43.僕が強ければ
ティシアは宿の部屋のベッドで目を覚ました。
ティシアはゆっくりと目を開け、窓の外を見る。
外はすでに暗くなっていた。
(確か……影狼に食べられて……。)
ぼんやりと、最後の記憶を思い出す。
(多分、一日中眠ってたってことかな。)
ティシアは身体を起こそうとする。
「……ん?」
しかし、身体が重い。
何かがティシアにくっついていて、起き上がることができない。
「……なんだ?」
ティシアは布団をめくる。
そこには――
ティシアにしがみついたまま眠っているノアがいた。
「……ノア?」
ノアはティシアの服をしっかりと握ったまま、静かな寝息を立てている。
「……。」
ティシアはしばらくノアを見つめる。
(ずっと、ここにいたのかな。)
そう思った瞬間、ノアが小さく身じろぎする。
「……ティシア……。」
「……寝言か。」
ティシアは小さく笑った。
────────
ノアが目を覚ます。
ティシアはベッドの脇で、自分の所持品を整理していた。
「ティシア! 目が覚めたですね!」
ノアは飛び起きる。
「おはよう、ノア。」
ティシアは自分の服を見下ろす。
「……この服って、ノアが買ったの?」
以前着ていた服とは違う。
けれど、色や雰囲気は以前のものによく似ていた。
「そうです。ティシアの服は、もう駄目でしたから。」
ノアは少し得意げに胸を張る。
「なるべく前の服と似た感じにしたですよ。」
「そうだったんだ。ありがとう。」
「どういたしましてです!」
ノアは嬉しそうに笑った。
「そういえば、影狼はどうなったの?」
「私が倒しましたです!」
ノアは胸を張る。
「それに、神翼の羽を使わなくても光を放てるようになったんですよ!」
ノアは影狼を倒したときのことを、ティシアに嬉しそうに話す。
「そうなんだ。ノアはすごいね。」
ティシアに褒められ、ノアは照れくさそうに頭を触る。
「ティシアのおかげです!」
ノアは嬉しそうに笑った。
「ティシアが影狼の戦い方を見せてくれたから、私も光を一点に集中させればいいって思いついたです。」
ノアは少し考えてから続ける。
「それに、神翼の羽がないとフォス・スフィアの威力も落ちます。今回は、影狼と相性が良かっただけです。」
「それでも、ノアが倒したんでしょう?」
「……そうですけど。」
ノアは少し恥ずかしそうに笑った。
持ち物を確認したティシアは、部屋から出ようとする。
その前に、ノアが立ちはだかった。
「どこ行くですか?」
「やることもないし、ギルドで依頼を受けようかなって。」
「……えっ。」
ノアの表情が固まる。
「でもティシアは武器がないです。討伐系の依頼は……」
「確か掃除とか手伝いの依頼があったよね。それを受ける予定だよ。」
「じゃあ、私がギルドで依頼を受けてくるです。」
「ノアが?」
「はいです。だからティシアは、ここで待っててください。」
ノアは扉の前から動こうとしない。
「……。」
ティシアはそんなノアを見つめる。
「ノア。」
「もしかして……カーナさんのこと?」
ノアは俯く。
「……はいです。」
ノアは俯いたまま続ける。
「影狼の中から、カーナさんの所持品が見つかったです。それをギルドに報告して……。」
「……。」
「それを知ったロートさんとスロンさんは、今はまだ冷静じゃないです。」
ノアは少しだけティシアを見る。
「だから……できれば、二人が落ち着いてから話をしたいです。」
ティシアは少し黙った。
「……カーナさんを失って、二人はどこに感情をぶつければいいのか分からないんだと思う。」
「……。」
「だから僕は、二人が冷静じゃなくても話したい。」
ティシアは静かに立ち上がる。
「大切な人がいなくなった時の気持ちは……よくわかるから。」
ノアは少し不安そうな顔をする。
「……ティシア。」
「大丈夫だよ。」
「……。」
「怒られても、ちゃんと話をする。」
ノアはしばらく黙った後、小さく頷く。
「ティシアがそう言うなら……止めないです。」
そして、少しだけティシアを見上げる。
「でも、私はティシアは何も悪くないって思ってます。」
