↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/87

68.積み重なる紙

ノアは図書館で、黒い炎だけを抑える方法を考えていた。

(外から抑えると、ティシアが持つ全ての力を抑えてしまう。)


(それじゃあ、意味がないです。)


ノアは机の上に置かれた資料へ目を落とす。


(だったら……。)


(外から全部を抑えるんじゃなくて、黒い炎そのものに干渉すれば……。)


ノアは顔を上げる。

(内側からなら……?)


ノアはしばらく考え込んだ。


(試してみる価値は、あるです。)


ノアは椅子から立ち上がり、聖堂へ向かった。


────────


聖堂の前まで来ると、何人かの兵士が集まっていた。


ガルベスがノアに気づく。

「ご無事でしたか。」


「何かあったんですか?」


「はい。どうやら、何者かが王宮に侵入したようです。すでに逃げられましたが。」


その後ろから、グルムが近づいてくる。

「恐らく、姿を消す魔法を使ってた。」


「ドワーフには不利な相手だ。」


グルムがノアを見る。

「お前さんは、何しに来たんだ?」


「えっと……。」


ノアは聖堂の中を見る。

「ティシアを少し見たいんです。」


「黒い炎を抑えるカギになるかもしれないって、思ったです。」


グルムは腕を組み、少し考える。

「聖堂は俺が見張っといてやる。」


「行ってこい。」


「ありがとうございます。」


ノアは聖堂の中へ入る。


静かな聖堂の中を進み、聖卓に横たわるティシアへ近づく。

そして、そっと手を添えた。


「…………。」


(ティシアの力を感じるです。)


身体の中ではない。


もっと深い場所。


精神の奥底で、四つの大きな力が蠢いている。


ノアは、その一つ一つを感じ取ろうとする。


(……四つ。)


そのうちの二つが、激しくぶつかり合っている。

押し合い、弾き合いながら、互いを打ち消そうとしている。


(これが……不死身の呪いと、黒い炎。)


ノアは慎重に、自身の魔力を流す。


そして――。


ティシアの精神の奥にある力へ触れた。


瞬間。


ノアの手に刻まれた魔法陣が、淡い光を放つ。

「……!」


ノアは驚いて手を見る。

「何で……。」


魔法陣は今まで一度も反応しなかった。


ティシアの身体に触れても。


魔力を流しても。


何も起こらなかった。


それなのに――。

「何で、今まで何も反応しなかったのに……。」


ノアが呆気に取られていると――。


黒い炎が、ノアの魔力を伝ってこちらへ流れてきた。


「──ッ!」


ノアは咄嗟に手を放す。

指先に、微かに焼けたような感覚が残っていた。


「…………。」

ノアは深呼吸をする。


そして、もう一度自分の手に刻まれた魔法陣を見る。

(今まで魔法陣が反応しなかったのは……。)


(ティシアの身体の奥に、力があったから?)


ノアはティシアを見る。

(私が触れたのは、ティシア自身じゃない。)


(その奥にある……力。)


ノアは魔法陣を握りしめる。

「……とりあえず。」


「魔法陣が反応したってことは……あの力を、制御できるかもしれないです。」


ノアは紙を出し、必要なことを書きなぐる。

(私が一時的に制御できても意味がないです。)


(力のバランスを整えるには……。)


ノアは、先ほど砕けた水晶を見る。


(あの水晶は三方向から力を抑えていた。)


ふと、青年に言われた言葉を思い出す。

『これを、呪物を中心にして三角形になるように置くんだ。』


「三角形……。」


ノアはペンを動かす。

(あの水晶が持っていた力を、別のもので再現すればいい。)


ノアはティシアの中にある四つの力を思い浮かべる。

「黒い炎を中心にして……。」


「残り三つの力を、三角形の角に置く。」


ノアは紙に三角形を描く。

「水晶の代わりに、ティシアの中にある三つの力を使えば……。」


「抑える力はなくとも、黒い炎の影響を三つの力に分散できるかもです。」


しかし、ノアはペンを止める。

「でも……三つの力が持つ大きさは、バラバラです。」


「正三角形だと、上手くいかないです。」


ノアはティシアを見る。

「力の大きさに合わせて、形を変えないと。」


そのとき、聖堂の扉が開いた。


「ノアさん、どうでしたか?」

ガルベスが中へ入ってくる。


ノアは振り返る。

「もしかしたら……ティシアを助けられるかもしれないです。」


「ただ、正確な配置を決めるために計算が必要です。」


「分かりました。」


ガルベスはティシアへ目を向ける。

「ただ……ティシアさんの身体は、安全な場所へ運んでもよいでしょうか?」


「この聖堂は、明後日に使う予定があるので。」


ノアは頷く。

「はいです。」


ノアは聖堂を出て、自分の部屋へ向かう。

「早く、ティシアに会いたいです。」


────────


翌朝。


ノアは街へ向かっていた。

(あの人に、もっと詳しいことを聞かないと。)


