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54.ゴーレムと歴史

ティシアとノアは、遺跡の奥へ進んでいく。


途中には、いくつもの部屋があった。

「ティシア、ここにはいろんなものがあるです。」


部屋の中には、像や祭具が並んでいる。

「ここは、神を祀る場所だったのかな。」


ノアが近くの像に触れた。


パラパラ……。


触れた部分から石が崩れ落ちる。

「……触るのはやめておくです。」


「そうした方がよさそうだね。」


ほかの部屋にも、石板や武器など、さまざまなものが残されていた。


二人が遺跡に入ってから、二時間が経った。


何度かゴーレムにも遭遇したが、どれもすでに機能を停止していた。


ティシアは周囲の壁や壁画を見回す。

「……ここは、入り口より新しいね。」


「分かるですか?」


「壁画の傷み方が違う。」


ティシアは壁に描かれた絵を見る。

「入り口の壁画より、こっちの方が残ってる。」


「それに……。」


ティシアはさらに奥へ視線を向ける。

「ゴーレムも、少しずつ壊れてないものが増えてる気がする。」


ノアも周囲を見渡した。

「ということは……。」


「奥に進むほど、新しい時代のものになるのかもね。」


ティシアが先頭に立ち、さらに奥へ進んでいく。

やがて二人は、広い空間へと出た。


周囲を確認しようとした瞬間。


ティシアは右前方から、嫌な感覚を覚えた。


「……!」


反射的に剣を抜き、振り抜く。


カンッ!


剣が何かにぶつかり、金属音が響いた。


地面に落ちたそれを見る。


──矢だった。


ティシアは矢が飛んできた方向を見る。


そこには、頭部に羽の彫刻が施された弓を持つゴーレムが立っていた。


「アースショット!」

ノアがゴーレムへ向かって岩を放つ。


岩はゴーレムの頭部に命中し、その頭を吹き飛ばした。

ゴーレムは、その場で動きを止める。


「ティシア! 大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。」


ティシアは手にした剣を見る。

「この部屋に入ったとき、嫌な感覚がしたんだ。」


ティシアは、先ほど飛んできた矢を見る。

「……これが、おじさんの言ってた剣の能力なのかな。」


「便利ですね。」


二人は広い空間をさらに進んでいく。

途中、三体のゴーレムが行く手を塞いだ。


一体目は、鎧のような彫刻が施された剣を持っている。


二体目は、尖った耳をしており、弓を構えていた。


そして三体目は、他の二体よりも背が低く、大きな盾を持っている。


「ノアは、弓を持ったゴーレムをお願い。」


「僕は残りの二体を倒す。」


「はいです。」


ティシアは三体のゴーレムへ向かって走り出した。


弓のゴーレムがティシアへ狙いを定める。


しかし、その前にノアが岩を放った。

「アースショット!」


岩が弓のゴーレムへ向かって飛んでいく。


その隙に、ティシアは剣を持ったゴーレムへと距離を詰めた。


剣を振り下ろす。


しかし──。


盾を持ったゴーレムが、その間に割り込んだ。


ガンッ!


ティシアの剣が盾に叩きつけられる。


ティシアはさらに力を込める。しかし、盾はびくともしなかった。

(力を入れてるのに……びくともしない。)


横から、剣を持ったゴーレムがティシアへ斬りかかる。

ティシアは素早く身を引き、その一撃を避けた。


二体のゴーレムは、徐々にティシアとの距離を詰めてくる。

(防がれるのが厄介だ。まずは、盾のゴーレムから倒す。)


ティシアは詠唱を始めながら、盾のゴーレムへ斬りかかった。

「──身体強化。」


ドォォン!


強化された力で振り下ろした剣が、盾に深く食い込む。

しかし、それでも盾のゴーレムは動かなかった。


(身体強化でも無理なら……。)


ティシアの足元が、黒い影に染まっていく。


影は地面を這うように広がり、盾をすり抜けた。

そして、盾のゴーレムの真下から黒い触手が伸びる。


触手はゴーレムの足を絡みつくように捉え──。


バキッ!


そのまま、足を砕いた。


盾のゴーレムは膝をつく。


その瞬間、横から剣のゴーレムが斬りかかってきた。


(身体強化の効果は、まだ続いてる。)


ティシアは拳を握る。

そして、迫ってくる剣を無視するように前へ踏み込んだ。


拳を振り抜く。


バゴンッ!


剣ごと、ゴーレムの頭部を砕いた。


その直後。


──バキッ。


ティシアの手の骨が折れる音が響いた。


激痛が走り、ティシアの手から力が抜ける。

「……ッ!」


それでも、ティシアは気合いで力を振り絞った。

盾に深く食い込んだ剣を引き抜き、そのまま盾のゴーレムの頭部へ振り下ろす。


バキンッ!


ゴーレムの頭部が砕け、その動きが止まった。


ティシアはノアの方を見る。

ノアは息を切らしながらも、弓を持ったゴーレムの全身を崩壊させていた。


三体のゴーレムは、すべて動かなくなった。

「……終わった。」


ティシアはその場に膝をつく。


いつもなら、もう治っているはずの手。


しかし、折れた骨はまだ元に戻っていなかった。

(影狼を使うと、再生が遅くなる……?)


