↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/86

66.三つの水晶

翌朝。


ノアは朝食を済ませると、すぐに図書館へ向かった。

(早く……ティシアを助けないと。)


図書館へ入る。


昨日と変わらず、壁一面には大量の本が並んでいた。


ノアは一冊の本を手に取る。


ページをめくる。


違う。


また次の本を手に取る。


必要そうな情報を見つけるたび、紙に書き写していく。


神の力。


聖女。


魔法陣。


そして――。


ティシアを助ける方法。


ノアは、ただ黙々と本を読み続けた。

食事と睡眠の時間以外は、できるだけ図書館で過ごした。


───────


一週間探しても、黒い炎について直接書かれた記録は見つからなかった。

朝食を取っているノアへ、グルムが声をかけた。


「ノア。」


「はいです?」


「ここから少し歩いたところに、金属を売ってる店がある。」


「何か買ってきてくれ。」


侍女が、硬貨の入った袋をノアへ渡す。

「銀貨が二百枚入っています。」


「適当に買って、残りは自由に使え。」


ノアは袋を見つめた。

「えっと……私、図書館に行きたいです。」


グルムが頭を掻く。

「……少しくらい休め。」


ノアが首を傾げる。


すると、隣にいた侍女が小声で囁いた。

「グルム様は、ノア様のことを心配されているのです。」


「心配?」


「ずっと図書館に籠もりきりじゃないですか。」


「少し息抜きをしてほしい、という意味だと思います。」


ノアは、もう一度グルムを見る。

「……そうだったですか。」


グルムは視線を逸らす。

「別に。」


「お前さんが倒れたら、面倒だからな。」


ノアは、自分の姿を見下ろした。

指先は痺れ、かすかに震えている。

さらに、顔色は悪く、以前より少し痩せている。

「……分かったです。」


「今日は、少し休むことにするです。」


朝食を済ませたノアは、王宮を出て街へ向かった。

ずっと王宮の中にいたからだろうか。


外へ出た瞬間、強い日差しと熱気がノアの体を包み込んだ。


「暑いです……。」


乾いた風が吹く。

サラサラと砂が地面を擦る音が聞こえた。


ノアは、グルムから聞いた場所を思い出しながら周囲を見回す。

「……ここですかね。」


目の前には、金属を扱っているらしい店があった。


ノアは扉を開け、中へ入る。


店内には武器や防具だけでなく、金属細工や装飾品も並んでいた。

その中には、宝石が飾られている棚もある。


ノアは、その前で足を止めた。


「……綺麗です。」


しゃがみ込み、一つ一つ宝石を眺める。


そして。


「これ……ティシアに似合いそうです。」


ノアが見つめていたのは、一対の耳飾りだった。


光の当たり方によって、緑にも赤紫にも見える宝石。


アレキサンドライト。


ノアは、しばらくその耳飾りを見つめていた。


その時。


「それが欲しいのかい?」

突然、後ろから声を掛けられた。


「……!」

ノアが振り返る。


そこには、自分と同じくらいの年齢に見える金髪の青年が立っていた。

青年は、緑色の水晶がはめ込まれた耳飾りに触れながら、ノアへと近づいてくる。


「なら、買ってあげる。」


「え?」


ノアが断るより早く、青年は店主を呼んだ。

「すみません。これ、ください。」


青年は迷うことなく代金を支払い、アレキサンドライトの耳飾りを受け取る。

そして、それをノアの手のひらに乗せた。


「あの、別にこれ──」

ノアが顔を上げる。


青年は、じっとノアを見つめていた。

「……ついてる。」


「え?」

ノアは首を傾げる。


青年はノアの肩に手を置いた。

「ねぇ。」


その声は、先ほどまでとは少し違っていた。

「君の近くに、呪われた人とかいない?」


「……もしくは。」


青年は、ノアの反応を確かめるように目を細める。

「呪われた物とか。」


「………。」

ノアは答えなかった。


青年は少しだけ笑う。

「まあ、いいや。」


「じゃあ、特別な方法を教えてあげる。」


青年はノアの手のひらに、三つの水晶を置いた。


指で簡単な形を描いた。

「これを、呪物を中心にして三角形になるように置くんだ。」


ノアは三つの水晶を見る。


「そうすれば、呪物から漏れ出る力を抑えられる。」


ノアは水晶を握る。

(もしかしたら……ティシアの助けになるかも。)


ノアは三つの水晶を大切そうに握った。

「ありがとうございます。」


青年は、手を軽く振って謙遜する。

「別にいいよ。」


「俺が好きでやったことだから。」


青年は、そのまま店の出口へ向かう。

「じゃあ、何かあったらすぐに行くよ。」


「……え?」


ノアが顔を上げる。

「待ってください!」


慌てて青年を追いかける。

「あなたは、誰ですか?」


しかし。


ノアが店の外へ出た瞬間。


「…………え?」


そこには、青年の姿がなかった。


辺りを見回す。


強い日差し。


乾いた風。


行き交う人々。


けれど、あの金髪の青年だけが、どこにもいない。

「……どこに行ったですか?」


ノアは、手の中の三つの水晶を見つめた。


───────


ノアは金属を買い終えると、足早に王宮へ戻った。


そのままグルムのいる部屋へ向かう。

「グルムさん!」


バンッ!


