↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/86

48.蛇の印

ティシアとノアは、再び客室に座っていた。


ノアがおそるおそる尋ねる。

「あの……どうして話を聞く気になったんですか?」


グルムはティシアを見る。

「……ティシアといったな。」


「はい。」


「お前さんが仲間を守るために、火だるまになってまで俺に向かってきたのを見てな。」


グルムは腕を組む。

「少しだけ、考えが変わった。」


「……。」


ノアはティシアを見る。

「ティシアらしいです。」


「今度はわしから質問だ。」


グルムはティシアをまっすぐ見つめる。

「なぜ、あの邪神の力を持っている。ウラノス王国で何かあったのか?」


「何でウラノスが……。」


ティシアは自分の顔に手を当てる。

そこで、顔を隠していたフードがなくなっていることに気づいた。


「……あ。」


炎に包まれたときに、燃えてしまったらしい。


グルムはティシアの顔を見つめる。

「やはり、ウラノスの第二王子か。」


「………はい。」


ティシアは少し迷ったあと、口を開く。

「邪神……サーナトスのことですよね。」


「ああ。」


「僕は……アルジャから逃げました。」


グルムの表情が変わる。

「アルジャ様から……?」


「そのあと、サーナトスと出会ったんです。」


ティシアは、自分がアルジャから逃げたこと、そしてサーナトスと出会った経緯を話し始めた。


グルムは組んだ手を顔の前に置き、俯く。

「……なるほどな。」


「……それだけで、信用してくれるんですか?」


「ああ。お前さんの話は、記録とも矛盾しねぇ。」


「ただ、わしが知っているのは、せいぜい500年前の資料だけじゃ。」


グルムは顔を上げる。

「正直、その資料も不可解な点がいくつもあった。」


「不可解な点……?」


「ああ。サーナトスについて書かれていることが、妙に断片的なんじゃ。」


「わしは、サーナトスをアルジャ様に封印された邪神という認識でしかなかった。」


「だから、僕たちをサーナトスの使いだと思って、襲いかかったんですね。」


「そうだ。」


ティシアは少し考える。


「……なぜ、そこまでアルジャを信仰するんですか?ヴォルガルドはそこまで信仰的ではなかったはずです。」


「100年前、わしはアルジャ様に魔法を感じる力と寿命をもらったんだ。」


ノアがティシアに小声で尋ねる。

「ドワーフって、どれくらい生きるんですか?」


「人間より少し長い。平均で150歳くらいかな。」


グルムは二人の会話を聞きながら、静かに口を開く。

「わしは、もうすぐ120になる。」


「あの日、アルジャ様の力を授かった。それからわしは、魔力を感じ取れるようになった。寿命も伸びた。」


グルムは、空いた壁の向こうにある自分の工房へ目を向ける。

「元々、鍛冶職人としての才はあった。だが、ここまで大きくなれたのはアルジャ様のおかげだ。」


「だから、アルジャを信仰しているんですね。」


「ああ。」


グルムは少し黙る。

「だからこそ、正直サーナトスのことを聞いて戸惑っている。」


「わしが信じていたものは……嘘だったのかとな。」


「……。」


グルムは自分の手を見る。

「アルジャ様から受けた加護まで疑っているわけじゃねぇ。」


「ただ……わしらが教えられてきた歴史が、本当にすべて正しいのか。それが分からなくなった。」


「グルムさん……」


グルムはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げた。

「……ところで、お前さんたちは何故ヴォルガルドに来たんだ?」


「僕たちはゴブリンキングの魔石を使って武器を作ってもらうためにここに来ました。」


グルムは少し俯く。

「そうか…」


グルムが席を立つ。

「わかった。じゃあわしが作ってやろう。」


「いいんですか!?忙しいでしょうに。」


「魔石を使わない武器は弟子たちに任せている。わしが教えているからな。そこらの鍛冶職人より腕は確かだ。」


「ほら、剣見せてみろ。」


グルムは剣と魔石を受け取り、刀身をじっくりと眺める。

「……ほう。」


指先で刀身を軽く弾く。

「既に魔法がかかってるな。」


「これ、良い剣なんですか?」


「ああ。かなりな。」


