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77.セレペンス

ティシアとノアは料理を平らげると、冒険者ギルドへ向かった。


ギルドに入ると、二人は掲示板へ向かう。

そこには、いくつもの依頼書が貼られていた。


「やっぱり、セレペンスの依頼が多いね」


「しかも、どの依頼も報酬がいいです」


「でも、なんでこんなに残ってるんだろ」


二人が依頼書を眺めていると、後ろから受付員の男性が声をかけてきた。

「それは、セレペンスを倒すには船が必要だからです」


「船?」

ティシアが振り返る。


受付員は頷いた。

「セレペンスは海辺にはほとんど現れません。だから、船で沖まで出る必要があるのですが……」


受付員は困ったように眉を寄せる。

「セレペンスの牙が船を傷つけるんです。その修理費のせいで、赤字になる冒険者が多いんですよ」


「なるほど……」


「かといって、安い船で出れば……ほとんど戻ってきません」


「そうですか……」

ティシアは掲示板へ視線を戻す。


すると、ノアがティシアの肩をポンポンと叩く。

「私、それ解決できるかもです」


「ほんと?」


「詳しくは、見せたほうが早いです。海に行きましょう」


ティシアが頷こうとした、その時だった。


「少々お待ちください」

受付員が二人を呼び止める。


「何ですか?」


受付員は少し言いにくそうに口を開いた。

「実は……噂程度なのですが、夜に大きなセレペンスを見たという情報があります」


「大きな……?」


「はい。詳しいことは分かっていませんが、普通のセレペンスとは違う可能性もあります」


受付員は二人の表情を確認するように見た。

「なので、夜間の討伐には気をつけてください」


「分かりました」

ティシアは頷く。


二人は依頼を受けると、そのまま海へ向かった。

海岸へ着くと、ノアが海を見つめる。


波が寄せては返し、陽の光を反射して水面がきらめいていた。


「ティシアは、そこで待っててください」

そう言って、ノアは海へ歩いていく。


波打ち際まで来ると、天照を構えた。


「レビテーション」


ノアの身体がふわりと浮かび、水面すれすれの高さで止まった。

「本来は空を飛ぶ風魔法なんですが、これならティシアも私の近くにいる限り、一緒に浮けるです」


「なるほど」

ティシアもノアのそばまで歩いていく。


足が地面から離れた。


「おお……」

身体が軽い。


そのままノアが前へ進むと、ティシアの身体も一緒に運ばれていく。

二人は水面すれすれを滑るように進んでいく。


波が足元を通り過ぎ、海風が頬を撫でる。

まるで海の上を滑っているようだった。


「これなら、セレペンスがいるところまで行けると思うです」


「ありがとう。それじゃ、気を付けて行こう」


「はいです!」


二人はそのまま、海の上を進んでいった。


────────


しばらく進んでいくと、足元の海が次第に濃い青へと変わっていった。

水深も、かなり深くなっている。


「この辺りまで来れば、セレペンスがいそうですね」


ティシアは周囲を見渡す。

前方には、古びた灯台が建つ孤島が見えた。


「ちょうど、港とあの島の中間ぐらいまで来たね」


その時――


「ティシア、来るです」

ノアの声が変わった。


天照を握りしめ、海面を睨む。


ティシアもすぐに剣を構えた。


左右から――


ザバッ!


水を切る音が聞こえてくる。

ティシアが音のする方へ目を向ける。


すると、左右それぞれから五匹ずつ。

合計十匹の蛇のような魔物が、二人へ向かって迫ってきていた。


長い身体が海面をくねらせ、その頭部は蛇というよりも、竜を思わせる形をしている。


「……セレペンスか」


十匹の魔物が、二人を挟むように迫ってくる。


「私は右をやるです。ティシアは左を!」


「分かった」


ノアは天照をセレペンスへ向けた。

「アースショット!」


地面のない海上で、四つの岩が一瞬で生成される。


そのまま弾丸のように飛び出し――


ドゴッ!


