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49.感覚増強

ティシアが裏路地の中を進んでいると話し声が聞こえてきた。


耳を澄ませるとさっきの女の声と別の声が聞こえる。

「手には包帯を巻きなさい。私たちの正体がばれると面倒なの。」


「申し訳ございません。ほかの者にも警告します。」


「そうして。それより、鍛冶師のことは調べられた?」


「はい、営業時間中は人が多いですが、深夜になれば工房に一人で作業をしています。狙うならそこかと。」


「ええ、わかったわ。もう少し調べがついたら実行しましょう。」


ティシアは徐々に距離を詰めていく。


しかし――

女がため息をついた。


「はぁ……。」


女は振り返ることなく続ける。

「せめて、気配を消せるようになってから尾行すればよかったのに。」


「……!」

ティシアの足が止まる。


「出てきなさい。」


瞬間、壁の裏からティシアが飛び出し突っ込む。


「ガンマ様!」

男が剣を抜き、ティシアの前に立ちはだかる。


ティシアは構わず踏み込んだ。


男が剣を振り下ろす。

ティシアはそれを素手で掴んだ。


「なっ――」


次の瞬間、短剣が閃く。男の首から血が噴き出した。


女は焦ることなく淡々とした口調で話す。

「あら、殺しに躊躇がないのね。」


止まることなくティシアは女との距離を詰める。

(どれくらい強いか分からない以上早く無力化しないと。)


女は本を片手に何かを唱えた。

「不動の呪い」


そう発した瞬間、ティシアの動きが止まる。


「片づけるの大変なのよ。魔力を使うし。」


ガンマは死体に手をかざした。


手に持っていた袋の口が大きく開く。

すると、死体だけでなく、その周囲の血まで吸い込まれていった。


ティシアの足が少しずつ動く。

「何……者…だ。」


「私、接近戦は苦手なのよ。だからあまり動かないでほしいのだけど。」


女は何かを唱え始める。

「眠りの呪い。」


それを聞いた瞬間、ティシアの意識が沈み始める。

「最後に自己紹介してあげる。私は蛇牙(じゃが)傭兵団所属、ガンマといいます。」



「蛇…牙……?」

ティシアには立ち上がる気力は残されていなった。


「呪いが解かれるまであなたはずっと眠ったままよ。おやすみなさい。」


────────


ティシアは裏路地で目を覚ます。

「───ハッ」


周りを見るが誰もおらず、血の臭いだけが残っていた。

「逃げられたか。」


ティシアはノアの元へ戻ると、ノアが駆け寄る。

「ティシア、大丈夫でしたか?」


「大丈夫。僕が入ってからどれくらいたった?」


「えっと……5分にならないぐらいです。」


(じゃあ、2分くらい眠ってたのか。)