ノアが青年と出会った店へ向かっていると――。


突然、手首を掴まれた。


「キャッ!」


ノアは驚いて振り返る。

そこには、以前出会った青年が立っていた。


青年はノアの手首を離すと、観察するように目を細める。

「……水晶を使わなかったのか?」


「いえ、使いました。」


ノアは少し困ったように答える。

「でも……割れました。」


「割れた……?」

青年は僅かに眉を寄せる。


しばらく黙って考え込む。


そして――。


「なら。」


青年はノアを真っ直ぐ見る。

「そいつに、二度と近づくな。」


「何でですか?」

ノアは青年を睨む。


「それに……何で、呪われた人がいるって分かったんですか?」


ノアは天照を青年へ向ける。

「あなたは、彼のことを知ってるんですか?」


青年は黙った。


しばらくして、ノアを見る。

「……君の周りに、気味の悪い力がついてる。」


「恐らく、そのままならよくないことが起きる。」


ノアは眉を寄せる。


「それに、君の言う彼のことはあまり知らない。」


青年は少し視線を逸らす。

「……なんとなく、人だと思っただけだ。」


「質問を変えます。」

ノアは天照を構えたまま、青年を見る。


「あの水晶は何ですか?」


「それと……どうして三角形に置くんですか?」


青年は少し考えてから答える。

「あれは、魔力を反発させる魔法を刻んでる。」


「三角形に置くのは、三つの力を均等にぶつけるためだ。」


ノアは眉を寄せる。

「……そんな魔法は、私の知る限り存在しないです。」


「そうか。」


青年は特に驚いた様子もない。

「なら、君の知らない魔法なんだろうね。」


青年は淡々と答える。

「……君を傷つけるつもりはない。」


「私に、そこまでする理由は?」


青年は一度、大きく息を吸う。


そして、ゆっくりと吐いた。


「君自身から、とても清らかで神聖な気配を感じる。」


青年はノアを見る。

「……ある意味、一目惚れだ。」


「…………。」


ノアは警戒を解くことなく、ゆっくりと天照を下げる。

「もういいです。」


「水晶の仕組みは分かりました。」


ノアは天照を収め、王宮へ戻ろうとする。


その背中へ、青年が声をかけた。

「彼を助けるつもり?」


ノアの足が止まる。


「君まで、大変な目に遭うよ。」


しばらく沈黙が続く。


ノアは振り返らない。

「…………関係ないです。」


そう呟くと、ノアはそのまま歩き出した。


────────


それから、ノアは自室に籠るようになった。

外に出るのは、ティシアの様子を確認するときと、食事など必要最低限のときだけ。


部屋の机には、何枚もの紙が広げられている。


ノアはペンを動かし続ける。

「影狼の力……炎竜の力……。」


それぞれの力の大きさを書き出していく。

「この二つはいいです。」


次に、不死身の呪いの数値を書き込む。

「でも、不死身の呪いは黒い炎とぶつかり合ってる。」


ノアは眉を寄せる。

「もっと細かく計算しないと……。」


そのとき、青年の言葉が頭をよぎった。


『三角形に置くのは、三つの力を均等にぶつけるためだ。』


ノアはペンを止める。


(三角形なのは、均等に力を加えるため……。)


(三つの力を使えば、互いの力を調整できる。)


ノアは紙に三角形を描く。

(封印だけじゃなくて……。)


(魔法にも応用できる……?)


ノアは首を振る。

(今は、ティシアを助けるです。)


ノアは再び紙と向き合った。


────────


何度も日が昇り、何度も夜を迎えた。

紙に数字を書き、計算し、間違いを見つけては最初からやり直す。


そして――。


気づけば、数週間が経っていた。


「…………できたです?」


ノアは最後の計算をもう一度確認する。


一つ。


二つ。


三つ。


何度も計算し直す。


机の周りには大量の紙が散らばり、ゴミ箱には入りきらないほどの紙くずが溢れていた。


「…………。」


ノアは計算結果を見つめる。


そして。


「できたです!」


ノアは勢いよく椅子から立ち上がる。

「これなら……ティシアを助けられるです!」


ノアは部屋を飛び出した。


────────


誰もいなくなったノアの部屋。


静寂だけが残る。


しばらくして――。


カチャ。


窓の鍵が、ひとりでに外れた。


ゆっくりと窓が開いていく。


風は、吹いていない。


それでも窓は完全に開ききった。


「…………。」


誰もいない部屋に、沈黙だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。