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52.ドワーフの技術

ティシアはノアを起こし、二人で一階へ降りる。


そこでは、グルムが朝食を並べていた。

「良いもんを用意してやった。腹いっぱいまで食え。」


「ありがとうございます。」


二人は食卓に座り、朝食を食べ始める。肉の匂いが部屋に充満している。


ノアがティシアを見る。

「ティシア、お肉を食べられるようになったんですか?」


「うん。」


ティシアは目の前の料理を見る。

「昨日、影狼の力を使ったとき、影狼自身とつながった。」


「それで思ったんだ。」


「結局、あいつも生きるために食べてたんだって。」


ティシアは少し考える。

「そう思ったら……少しずつ大丈夫になってきた。」


ノアは嬉しそうに笑う。

「なら、よかったです。」


その様子を見ていたグルムも席に着く。


「……それでな。」


グルムが口を開く。

「昨日のことについて、話しておきたいことがある。」


「……何ですか?」


「あの後、騎士団が蛇牙傭兵団の連中を連行していった。」


「蛇牙傭兵団について、何か分かりましたか?」


「いや、まだだ。」

グルムは首を横に振る。


「尋問するのは、牢屋に着いてからだな。今はまだ護送中だ。」


「そうですか。」

ティシアは小さく頷いた。


蛇牙傭兵団のことは気になっていた。


だが、自分たちだけで追い続けられるほど、情報を持っているわけでもない。


今は騎士団に任せるしかない。


「だが、今は国が蛇牙傭兵団について調べている。」

グルムはティシアを見る。


「何か分かれば、お前さんたちにも教えよう。」


「ありがとうございます。」


「次は、お前さんの武器のことだ。」


グルムは立ち上がる。

「工房があんなに荒らされちまったからな。まずは片づけねえと。」


「手伝いますよ。」

ティシアとノアも立ち上がり、グルムの後を追う。


グルムは少しだけ二人を見る。

「……そうだな。頼もう。」


三人は工房へ向かい、荒れた室内の片づけを始めた。中はまだ熱気を感じる。

しばらくして片づけが一段落すると、グルムは作業台へ向かい、鍛冶の準備を始める。


「僕らがいるのに、始めていいんですか?」

ティシアが尋ねる。


「ドワーフの技術は門外不出だって聞きましたけど……。」


グルムは作業の手を止めずに答える。

「お前さんらなら信用できる。」


そして、グルムは少しだけ笑う。

「なんなら、理解できるように説明してやる。」


グルムは炉の前へ立つ。

真っ赤に溶けた鉄を確認すると、そこへ魔石を入れた。


「本来なら、固まった鉄に加工した魔石を取り付ける。」


グルムは溶けた鉄を見つめる。

「だが、俺らは違う。」


魔石が熱を帯び、徐々に溶けた鉄へ沈んでいく。

「溶けた状態で混ぜるんだ。」


ティシアは炉の中を見つめる。

「……そんなこと、できるんですね。」


「普通の鍛冶職人には無理だ。」


グルムはそう言うと、水晶を手に取った。

透明な水晶の内部には、空洞が作られている。


「これが、ドワーフの鍛冶技術だ。」


グルムは水晶を持ちながら続ける。

「魔石と鉄を完全に混ぜるためには、魔力を無理やり閉じ込めておく器が必要になる。」


「基本的には、この水晶を使う。」


「水晶……エルフの技術ですか?」


「あんな魔法主義の連中の技術は使わねえよ。」

グルムは鼻を鳴らす。


「これは一般的に流通してる普通の水晶だ。」


「なるほど……。」

ティシアは水晶を見つめる。


「要領さえ掴めれば、あとは水晶に鉄と魔石を閉じ込めればいい。」


「だから、門外不出なんですね。」


「ああ。」


グルムは水晶の中に、鉄と魔石を入れる。

「このまま少し寝かせる。」


「そうすれば、特殊な鉄――魔鉄になる。」


グルムは作業を終えると、一息ついた。


そして立ち上がり、ティシアの方を見る。

「……そういえば、言いそびれていたな。」


「助けてくれたこと、感謝している。」


「僕は剣が欲しいから助けただけですよ。」


「それでもだ。」

グルムは少し笑う。


「それで、お前さんに一つ提案がある。」


「提案?」


グルムは机の上を探り始める。

しばらくすると、三角形の黄色い物体を取り出した。


ティシアがそれを受け取る。

「……わずかに魔力を感じます。」


「これは?」


「火山の中に入るための鍵だ。」


「これを、お前さんにやる。」


「何故ですか?」

ティシアは鍵を見る。