グルムは刀身に残る傷を見る。

「だが、熱トカゲとやり合ったな。表面が傷んでいる。」


「分かるんですか?」


「鍛冶職人を舐めるな。」


グルムは剣を持ち上げる。

「これなら新しく作る必要はねぇ。わしが直してやる。」


「預かるぞ。五日後に取りに来い。」

グルムが工房へ戻ろうとする。


「えっと……」

出ていこうとするグルムをティシアは呼び止める。


「何だ。作業は見せんぞ。」


「この街で、何か妙なことは起きてないですか? サーナトスの力に関係している可能性があるので。」


「……異変?」


グルムは腕を組み、しばらく考える。

「そういえば、最近妙な輩がうろついているな。」


「妙な輩?」


「ああ。問題ばかり起こして、街の連中も迷惑している。」


「その人たちって、どんな奴ですか?」


「確か……」


グルムは記憶を辿るように目を細める。

「身体のどこかに、蛇のようなマークがあった。」


「もしかしたら過激派の奴らかもしれません。」


「過激派?」


「聖女を襲った連中のことです。過激派の中には蛇のマークを持つ者がいました。」


「なら、気を付けたほうがいい。」


「わかりました。」


ティシアとノアは工房を出る。


しばらく歩いたところで、ノアが口を開く。

「ティシア、過激派のこと……調べませんか?」


「僕もそのつもりだよ。」


ティシアは少し意外そうにノアを見る。

「でも、珍しいね。こういうことには消極的だと思ってた。」


「……実は。」

ノアは少し俯く。


「私のお母さん、過激派に殺されたんです。」


「……。」

ティシアは何も言わず、ノアの言葉を待つ。


「復讐ってわけではないです。」


ノアは前を向く。

「……でも、私のお母さんを殺した人たちが、まだ誰かを傷つけているなら……見過ごせないです。」


「……そっか。」


ティシアは静かに頷く。

「じゃあ、一緒に調べよう。」


────────


二人は街を歩きながら、周囲の人々に注意を向ける。

「あれから4時間ぐらい探していますが見当たらないですね。」


ティシアがふと足を止めた。

「ノア。」


「どうしたですか?」


ティシアは少し離れた場所を歩く男を指差す。

「あの人の手……。」


男の手首には、蛇のようなマークが刻まれていた。


ノアの表情が変わる。


「……蛇のマーク。」


「やっぱり過激派がいる。」


ティシアは声を落とす。

「慎重に行こう。」


「はいです。」


二人は男に気づかれないよう、距離を取って後を追う。


やがて男は人通りの少ない裏路地へ入っていった。

「あそこに入ったです。行きましょう。」


ノアが後を追って裏路地へ入ろうとした時、


一人の背の高い女が、二人の前を横切って裏路地へ入っていった。


「……?」

ノアが足を止める。


女は薄暗い髪を触りながら、そのままノアの前に立ち、道を塞いだ。

「……。」


「あの……通してほしいです。」


ティシアは女を見つめる。


(……血の臭いがする。)

「ノア、下がった方がいい。」


女はティシアを見ることなく、ノアの前にしゃがみ込む。


そして、ノアと目線を合わせると、優しい声で話しかけた。

「この先は、あなたのようなかわいい子が来るところじゃないよ。」


「……。」


女はそれだけ言うと、立ち上がる。

そして何事もなかったかのように、裏路地の奥へ進んでいった。


「ノア、あの人から何か感じた?」


「いえ、少なくとも魔力は普通でした。」


ティシアは鼻に手を当てる。

「あの人から、血の臭いがした。」


「じゃあ、過激派ってことですか?」


「それは分からない。でも、追ってみる価値はある。」


「じゃあ、行きましょう。」


ティシアは裏路地の奥を見つめる。

「……いや。」


「?」


「ノアはここで待っててほしい。」


「どうしてですか?」


「あの人が何者なのか分からないから。もし危険だったら、二人で巻き込まれるよりいい。」


「でも、ティシアが危険な目に合うのは嫌です。」


「誰かが裏路地に入ってきたら、知らせてほしいんだ。もし二人で行って後ろから襲われたらそれこそ危険だ。」


「………はいです。」


ティシアは一人、裏路地の奥へ進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。