59.怒ってます?
三日後。
ティシアはベッドの上で目を覚ました。
ノアを起こし、遺跡調査の用意をする。
「行ってくるね。昨日みたいに火事起こさないでね。」
「フォス・レーザーのことですか?」
「多分それ、名前つけたんだ。」
ノアは杖を掲げる。
杖の先端から、小さなレーザーが伸びた。
「最近は出力を調整できるようになったです。」
ティシアはその光を見る。
「影狼の半身を破壊したとは思えないね。」
「それぐらいの火力を出すとなると、相当な光を放ち続ける必要があるです。」
「なるほど。」
「つまり、今は宿を壊さない程度に調整できるようになったんだね。」
「そういうことです。」
ティシアは少し笑った。
「じゃあ、留守番よろしく。」
「はいです。」
────────
しばらく歩いていると、集合場所に着いた。
そこには十数人の調査員が集まっていた。
「おはようございます。案内を担当させていただくティシアです。」
一人の女性が前に出る。
「あなたがティシアさんね。今回は、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ティシアは周囲を見回した。
「もう全員揃ってますか?」
「ええ。」
女性は後ろにいる調査員たちを見る。
「みんな、早く遺跡に行きたくてワクワクしてるの。」
実際、調査員たちは装備を確認しながら、遺跡について話していた。
「では、行きましょうか。」
ティシアの言葉を合図に、調査隊はヴォルガルドの火山へ向かい始めた。
────────
出発してから一時間が経った。
調査隊は、火口へと到着する。
「ティシアさん、ここからはどうやって行くのですか?」
ティシアは調査隊を見回した。
「この中に、風魔法を使える人はいますか?」
しかし、誰も手を挙げない。
(調査隊はドワーフが半分以上を占めてるし、仕方がないか。)
(調査員全員を降ろすなら、ロープが必要だったか。)
「ちょっと待っててください。」
そう言うと、ティシアは火口の縁へ歩いていく。
「ティシアさん?」
そして――。
ティシアは、そのまま火口へ飛び降りた。
「ティシアさん!?」
調査員たちの声が響く。
ティシアは落下しながら剣を抜く。
そして、火口の壁へ剣を突き刺した。
ガガガガガッ!
剣と岩壁が激しく擦れ合う。
落下の勢いが徐々に弱まっていく。
最後にティシアは壁を蹴り、遺跡の入り口へと着地した。
ティシアは自分の手を見る。
(あの時、サーナトスの力を取り込んだからか。)
(力が増してる。)
そのまま遺跡の奥へ視線を向けた。
(前みたいに、ゴーレムが命令を聞いてくれるかも。)
ティシアは遺跡の奥へ向かって声を出した。
「こっちに来てー!」
声が遺跡の中に反響する。
しばらくすると。
ゴゴゴゴゴ……。
遺跡の奥から、ぞろぞろとゴーレムたちが姿を現した。
ティシアはゴーレムたちを見る。
「上にいる人たちを、ここまで安全に降ろしてくれる?」
ゴーレムたちは動きを止める。
エルフの姿をしたゴーレムが、火口を見上げた。
そして――。
ドンッ!
地面を蹴り、高く跳躍する。
そのまま一気に火口の上まで到達した。
────────
「……え?」
火口の上にいた調査員たちの前へ、エルフのゴーレムが着地する。
下から、ティシアの声が聞こえた。
「そのゴーレムたちは味方です! ゴーレムに掴まってください!」
調査員たちは戸惑いながらも、ゴーレムに掴まる。
ゴーレムたちは調査員を一人ずつ抱え、火口の下へと降りていった。
それを何度か繰り返し、全員が遺跡の入口まで降りる。
すると、一人の調査員がティシアへ詰め寄った。
「あのゴーレムは何!?」
「え?」
「あり得ないのよ!」
調査員は興奮した様子で、遺跡の奥へ戻っていくゴーレムたちを指さした。
「ゴーレムが……人の言葉を理解してる。」
「しかも、自分で判断して行動してるじゃない!」
ティシアはゴーレムたちを見る。
「そんなに、すごいことなんですか?」
調査員は一瞬、言葉を失った。
そして、信じられないものを見るような目でティシアを見る。
「……あなた、本当に分かってないの?」
「よく分からないですね……。」
「何でそんなものが、あなたの言うことを聞いてるのよ……。」
────────
調査隊は遺跡の奥へと進んでいく。
ほとんどの調査員は、壁画や部屋の構造に興味津々だった。
壁に刻まれた文字を書き写す者。
壁画をじっと観察する者。
ゴーレムの残骸を調べる者。
そんな中、一人の調査員がティシアへ近づいてきた。
「あの……。」
「……迷惑をかけて、ごめんなさい。」
「ちゃんとロープを持ってくるべきでした。」
ティシアは首を傾げる。
「いいですよ。」
「怒ってるように見えます?」
ティシアは微笑んだ。
調査員は少し黙る。
そして、口をもごもごさせながら答えた。
「……少し。」
「え?」
「なんというか……目が……。」
「目?」
調査員はティシアの目を見る。
しかし、すぐに視線を逸らした。
「やっぱり何でもないです!」
「すみませんでした!」
調査員は慌てて他の調査員たちの元へ戻っていった。
ティシアは一人残される。
自分の瞼を指で触った。
「……クマでもできてるのかな。」
ティシアはそう呟くと、再び調査隊の後を追った。
────────
調査は進み、ティシアたちは四つの種族が二人の神を信仰している壁画まで辿り着く。
「これは……調査し甲斐がありますね。」
ティシアは獣の種族を指さす。
「この人型の獣って何でしょうか?」
「人型の獣……おそらく獣人のことですね。」
「獣人?」
「戦争で絶滅した種族のことです。あまり資料が残っていないので詳しくはわかりませんが………」
調査員は獣のゴーレムを指さす。
「見てください。この壁画に描かれている獣人と、先ほど見つけたゴーレム。」
「体格や頭部の形が、かなり似ています。」
ティシアは壁画とゴーレムを交互に見る。
「じゃあ、あのゴーレムは獣人をモデルに作られたってことですか?」
「その可能性は高いですね。ただ……」
調査員は壁画へ視線を戻す。
「これまで獣人は、戦争によって滅びた種族だと考えられていました。」
「ですが、この壁画を見る限り……少なくとも昔は、人間やエルフ、ドワーフと同じように存在していた。」
調査員は興奮を隠せない様子で続ける。
「しかも、二人の神を共に信仰していた可能性がある。」
「もしこれが事実なら、現在知られている歴史が変わるかもしれません。」
その後、調査隊は巨大なトカゲがいた場所まで進んだ。
「ここが、炎竜のいた場所ですね。」
「あのトカゲのこと、炎竜って呼んでるんですか?」
「呼び方がトカゲなのは寂しいので……。」
ティシアは少し笑う。
「あれは竜じゃ────」
ズキンッ!
「っ……!」
突然、激しい頭痛がティシアを襲った。
思わず頭を押さえ、その場によろめく。
「ティシアさん!?」
頭の奥で、何かが聞こえる。
聞いたことのない声。
だが、不思議とその言葉の意味だけは理解できた。
『神の死。死力を守れ。』
ティシアの視界が、一瞬だけ揺らぐ。
(……死力?)
巨大な炎。
暗い空間。
そして、自分の知らない何かの記憶。
「……何、今の……。」
「大丈夫ですか?」
異変に気づいた調査員たちが、ティシアの周りに集まってくる。
ティシアは頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
「………大丈夫です。」