ノアがティシアに気づき、慌てて駆け寄る。

「ティシア! 回復魔法をかけますね!」


ノアが回復魔法を使う。


ティシアの傷はゆっくりと治っていった。


しかし、それでもティシアは立ち上がれなかった。

(影狼を使ったときの痛みが……まだ残ってる。)


全身の奥から、あの感覚が消えない。

まるで体の内側から引き裂かれるような痛みだった。


ノアは心配そうにティシアを見る。

「私はこの辺りを調べますね。」


「ティシアは、しばらく安静にしててください。」


ティシアは肩で息をしながら、小さく頷いた。

「うん……気を付けてね……。」


ティシアはその場に座り込んだまま、考える。

(工房のときと、ここでは影狼を使ったあとの反動に差がある。)


(ここの何かが、影狼の力に影響を与えてる?)


しばらく休んでいると、ティシアはある程度まで回復した。

「ノア、どうだった?」


「ゴーレムが入っていた棺を見つけました。」


「ただ……。」


「ただ?」


ノアは少し困ったような表情を浮かべる。

「棺の数が、一個多かったです。」


ティシアは立ち上がり、ノアとともに奥へ進んだ。


そこには、四つの棺が並んでいた。


「見て。まだ中に入ってるです。」

ノアが一つの棺を指差す。


二人は慎重に近づき、中を覗き込んだ。


そこには──。


体は人間。


しかし、頭部は獣のような姿をしたゴーレムが横たわっていた。


「何これ……。」

ティシアは思わず呟く。


「私も、見たことないです。」


ティシアはゴーレムを観察する。

「見る限り、機能は停止してるみたいだね。」


(もし、こいつも動いていたら……。)


ティシアは、砕けた三体のゴーレムを思い出す。

(僕らは負けてたかも。)


二人はさらに遺跡の奥へ進んでいく。すると、一枚の壁画が目に入った。


そこには、四つの異なる種族が二人の神を信仰している姿が描かれていた。


「これは……人間、ドワーフ……。」


ノアが壁画を指差しながら、一つずつ確認していく。

「次はエルフで……。」


ノアは最後の種族を見つめる。

「あと一人の種族は、分かんないです。」


ティシアは手を組み、壁画をじっと見つめた。

「……あの壊れてるゴーレムに似てる。」


「獣の頭をしていたゴーレムですか?」


「うん。」


二人はしばらく壁画を見つめたあと、さらに奥へ進んだ。

少し先にも、新たな壁画があった。


「これは……。」

ティシアとノアは言葉を失う。


そこには、一人の神の真下に人間が立っていた。


そして、その周囲では──。

残る三つの種族が、その神に背を向けていた。


「これはサーナトスが封印された後?」


「神様が一人減ってるのでそうだと思うです。」


「……人間以外の種族は、アルジャから離れたのかな。」


次の瞬間、強烈な感覚がティシアを襲う。


ティシアが叫ぶ。

「ノア!防御!」


遺跡の奥から刃物のように鋭い炎が迫る。


「アクアシールド!」

水の壁が二人を覆う。


ティシアはノアの前に立つ。

「影狼!」


ティシアの全身が影に覆われ、その体が徐々に肥大化していく。


次の瞬間。


遺跡の奥から放たれた炎が、水の壁へとぶつかった。


ジュアアアアッ!


大量の水が一瞬で蒸発する。

しかし、水の壁は炎の勢いを止めきれなかった。


「……っ!」

防御を突破した炎が、ティシアを飲み込む。


ティシアの全身を覆った影が炎に触れ、激しく揺らいだ。

それでも炎の勢いは止まらない。


(やばいかも……。)


炎の中で、ティシアの意識が遠のいていく。

このまま焼かれ続ければ──。


しかし、ティシアが完全に灰になる前に炎は過ぎ去った。


「ティシア!」

火傷を負ったノアが駆け寄る。


ティシアの体は黒く焼け焦げ、まったく動かなかった。


「……。」


息もしていない。


ノアは震える手をティシアへ向ける。

「……お願いです。」


回復魔法をかけ続ける。


しばらくして。


ティシアの体が、わずかに動いた。

「……っ。」


ゆっくりと息を吸い込み、ティシアが起き上がる。

「ノア……大丈夫だった?」


「ティシア……。」


ノアは目に涙を浮かべる。

「生きててよかったです……。」


「私はティシアが守ってくれたので、大丈夫です。」


ティシアは安心したように息を吐いた。

「なら……よかった。」


ノアは遺跡の奥へ視線を向ける。

「どうするですか?」


「あのレベルの炎を使う魔物が、奥にいるです。」


ティシアも暗い通路の先を見る。

「そうだね……。」


少し考えたあと、ティシアは口を開いた。

「でも、あの炎からサーナトスの力を感じた。」


「サーナトスですか……。」

ノアの表情がわずかに曇る。


ティシアは一度、自分の焼けた腕を見る。


影狼を使った反動。


炎による大きな損傷。


この状態で、さらに奥へ進むのは危険すぎる。

「いったん帰ろう。」


「万全の状態じゃないと、奥にいるやつには勝てない。」


ノアは少し考えたあと、頷いた。

「そうですね。」


そして、遺跡の奥を見つめる。

「あきらめるわけには、いきませんし。」


二人は遺跡の奥に背を向けた。


しかし。


暗い通路のさらに奥では、何かがこちらを見ていた。

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