「そもそも、火山の中には何があるんですか?」


「火山の中には、大昔の遺跡がある……らしい。」


「らしい?」


「わしも入ったことはない。だから詳しいことは知らん。」


「大昔ってことは……。」

ティシアが呟く。


グルムは頷く。

「サーナトスとアルジャの歴史が残されている可能性がある。」


ティシアの表情が変わる。


「そこで提案だ。もし、お前さんらがその遺跡を攻略したなら。」

グルムは真剣な表情になる。


「遺跡に残されていた内容。」


「そして、お前さんがわしに話したこと。」


「それらをすべて、ヴォルガルドの王に伝える。」


ティシアは首を傾げる。

「……そんなこと、可能なんですか?」


「ヴォルガルド一の鍛冶師だぞ。」

グルムは少し胸を張る。


「それに、わしは王の叔父だ。」


「だから、王に会うこと自体はできる。」


「でも……グルムさんは、アルジャを信仰してるんじゃないんですか?」


グルムは黙り込む。

そして、ゆっくりと視線を落とした。


「……信仰している。」


「だが、恩はもう返しきったつもりだ。」


ティシアはグルムを見る。


「ウラノス王国との貿易を通して、な。」


グルムは顔を上げ、ティシアをまっすぐ見つめた。

「それに……。」


少しだけ間を置く。


「もし、本当にアルジャ様が間違ったことをしているのなら。」


グルムは静かに言った。

「わしは、信者として止めたい。」


「……ありがとうございます。」


「まあ、その代わり条件もある。」

グルムはティシアを見る。


「遺跡で良いもんが見つかったとしても、大体は国の物になる。」


「それは我慢してくれ。」


「わかりましたよ。おじさん。」


「だから、おじさんと呼ぶな。」

グルムは呆れたように息を吐く。


「じゃあ、五日後にまたここへ来てくれ。」


「五日?」


「ああ。」


グルムはノアの方へ視線を向ける。

「そこの嬢ちゃんの杖、水晶の部分が割れてるだろ。」


「良いもんを用意してやる。」


その瞬間。


「良いんですか!」


工房の隅で片づけをしていたノアが、埃を被ったまま飛び出してきた。


「ああ。」


「助けてくれた礼だ。」


「ありがとうです!」

ノアは嬉しそうに杖を見る。


「杖は渡さんでいい。」


グルムはノアの杖を一瞥する。

「大きさは、ここへ来たときに覚えてる。」


二人は片づけを終えた後、嬉しそうに工房を出た。


────────


その頃。

岩石地帯を、護送用の馬車が三台、縦に並んで走っていた。


真ん中の馬車には、ガンマが乗せられている。


(完全にしくじった……。まさか、呪いが効かない子が出てくるなんて。)


突然、馬車が大きく揺れた。


「何だ!?」


次の瞬間、馬車が大きく傾き、そのまま横転する。

中から騎士たちが慌てて這い出した。


ドォォン!


前方を走っていた馬車が爆発する。


「魔術師だ! 魔術師がいるぞ!」

騎士の一人が後方を振り返る。


しかし、そこにあった光景に息を呑んだ。


後ろの馬車の周囲では、鋭く伸びた植物が騎士たちの心臓を貫いていた。


そして、その傍らには一人のフードを被った男が立っている。


まるで、その光景をただ眺めているだけのように。


残った騎士の一人が魔法を発動する。

「ファイアバースト!」


騎士の手から炎が噴き出し、フードの男へと迫る。


「騎士の中にも、魔法を使う者がいたのだな。」

フードの男はそう呟きながら、迫る炎をものともせず歩いてくる。


騎士の表情が変わった。


「まさか……お前は──」


その瞬間。


後方から飛んできた火球が、残った騎士の頭を正確に吹き飛ばした。


横転した馬車から、ガンマがゆっくりと這い出る。


「ひどくやられたみたいね。」

声のする方を見る。


そこには、一人の女が立っていた。


「……ベータ。」


「あなたが聖女を殺せていれば、こんなことにはなってなかったわ。」


ガンマはあの少女の姿を思い出す。

「……あの子。」


「神翼の羽を持っていた。」


ベータの表情が変わる。


「聖女が、こっちに来てたわ。」


ガンマはベータを見る。

「今から行きましょう。」


「神に捧げるの。」


そのとき、フードの男が口を開いた。

「今はいい。」


ガンマたちは男を見る。


「それより、お前の傷を治すことが最優先だ。」


ガンマは拳を握る。


悔しそうに俯いた。

「……了解しました。」

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