ティシアは、裏路地で起こったことをノアに話す。


「蛇牙傭兵団……聞いたことがないです。それに、鍛冶師を狙ってる……。」


「もしかしたら、グルムさんが危ないかも。」


ティシアは工房の方を見る。

「今から行ってみる?」


「グルムさんの工房は、もう閉まってるです。」


ノアは少し考える。

「今日は宿を取って休みましょう。明日の朝、一番に様子を見に行けばいいです。」


「……そうだね。」


ティシアは頷く。

「じゃあ、今日は休もう。」


────────


二人は宿に戻り、魔法の練習をしていた。


ティシアが魔法の練習をしていると、ノアが尋ねる。

「ティシア、グルムさんの時、体を炎で包んだですよね?」


「うん。」


「私、火魔法なんて教えてないです。どうやったですか?」


「ノアが教えてくれたんだよ。」


「私が?」


「うん。魔法を発動するにはイメージが大切で、詠唱や魔法陣はそのイメージを形にするための骨組みに過ぎないって。」


ティシアは自分の手を見つめる。

「だから、イメージさえできれば、無詠唱でも魔法を使えるんじゃないかと思ったんだ。」


「それで、火を?」


「うん。」


ティシアは少し考える。

「一回、火だるまになったことがあるからね。イメージするのは簡単だったよ。」


「……。」


ノアは何とも言えない表情でティシアを見る。

「それを簡単って言うのは、どうなんですか……。」


しばらく話した後、ティシアがふと思い出したように尋ねる。

「そういえば、呪いと魔法って何が違うの?」


ノアは少し考えてから答える。

「私は聖女なので、呪いについては詳しく知らないです。だから、大まかなことしか話せないです。」


「呪いは、禁止魔法に分類される魔法の一種です。」


「何かを代償にして、相手に特定の効果を強制することができるです。」


「例えば、相手を動けなくするとか?」


「そうです。」

ノアは頷く。


「本などを触媒にして、条件さえ満たせば、強力な効果を相手に与えられるです。」


「なるほど……。」


ティシアは少し考える。

「じゃあ、普通の魔法より危険なんだね。」


「そうですね。だから禁止されているです。」


ノアはティシアの体に触れる。

「呪いは、解呪するか、相反する呪い……もしくは同じ呪いを受けて相殺しないと、解けないはずです。」


「でも、僕には何もないよ。」

ティシアは自分の体を見つめる。


ノアも不思議そうにティシアを見る。

「……おかしいです。」


「何が?」


「ガンマは、確かにティシアに呪いをかけたはずですよね。」


「なのに、何の痕跡も残ってないです。」


ノアは不思議そうにティシアの体をペチペチと触る。

「……本当に何もないです。」


「もしかしたら、サーナトスが関係してるのかもね。」


ティシアは少し考えた後、立ち上がる。

「今日はもう寝よう。」


「そうですね。」


二人はベッドに入り、そのままぐっすりと眠った。


────────


翌日。


二人は、グルムが狙われている可能性があることを伝えるため、工房へ向かった。

裏口まで来ると、そこにはドワーフが一人立っていた。


「あの、グルムさんに会いたいんですけど。」


「以前のお客様ですね。申し訳ございません。グルム様は昨日から工房に籠もりきりでして。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」


ティシアは、昨日聞いた話を説明する。

「グルムさんが狙われている可能性があるんです。」


「ふむ、承知しました。すぐにお伝えします。」


「お願いします。」

二人はドワーフに頭を下げ、工房を後にした。


「あれでよかったですか?」


「少なくとも、昨夜の時点ではすぐに襲うつもりじゃなかった。なら、工房には伝えたし、今は僕たちにできることはない。」


「まずは依頼でも受けよう。硬貨も減ってきたからね。」


二人は冒険者ギルドへ向かい、依頼を受ける。


その後、火山の中腹までやってくると、ノアが周囲を見渡した。

「よく見ると、山がいろんなところにあるです。」


「街はここだけじゃないんだと思う。」

ティシアは、周囲の山々を見渡す。


そして、一番大きな山を指さした。

「あの山を越した先の砂漠に、ヴォルガルドの王宮があるって聞いたよ。」


ノアは目を凝らす。

「……遠いですね。」


「そうだね。」


二人は話しながら、火山の中腹を歩いていく。


すると、ノアが突然足を止めた。

「魔力探知で、熱トカゲを感知したです。」


「魔力探知の範囲、広くなった?」


ノアは胸を張る。

「ティシアに置いていかれるわけにはいかないので。」


二人は熱トカゲを見つけ、ゆっくりと距離を詰めていく。


「ティシア、感覚増強を使ってみるですか?」


「そうだね。覚えたばかりだけど、実戦で使った方が成長できるから。」


ティシアは詠唱を始めながら、熱トカゲへ近づいていく。


詠唱を終えた瞬間、ティシアの感覚が一気に研ぎ澄まされる。

(すごい……。)


熱トカゲの動きが、まるでゆっくりになったように見える。

(まるで、世界そのものが遅くなったみたいだ。)


だが、同時に別の感覚まで強くなっていた。

(……その分、体に当たる風や服が擦れる感覚まで痛い。)


次の瞬間。


熱トカゲが飛びかかってきた。


ティシアはその動きを見切り、首を掴む。

「……そこ。」


そのまま腕に力を込める。


ゴキッ。


熱トカゲの首が折れ、その体が地面へ落ちた。


「ティシア、大丈夫でしたか?」


「うん。でも、ほかの感覚まで強化されて痛かった。」


ティシアは自分の腕を見ながら続ける。

「それに、これ以上感覚が鋭くなると、逆に体の反応が追いつかなくなりそう。」


「痛いのは、魔力の扱い方が原因ですね。」


ノアは少し考える。

「魔力を強化したい部分にだけ集中させないといけないです。」


「なるほど……。」

ティシアは頷く。


「反応については……慣れるしかないか。」


「そうですね。」


ティシアは先ほどの戦いを思い返す。

「でも、この魔法をロートやスロンは無詠唱で使ってたんだよね。」


「やっぱり、すごいや。」


「ティシアも、いつかできるようになるですよ。」


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