二匹のセレペンスの頭部へ直撃した。

硬い鱗が砕け、二匹はそのまま海面へ落ちていく。


だが、残りのセレペンスは左右へ散り、岩をかわした。

そのままノアへ向かって、一斉に迫る。


「……っ!」


一方、ティシアの側にも二匹のセレペンスが飛び掛かってきた。


バシャッ!


二匹が同時に水面から飛び出す。


「……!」

ティシアは剣を横薙ぎに振るった。


ザンッ!


二匹の身体がまとめて切り裂かれる。

そのまま力を失い、水面へ落ちた。


だが――


足元の水面が大きく跳ねた。


バシャァッ!


一匹のセレペンスが、水中から飛び出してくる。


大きく開かれた口。鋭い牙が、ティシアの首へ迫る。

ティシアは牙が届く寸前で、その首を掴んだ。


「……!」


(思ってたより硬いな)


「身体強化」

ティシアは腕に力を込める。


バキッ!


鈍い音が響く。

セレペンスの首が折れ、その身体が力なく水面へ落ちた。


(あと二匹)


残ったセレペンスが、ティシアへ向かって襲い掛かる。

一匹が右足へ食らいつこうと、大きく口を開いた。


ティシアは右足を引く。


「……っ!」

飛び掛かってきたセレペンスの顔面を、全力で蹴り飛ばした。


メキィィッ!


顔を覆う硬い鱗が砕ける。

セレペンスはそのまま水面へ落ちた。


気を失ったのか、ぴくりとも動かない。


「ウルフの時みたいに、逃がしたくないからね」

ティシアは剣を振り抜く。


ザンッ!


倒れたセレペンスへ、とどめを刺した。


(これであと一匹)

ティシアはノアの方を見る。


「アクアニードル!」

空中にいくつもの水球が浮かび上がる。

それぞれが細長く伸び、槍のような形へ変わっていく。


「――!」


次の瞬間、水槍が一斉に飛び出した。

水中を泳いでいたセレペンスへ突き刺さり、その身体を次々と貫いていく。


(基礎的な魔法は全部使えそうだけど……ノアって、いったい何個魔法を使えるんだろ)


ティシアは目の前に残ったセレペンスへ向き直る。

仲間を失ったことで危険を察知したのか、セレペンスは逃げようとしていた。


「させるか!」


ティシアは大きく跳躍する。

逃げるセレペンスへ追いつき、その頭部へ剣を突き刺した。


「やった――」


バッシャーン


次の瞬間、ティシアの身体が水中へ沈んだ。


(しまった。ノアの魔法の範囲外に出ちゃった)

ティシアはすぐに水面へ向かって泳ぐ。


だが、その途中――


ふと、水底へ目を向けた。


深い海の底。


そこには何もないように見えた。


――そのはずだった。


「…………」


────それと、目が合った。


(――ッ!)