扉を勢いよく開ける。


「何だ、いきなり。」

突然のことに、グルムが目を見開く。


ノアは息を整えながら、手の中の水晶を見せる。

「それがですね───」


ノアは、街で青年に会ったことを話した。


そして、この三つの水晶を渡されたこと。


話を聞き終えたグルムは、腕を組んだ。

「……かなり怪しいやつだな。」


「それに、お前さん。」


グルムは三つの水晶を見つめる。

「力を抑える魔法なんて、聞いたことあるか?」


ノアは首を横に振る。

「知らないです。」


「わしも、魔力を遮断する水晶なら知ってる。」


グルムは水晶を手に取り、光にかざす。

「だが、力を抑える魔法は、聞いたことがねぇ。」


グルムは水晶を眺めながら続ける。

「こういう魔法は限られてる。」


「それは───」


一度、言葉を止める。


「エルフの精霊魔法だ。」


ノアは息を呑んだ。

「精霊魔法……。」


「ああ。」


グルムは水晶を指先で転がす。

「詳しくは知らんが、審判晶や投影晶に使われている。」


「エルフだけが使える魔法だってのは聞いたことがある。」


ノアは、先ほど出会った青年を思い出す。


金色の髪。


緑色の水晶がはめ込まれた耳飾り。


そして、突然消えた姿。


グルムが口を開く。

「なおさら、そいつには気を付けたほうがいい。」


ノアがグルムを見る。


「水晶に精霊魔法が刻まれていれば普通のやつでも使える。」


「蛇牙傭兵団も、投影晶を使ってたんだろ?」


「だったら、あいつがエルフじゃなかったとしても……蛇牙傭兵団の一員って可能性もある。」


「それに、あの水晶も妙だ。」


グルムは、ノアの手にある三つの水晶を見る。

「わしが知らねぇような魔法を使えるなら、なおさら警戒したほうがいい。」


「そうですね。分かったです。」


ノアは自分の部屋へ戻った。


机の上に、三つの水晶を並べる。


緑色の水晶。

よく見ると、その中には薄っすらと青色が混じっている。


ノアは水晶を見つめた。

「……試しに使ってみるです。」


三つの水晶を三角形になるように置く。


その中央に、手をかざした。


ノアは魔力を手のひらから外へ流そうとする。


しかし。


「……?」


魔力が、出てこない。


何かに押さえつけられている。


いや。


押し返されている。

「……これが、抑える力……。」


ノアは、その様子をじっと見つめる。


(水晶から魔力を感じるです。)


(魔力を使って、魔力を押し返してる……。)


(こんな魔法、初めて見るです。)


(これをティシアの近くで使えば……黒い炎の力を弱められるかもしれない。)


────────


昼食の際。


ノアは、グルムとガルベスに水晶のことを相談した。


「本当に使って大丈夫なのか?」


「はいです。少なくとも私には何も害はありませんでした。」


グルムは腕を組み、しばらく考える。

「なら、わしはお前さんを信じよう。」


ガルベスも頷く。

「私も賛成です。」


そして、ノアを見る。

「今日から始めますか?」


「はいです。」


ガルベスが頷く。

「では、ティシアさんを聖堂へ運びます。」


「用意ができ次第、王宮の東側にある聖堂へ来てください。」


「分かりました。」


────────


ノアは準備を済ませ、聖堂へ向かった。


扉を開ける。


中は静寂に包まれていた。

広い空間に、ノアの足音だけが響く。


コツ、コツ、と石床を踏みしめながら、ノアは奥へ進んでいく。


やがて。


聖堂の奥に、三人の姿が見えた。

グルム。


ガルベス。


そして――。


聖卓の上に、ティシアが仰向けに寝かされていた。


グルムが真剣な表情でノアを見る。

「準備はできたか。」


「はい。」

ノアの手には、三つの水晶と天照が握られている。


ノアはティシアの周囲に水晶を並べ始める。


三つの水晶が、ティシアを中心に三角形を作る。


「……いきます。」

最後の水晶を置く。


その瞬間。


三つの水晶が淡く輝いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。