ティシアはノアの頭をなでる。
「……ありがとう、ノア。」
ティシアは冒険者ギルドまで行く。深呼吸をした後、扉を開ける。
中にはロートとスロンが俯いて座っていた。
「ロートさん、スロンさん。」
ティシアが声をかけるとロートはゆっくりと席から立ち、俯いたままティシアに近づく。
そして、ロートは拳を握りティシアの顔を殴る。ティシアは床に倒れる。
ロートは馬乗りになり力いっぱいティシアを殴る。ノアはそれを止める。
「やめてください!カーナさんを失って辛いのはわかります。でも……」
ロートは叫ぶ。
「お前らが最初に影狼と遭遇した時に、あいつを殺していれば……!」
ロートの拳が震える。
「カーナは……あいつに化けられることもなかった!」
「……。」
「あの時、お前らは逃げただろうが!」
「ロートさん、それは……」
「分かってる! 危険だったんだろ!」
ロートはティシアを睨む。
「でもな……!」
「もしあの時、お前らがあいつを殺してくれていたら……カーナは今も生きてたんだよ!」
ロートは再び拳を振り上げる。ノアがロートの腕を掴む。
「やめてください! カーナさんを失って辛いのは分かります。でも……」
「分かってるなら邪魔するな!」
「ロートさん……!」
ティシアはゆっくりと身体を起こす。
「ノア、いいよ。」
「でも……!」
「ロートさんの言うことも、分かります。」
ロートが息を荒くする。
「……何?」
「僕たちが最初に影狼を倒せていたら、カーナさんが狙われることもなかった。」
ティシアは立ち上がる。
「ティシア……。」
「だから、殴られてもいいです。」
ロートは拳を振り上げる。だが、スロンがロートの肩を掴む。
「……ロート。もういい。」
「それ以上殴っても、カーナは戻ってこない。」
ロートは拳を握っている。
「………。」
スロンは二人を見る。
「……ごめん。二人とも、大変な目に遭ったばかりなのに。」
スロンは一度、目を伏せる。
「カーナは俺たちの幼馴染なんだ。」
「これからもずっと一緒にいるんだって……そう思ってた。」
「なのに、いきなりいなくなったから……まだ、頭の中が整理できてないんだ。」
スロンはそう言うと、ロートの肩に手を置いた。
「行こう、ロート。」
「……ああ。」
ロートは最後まで俯いたまま、スロンとともにギルドを出ていった。
ティシアとノアは、二人の背中を静かに見送る。
「……。」
ノアが心配そうにティシアを見る。
その時、受付嬢が二人に近づいてきた。
「……話を変えてしまって申し訳ありません。ティシアさん、体の調子はいかがでしょうか。」
「はい。まだ本調子ではありませんが……」
ティシアは自分の身体を確認する。
「問題なく動けます。」
「それならよかったです。ただ、影狼に丸ごと飲み込まれたと聞いていますので、くれぐれも無理はしないでくださいね。」
「……はい。」
「本題に入るのですが、冒険者ギルドではお二人のランクをFランクからDランクへ上げる予定です。」
「Dランクになったら、何が変わるんですか?」
「主に、冒険者証を身分証明として使えるようになります。このギルドは大陸中に支部がありますので、よほど辺境の地でない限り、身分証としての効力があります。」
「なるほど……。」
ティシアは少し考える。
(これなら、アルカディアにも問題なく入れたのかも。)
「影狼を討伐されたので、本来ならもっとランクを上げてもいいのですが……冒険者ランクは一度に二段階までしか上げられない規則になっています。」
「そうなんですか。」
「はい。その代わり、何かギルドにしてほしいことがあれば、できる限り対応いたします。ギルドマスターからの指示です。」
「手紙を送ったりってできますか?」
「はい。可能です。」
「では、僕は手紙をお願いします。」
ノアはかなり悩んだ後、口を開く。
「私はまた後でいいですか? 今は何も思いつかないです。」
「了解しました。ティシアさんは、用意ができ次第、手紙を持ってきてください。」
「分かりました。」
その後、ティシアとノアはいくつか依頼を受け、ギルドを出た。