ティシアの身体が硬直する。


ティシアは何も考えずに水面へ向かって泳いだ。

「ノア! 急いでここから離れよう!」


突然戻ってきたティシアの様子に、ノアが驚く。

「どうしたです?」


「いいから!」

ティシアはノアの手を掴む。


ノアは水面に浮かんでいたセレペンスの死体を回収すると、すぐにその場から離れた。


────────


海岸まで戻ると、ティシアは大きく息を吐いた。

「はぁ……」


ノアは回収したセレペンスの数を確認する。

「ティシアの分も回収しましたが……七匹ですね」


ティシアは息を切らしながら答える。

「依頼は討伐だけだったから、問題はないはずだよ……」


「それならよかったです」

ノアは少し安心したように頷く。


「……でも」


ノアがティシアを見る。


「何があったですか?」


ティシアは呼吸を整えながら、ゆっくりと口を開いた。

「僕、水中に入った時に……目が合ったんだ」


「何とですか?」


「巨大なセレペンス」


ノアの目が大きく見開かれる。

「それって、ギルドで言ってた……?」


ティシアは頷く。

「多分、そう」


「……倒せそうでしたか?」


ティシアは水底で見た姿を思い出す。

「水中での戦い方を知らないから、何とも言えない」


少し考えてから、続ける。


「でも、夜間なら影狼を最大限使えるし……勝てるかも」


「…………」

ティシアは少し間を置く。


「……何回か死ぬことになりそうだけど」


ノアはすぐに首を横に振った。

「それなら、やめておきましょう」


「……」


「ティシアが死ぬのは、見たくないです」


ティシアはノアを見る。

そして、小さく頷いた。


「そうだね」


「僕も、ノアを悲しませたくない」


────────


二人はセレペンスを解体した後、ギルドへ向かった。

七匹分の素材を受付へ渡し、海中で噂の大型セレペンスを見たことも伝える。


「そうでしたか……」

受付員は顎に手を添え、少し考える。


「かなり深い場所にいたんですね」


「はい」


「そうなると、討伐するのは難しそうです」


受付員は二人を見る。

「そのセレペンスの居場所が分かっただけでも十分です。こちらで今後の対応を相談させていただきます」


「分かりました」

ティシアは頷く。


受付員へ頭を下げると、ノアとともにギルドを後にした。


────────


外はすっかり日が落ち、人通りも減ってきていた。


宿へ向かって歩いていると、後ろからフシが声をかけてくる。

「探したぞ」


「お疲れ。用事は終わった?」


「ああ。詳しくは宿で話すよ」

フシはティシアについていた精霊を自分のもとへ戻す。


そして、そのまま二人と並んで歩き始めた。


「いい宿を見つけたんですよ。海が見えます」


「それは楽しみだな」


やがて三人は宿へ到着した。


部屋へ入ると、荷物を隅へ置く。


三人は床へ腰を下ろした。

「三人分の椅子があればよかったんだけどね」


「まあいいだろ」


フシは話を切り替える。

「本題に入るとだな。夜なら、シルヴァリアへの隠し通路に行ける」


「隠し通路としか聞いてないけど、それってどんなのなの?」


フシは窓の外へ目を向ける。

「あそこに古い灯台が見えるだろ」


「うん」


「あそこの地下に、隠し通路があるんだ」


二人は灯台の方を見る。

「……港から一直線には行かない方がいいです」


フシが首を傾げる。

「何で?」


ノアが答える。

「まっすぐ進むと、大きなセレペンスの上を通ることになるです」


「……何?」

フシの表情が変わった。


ティシアとノアは、ギルドで聞いた噂と、海中で見た巨大なセレペンスについて話した。


「わかった。灯台までは遠回りで進もう」

フシは腕を組む。


「行くなら船が必要ですね。私の魔法だと、あそこまでは少し心もとないです」


「今日中に船は手配してある」


「もう手配したの?」

ティシアが驚く。


「ああ。隠し通路に行くなら必要になるからな」


そう言った後、フシは目を逸らす。

「ちょ~っとだけ法から逸れてる船だからな。夜に行くのは変えられねえ」


「見つかったら面倒なことになる」


「……それ、大丈夫なの?」

ティシアが不安そうに尋ねる。


「大丈夫じゃなかったら、最初から手配してねえよ」


ノアは困ったような顔を浮かべながら頷く。

「まあ………言いたいことはありますが、とりあえずは分かったです」


「面倒なことにならないよう、最大限対策はするから安心してくれ」


フシはそう言って腰を上げる。そのまま、部屋から出ようとした。


その背中を見ながら、ノアがふと口を開いた。

「最初にフシと会った時は、蛇牙傭兵団の人だと思いましたが……少なくとも、悪い人じゃなくて良かったです」


フシの動きが止まった。

「……今、蛇牙って言ったか?」


「はい。蛇牙傭兵団が投影晶を使ってたので……」


ティシアがフシを見る。


「フシ、何か知ってるの?」


フシは懐から手帳を取り出した。


そして、低い声で呟く。


「蛇牙は――俺の父さんが所属してた騎士団の名前だ」

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