55.火山に眠る者
ティシアとノアは遺跡から出た。
外はすでに日が落ちていた。
ノアが大きく息を吸う。
「はぁ~……遺跡の中に比べると、涼しく感じるです。」
「防熱具があっても、かなりしんどかったからね。」
二人はそのままグルムの工房へ向かった。
遺跡で起きたことを報告するためだ。
工房に着くと、二人は客室へ案内され、グルムを待った。
しばらくして。
扉が開き、グルムが部屋へ入ってくる。
二人の顔を見るなり、グルムは察したように言った。
「その感じだと、遺跡は攻略できてないみたいだな。」
「そうですね。」
ティシアは少し困ったように笑う。
「実は──。」
ティシアとノアは、遺跡で起きたことをグルムへ話した。
壁画に描かれていた四つの種族。
二人の神を信仰していた時代。
人間だけが、一人の神を信仰するようになったことを示す壁画。
そして、遺跡の奥にいた何か。
サーナトスの力を感じる、強大な存在のことも。
グルムは話を聞き終えると、腕を組んだ。
「なるほどな。調査を進めれば、でかい成果になりそうだ。」
「だが……奥にいるやつが問題か。」
「そうです。」
ティシアは頷く。
「少なくとも、万全の状態でなければ確実に負けると感じました。」
「わしが行ければいいんだがな。」
グルムは少し考える。
「さすがに、ここを離れるわけにはいかん。」
ティシアはグルムを見る。
「それに、遺跡攻略はおじさんが僕らに依頼したことです。」
「できるなら、自分たちの力で攻略したい。」
ノアも隣で頷いた。
「私も賛成です。」
「せっかくここまで来たんです。最後までやりたいです。」
グルムはしばらく二人を見ていたが、やがて立ち上がった。
「ティシア。」
「お前さんに、稽古をつけてやろう。」
ティシアは目を丸くする。
「いいんですか?」
「ああ。」
グルムは腕を組んだ。
「ちょうど、お前さんに剣を教えられる奴が来てる。」
「あいつは旅人でたまに武器の調節にやってくるんだ。」
「そいつに頼んでみよう。」
「ありがとうございます。」
ティシアは頭を下げた。
その後、グルムはノアの方を見る。
「ただ……魔法を教えられる奴はいなくてな。」
ノアは首を横に振った。
「私は大丈夫です。」
「自分で訓練します。」
「なら、わかった。」
グルムは再びティシアを見る。
「ただし、稽古はそいつの都合で一週間しかできん。」
「一週間……。」
「短いかもしれん。」
グルムは口元をわずかに上げる。
「だが、お前さんなら十分だろう。」
ティシアは少し驚いたようにグルムを見る。
「……頑張ります。」
こうしてティシアは、遺跡を再び攻略するための一週間の稽古を始めることになった。
────────
ティシアは、グルムに案内された広い空間へ足を踏み入れた。
前方には、一人の男が立っていた。
細身で、背が高い。
ティシアを見るその目には、どこか余裕があった。
「俺はイーロス。」
男は軽く手を上げる。
「グルムとは……まあ、偶然知り合った腐れ縁だと思ってくれ。」
「僕はティシアと申します。」
「知ってる。」
イーロスは即答した。
「お前のことは、全部聞いてる。」
ティシアが少し驚く。
イーロスは周囲を見渡した。
「それに、ここはグルムが貸してる場所だ。」
「多少壊れても問題ない。」
そして、ティシアへ視線を戻す。
「だから──。」
イーロスはゆっくりと構えた。
「全力で来い。」
ティシアは腰に下げた剣へ手を伸ばす。
「……わかりました。」
ティシアがイーロスに向かって走り出す。
ティシアが剣を振る。
「遅い。」
次の瞬間、剣が手から弾き飛ばされた。
「お前は相手ばかりを見る。」
イーロスは地面に落ちた剣を指差す。
「自分を見ろ。」
一週間しかない。
ならば、その一週間で少しでも強くなるしかなかった。
────────
ノアが、眠っているティシアの顔を上から覗き込んでいた。
「おはようです。」
ティシアが目を開ける。
「今日は、私の方が早く起きたですね。」
ティシアはゆっくりとベッドから起き上がった。
「そうだね。」
ノアはずっと杖を握って何かを練習していた。ノアの目には少しクマが浮かんでいる。
ノアは少し笑いながら尋ねる。
「もう一週間が経ちましたが、イーロスさんから一本取れましたか?」
ティシアは自分の手を見る。
この一週間。
何度も剣を弾かれ、倒され、負け続けた。
「全然だね。」
ティシアは苦笑する。
「でも、学べることはたくさんあった。」
ただ剣を振るだけではない。
相手を見ること。
自分の癖を知ること。
そして──。
「前よりは、少し強くなれたと思う。」
ノアは笑った。
「それじゃあ、行きますか。」
「うん。」
二人は再び、火山の遺跡へ向かった。
────────
火口に着くと、ノアがティシアの手を握る。
「風魔法を使うです。」
「わかった。」
次の瞬間。
二人の体がゆっくりと浮かび上がった。
そのまま、火口の壁沿いにある遺跡の入口へと移動していく。
(ノア、この一週間で魔力が増えてる。)
(相当、努力したんだな。)
遺跡の入口へ到着すると、二人は再び中へ入った。
前回倒したゴーレムの残骸を横目に、さらに奥へ進んでいく。
しばらくして、ティシアが口を開いた。
「前、ノアは言ったよね。」
「ここには、神様の使いがいるって。」
「はいです。」
ノアは頷く。
「もしかしたら、この奥にいる奴と関係があるかもって思った。」
「だから、おじさんにも聞いてみたんだ。」
ノアは少し考える。
「それで……グルムさんは何て言ってたですか?」
「神の使いは、五百年前からここに住んでるらしい。」
「たまに地震を起こすこともあるんだって。」
ノアは首をかしげた。
「それって……神の使いって呼べるですか?」
「さあね。」
ティシアは苦笑する。
「歴史書には神の使いって書かれてたらしいけど、詳しいことは分からない。」
「結局、あまり情報は無かったんですね。」
「うん。」
ティシアは遺跡の奥を見る。
「だからこそ、遺跡を攻略できれば歴史が変わる。」
「……気を引き締めよう。」
「はいです。」
二人は足を止めることなく、遺跡のさらに奥へと進んでいった。
しばらく歩くと、一枚の巨大な扉へとたどり着く。
これまで見てきた扉とは違う。
分厚く、頑丈そうな造りをしていた。
「ここが一番奥だね。」
ノアは扉の向こうへ意識を集中させる。
「奥から……すごい魔力を感じるです。」
ティシアも扉へ手を触れた。
「魔力だけじゃない。」
「サーナトスの力も……部屋全体から感じる。」
二人は顔を見合わせる。
そして、覚悟を決めた。
ティシアが扉に手をかける。
「行こう。」
ノアが杖を握り直した。
「はいです。」
ギィィィ……。
二人が扉を押す。
その瞬間。
扉の向こうから、何かが息を吐いた。




