44.血の味が消えない
ティシアとノアは水路の掃除を行っていた。
ティシアは暗い水路を見て言う。
「ノア、ここ照らして。」
「わかったです。」
ノアは手をかざし暗い水路を照らす。
「そういえば、どんな依頼を受けたですか。」
「えっと、木材に石材、それから薪の運搬だね。」
「運搬だらけですね。」
「体を鍛えられるのを選んだんだ。」
「影狼との戦いで、まだまだ自分の力が足りないって思ったから。」
「無理しすぎはよくないですよ。」
「気を付けるよ。」
しばらくしてから、ティシアが口を開く。
「そろそろ、この街を出ようかなって思うんだけど、どう?」
「そうですね。街に長くいると、アルカディアから追手が来るかもです。」
「必要なものは買ってあるから、明後日出発にしよう。」
「了解です。」
ティシアとノアは、その日の依頼をすべて終えた。
気づけば、すっかり日が暮れていた。
────────
二人は宿に戻り、魔法の練習をする。
ティシアが魔力を身体の中で循環させていると――
ふと、違和感を覚えた。
「ノア……僕の身体の中に、何か変なものを感じるんだけど。」
ノアはティシアの身体に触れる。
「これは……刻印だと思うです。」
「刻印?」
「身体に刻まれた魔法陣のことです。魔力を操れるなら、そこに魔力を流すことで、刻印に込められた魔法を使えるです。」
「不死身の効果かな?」
「不死身とは別の効果だと思うです。不死身なら、私が最初にティシアに触れたときに気づいていたはずです。」
「……そうか。」
ティシアは自分の身体の中に意識を集中させる。
「魔力を流せばいいんだよね。」
「はいです。でも、何の魔法か分からないので、気をつけてくださいです。」
ノアは一歩下がる。
「分かった。」
ティシアは刻印に魔力を流そうとする、だがうまく流れない。
「ダメみたい、弾かれた。」
ノアは刻印に意識を集中させる。
「……まだ使えないみたいです。」
「どういうこと?」
「刻印が身体に馴染んでいないのかもしれないです。時間が経てば、使えるようになると思うです。」
ティシアは少し肩を落とす。
「そうなんだ……。」
「じゃあ、そろそろ魔法の使い方を教えるです。」
ティシアは顔を上げる。
「いいの?」
「はいです。ティシアは成長が早いので、大丈夫です。」
「じゃあ、お願いしようかな。」
────────
「今日はここまでですね。続きはまた明日で。」
ノアは手を叩いて立ち上がる。
「ありがとう、ノア。おやすみ。」
ティシアは明日の準備を済ませ、ベッドに入ろうとする。
「……ノア?」
ノアは部屋を出ようとせず、その場に立っていた。
「ノアの部屋は隣だよ。」
「……まだ、ちょっと怖くて。一緒に寝てもいいですか?」
ティシアは少し驚いた。
「……影狼のこと?」
ノアは小さく頷く。
「……はいです。」
「そっか。」
ティシアは少し笑う。
「じゃあ、今日は一緒に寝ようか。」
ノアがベットに入る。気まずい空気の中ノアが口を開く。
「影狼を倒す前……偽物のカーナさんに告白されてましたよね。」
「そうだね。」
ノアは顔をそむける。
「……もし、本物のカーナさんだったら、どう返事する予定でしたか?」
「……僕にはやらないといけないことがある。だから断ってたかな。」
「そうですか…おやすみティシア。」
「おやすみ。」
────────
翌日、ティシアとノアは武器や食糧を買うために外へ出た。
「あれ、食べませんか?」
ノアが指をさす。
「あれって、ケバブのこと?」
「はいです。見慣れない物だったので。」
「昼食はまだ取ってないし、食べようか。」
二人はケバブを買い、並んで食べ始めた。
「おいしいです!」
ノアが嬉しそうにケバブを頬張る。
「……。」
ティシアもケバブを口にする。
「……ティシア?」
「ん?」
「どうしたですか?」
「どうしたって?」
「さっきから、全然食べてないです。」
ティシアは手元のケバブを見る。
「……ああ。」
「お腹いっぱいですか?」
「いや……。」
ティシアはケバブを一口食べる。
「……なんか、変な感じがする。」
「変?」
「うん。肉を食べてるだけなのに……。」
ティシアは少し黙る。
「実は、────」
ティシアはノアに、影狼の記憶を見たことを話した。
「それで……肉を食べると、なんというか……血の味がする気がする。」
ノアは持っていたケバブを見つめる。
「……。」
「ごめん。せっかく買ったのに。」
「謝らなくていいです。」
「ティシアが悪いわけじゃないですから。」
ノアは少し考え込む。
そして、ぱっと顔を上げた。
「肉の感触がダメなんですよね?」
「そうだね。匂いにはあまり反応しなかった。」
「じゃあ、卵や大豆をたくさん買うです。あとはひき肉とか……肉の形が残ってないものを使って……。」
ノアは指を一本ずつ折りながら、食べられそうなものを考えていく。
そんなノアを見て、ティシアは微笑んだ。
「ありがとう……ノア。」
ノアは二人分のケバブを食べながら買い物を続けた。
気づけば、あたりはすっかり暗くなっていた。
その後、いつも通り魔法の使い方を教えてもらう。
練習を終えたところで、ティシアが口を開いた。
「ノア、行きたい場所があるんだけど、いい?」




