルドにも連絡した。明日の朝には隠し通路に行けるはずだ」


「隠し通路……」


ティシアはその言葉を口にし、少しだけ気を引き締める。


「何があるか分からないから、今日はしっかり寝て体を休めよう」


「そうですね」

ノアも頷く。


明日はいよいよ、シルヴァリアへ向かう。

三人はそれぞれ明日の準備を確認すると、静かに夜を迎えた。


────────


翌朝。


三人は旅の準備を整えると、港へ向かった。


港には、すでに一隻の船が停まっている。三人が近づくと、船から一人の若い船員が駆け寄ってきた。


「龍殺しの英雄様ですよね! ファンです!」

そう言って、船員はティシアの手を勢いよく握る。


「えっ……」

突然のことに、ティシアは少し戸惑った。


それでも、握られた手を見てから船員に笑いかける。

「ありがとう」


「はい!」

船員は嬉しそうに笑うと、三人を船へ案内する。


「こちらです!」


三人が船に乗り込むと、船はゆっくりと港を離れた。目指すのは、隠し通路があるという古い灯台。


三人を乗せた船は、シルヴァリアへ続くその場所へ向かって進み始めた。


────────


船が島に着くと、ティシアたちは船員に礼を言った。

「ありがとうございました」


「いえいえ! 頑張ってください!」

船員は嬉しそうに手を振りながら、来た道を戻っていった。


三人は島から遠くを見つめる。水平線の向こうには、シルヴァリアの巨大な島が見えていた。


「あそこがシルヴァリアか……」


「まだかなり遠いですよ」


歩いて向かえば、一週間はかかりそうな距離だった。


「日記にここが隠し通路って書いてあっただけだ。詳しい構造までは知らん」

そう言って、フシは目の前に建つ古い灯台へ向かった。


灯台の扉を開ける。


中は薄暗く、長い間使われていないことが一目で分かった。壁や床には苔が生え、湿った空気が漂っている。


「……ちょっと気味悪いですね」

ノアが周囲を見回す。


フシは気にする様子もなく、灯台の奥へ進んでいく。

「こっちだ」


フシが指差した先。

そこには、地下へと続く古びた階段があった。


階段の先は暗く、その奥がどこへ続いているのかは見えない。


ティシアは階段を見下ろす。

「……ここからシルヴァリアに行けるんだね」


三人は顔を見合わせ、地下へ続く階段を見つめた。


────────


階段を下りていく。

足音が地下へ響くたびに、地上の光が遠ざかっていく。


やがて階段は途切れ、無機質な石造りの扉へと行き着いた。

フシは懐から白い水晶を取り出す。


「これでいいのかな?」

扉に水晶を当てる。


ゴゴゴゴゴ――。


重い音を響かせながら、石の扉がゆっくりと開いていく。

その先は暗闇だった。


冷たい空気が流れ出し、三人の間を通り抜ける。


そして、その奥から異様な気配が漂っていた。


ティシアの胸の奥がざわつく。反射的に剣へ手をかける。

(この気配……何かと似てる……)


何に似ているのかまでは、思い出せない。


「…………気を付けて進もう」


三人は警戒しながら、暗闇の中へ足を踏み入れた。


「光を出すです」

ノアが手を掲げる。


ふわりと光球が浮かび上がり、周囲を照らした。


そこには、どこまでも続く石造りの廊下があった。壁や床には苔が生え、隅には小さな虫が這っている。


「……ずいぶん古いですね」


「そうだな」


三人は周囲を警戒しながら、廊下を進んでいく。しかし、しばらく歩いても何も起こらない。


聞こえるのは、自分たちの足音だけ。


コツ、コツ、コツ――。


長い廊下に、その音だけがいつまでも響いていた。途中で何度か休憩を挟みながら、さらに奥へ進んでいく。


それでも景色は変わらない。石造りの壁。苔。薄暗い廊下。どれだけ進んでも、同じ景色が続いている。


「……本当に、これで合ってるのか?」

フシが疲れたように呟く。


「日記にはここが隠し通路って書いてあったんだろ?」


「そうだけど……ここまで長いとは思わなかった」


三人は歩き続けた。


そして、五時間ほど経った頃。ようやく、廊下の先に一つの扉が見えた。


近づいてみると、その扉には見慣れない文字が刻まれていた。


『神の御印を得たる者のみ、ここを通るを許される』


ノアは扉に刻まれた文字をじっくりと読む。


「つまり……神様の許可がないと開かないですか?」


ティシアは扉に手を当てる。しかし、何も起こらない。

「僕が触っても駄目なら……神の力が必要なのかな」


「神の力……神力のことですね。使えるんですか?」


ティシアは自分の手を見つめる。

「使ってみようとしたけど、駄目だった」


(サーナトスの神力と死力。それらは使おうとしても使えない……)


(何か条件があるのか?)


ティシアが考え込んでいると、フシが形成晶を取り出した。

「とりあえず、開けられないってことだろ?」


フシは扉を見上げる。

「なら、やることは一つだ」


ティシアも剣を構える。

「そうだね」


二人は顔を見合わせる。


「「壊す」」


その瞬間――。


ゴゴゴゴゴ……。


二人が構えた目の前で、扉が音を立てて開いた。


「「……………。」」


二人は無言で武器をしまう。


「先に進もうか」


ティシアがそう言うと、三人は何事もなかったかのように扉の向こうへ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。