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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第三章『大きな狼』
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40.私、ティシアのこと好きになったの。

ティシアが聞き返す。

「見てほしい場所?」


「ええ。せっかく仲良くなったから、私のお気に入りの景色を見せたいの。」


「そういうことですか。それならノアも呼んできますね。」


ティシアがノアがいる部屋へ行こうとすると、カーナがその手を掴んだ。

「二人きりじゃ……だめかしら?」


「……。」


ティシアは少しだけ考える。

「大丈夫ですよ。近くなんですよね?」


「ええ、すぐそこよ。」


「それなら、行きましょう。」


カーナは嬉しそうに笑った。

「ふふ、ありがとう。」


ティシアはカーナに手を引かれながら、宿を出ていった。

二人は他愛のない雑談をしながら、街の中を歩いていく。


しばらくすると、街の明かりが遠くなっていった。

やがて二人は、街から離れた平原へ出る。


所々に木々が生えており、夜風が草を静かに揺らしている。


ティシアは周囲を見渡した。

「ここですか?」


「ええ。」


カーナは足を止める。

「少し待って。」


そう言って、カーナは平原の先を指差した。


ティシアがそちらを見る。


そこには――街の明かりが、遠くに小さく広がっていた。

「……綺麗ですね。」


「でしょう?」


カーナは嬉しそうに笑った。

「私、ここが好きなの。街にいると人が多くて疲れるけど、ここなら静かだから。」


ティシアも街を眺める。

「確かに、落ち着きますね。」


「でしょ?」


二人の間に、静かな時間が流れた。


カーナがゆっくりとティシアに近づく。

そして、そのままティシアに抱き着いた。


ティシアの持つ明かりが、カーナの顔を照らす。

「私、ティシアのこと好きになったの。」


カーナはティシアを見上げる。

「私たち、付き合わない?」


「……。」


ティシアは黙ったまま、カーナを見つめる。

「もしかして……嫌だった?」


「いいえ。」


ティシアは微笑む。

「嬉しいですよ。」


カーナも嬉しそうに笑った。

「本当?」


「ええ。」


ティシアの手が、ゆっくりと腰へ伸びる。


剣の柄を握る。


「ただ――」


カーナの表情が止まる。


「あなたが、本物のカーナさんならね。」


次の刹那。


ザシュッ――!


ティシアは剣を振り抜いた。


カーナの身体が、腹から胸にかけて大きく裂ける。


傷口からは血ではなく、黒くどろりとしたものが流れ落ちた。


「ドウシテ……わかったノカシラ。」

カーナだったものが、ゆっくりと身体を溶かしていく。


「コノ言葉も、行動も、全部真似タノニ……。」

やがてカーナの姿は完全に崩れ、黒い液体となって地面に広がった。


ティシアは剣を構えたまま、それを見下ろす。

「あなたが僕に触れたとき、サーナトスの力を感じた。」


「それに……」


ティシアは明かりを少し持ち上げる。

「人に化けるなら、自分のことを知っておくといい。」


黒い液体が、ぴくりと動く。


「……?」


ティシアは淡々と告げた。


「あなたには、影がない。」


「ソウカ。」


ティシアの背後から声が聞こえた。


「……!」


ティシアが振り向く。


しかし、そこには誰もいない。


突然、周囲から、いくつもの声が響き始める。

「助けてぇぇぇぇ!」


「死にたくない!」


「痛い、痛い、痛い!」



「……。」

ティシアは剣を構えたまま、辺りを見渡す。


その中に、聞き覚えのある声が混じっていた。


――遺跡で聞いた、あの声。


ティシアの表情が険しくなる。

「遺跡で聞こえた、あの叫び声……。」


「お前が出していたのか。」


「ソウダ。」


「……やっぱり。」


ティシアは剣を握り直す。

「カーナさんと入れ替わったのはいつだ。遺跡の時か。」


「ソウダ。アノ女ハ……遺跡デ、スデニ喰ッタ。」


「あの時、カーナさんは一度も僕たちから離れていない。」


「なのに……今は僕を一人で連れ出した。」


ティシアは影を睨む。


「最初から、僕を狙ってたんだな。」

ティシアは剣を握り直す。


「お前は……僕の何を狙っているんだ!」

声が、ぴたりと止んだ。


静寂が平原を包む。


「それは────」


ティシアの背後。


右から。


左から。


そして、頭上から。


「「「オマエの力だ。」」」


影が集まって徐々に狼の形へ変わっていく。


(ノアを巻き込みたくなかったから一人で来たけど、判断ミスか?)


ティシアに襲い掛かろうとした、その瞬間――


ノアの声が聞こえた。

「フレイム・サークル!」


ゴォォォッ!


炎が二人と影狼を取り囲む。


「これでもう、逃がさないです。」


「ノア! なんでここに来たの!?」

ティシアが振り返る。


「部屋でティシアとカーナさんの声が聞こえたので、気になってついてきたです。」


「……危ないじゃないか。」

ティシアは険しい顔をする。


ノアは少しだけ頬を膨らませた。

「それはティシアも同じです。」


「……。」

ティシアが言葉に詰まる。


「一人で行けば、私が危なくならないと思ったですか?」


「……うん。」


「でも、ティシアが危なくなるのも嫌です。」


ノアは杖を握り直す。

「だから、一緒に戦うです。」


影狼の身体から、黒い触手が次々と伸びていく。


一本、二本――。


気づけば、数十本もの触手が地面を這っていた。

「……!」


ノアは神翼の羽を掲げる。

「これなら……!」


神翼の羽から、眩い光が放たれる。


「グルルルル……!」


光に照らされた影狼の身体が大きく揺らぐ。


数十本あった触手が、次々と霧のように消えていく。


残ったのは――四本。


「光で触手が消えていくです!」


ティシアは影狼を睨む。


「十分だ。」


剣を構える。


「ノアはそのままあいつを照らし続けて。」


「はいです!」


「僕があいつを斬る。」


「分かったです!」


ノアが杖を握りしめ、光を強める。


影狼が唸り声を上げた。

「グルァァァァッ!」


影狼の身体から伸びた触手が、ティシアへ一斉に襲い掛かる。


ティシアは慌てることなく、影狼を見据えながら一歩ずつ距離を詰めていく。


一本目。


ティシアは身体を横へ滑らせ、触手を躱す。


「――そこ。」


すれ違いざまに剣を振る。


ザシュッ!


触手が地面へ落ちる。


直後、二本の触手が左右から同時に襲い掛かってきた。


ティシアは横へ飛び、その攻撃を躱す。


「……残り一本。」


着地した瞬間だった。


――ヒュンッ!


風を切る音が響く。


「……!」


最後の一本が、今までとは比べ物にならない速度でティシアの胸へ迫っていた。


ティシアは咄嗟に剣を振り下ろす。


ザンッ!


触手が、縦に真っ二つに裂けた。


黒い液体が地面へ飛び散る。


ティシアは剣を構え直す。

「……今のは速かったな。」


影狼が低く唸る。

「グルル……。」


ティシアは影狼との距離をさらに詰める。


「でも――」


剣を握る手に力を込める。

「これで終わりだ。」


ティシアは剣を振り下ろした。


しかし――


影狼の姿が、ぐにゃりと歪む。


次の瞬間、その身体は一気に小さくなった。


「……!」


影狼はそのまま、ティシアの足元にある影へと潜り込む。


「どこに――」


ヒュンッ!


一本の触手が影の中から飛び出した。


「ぐっ……!」


触手がティシアの足を貫く。

しかし、攻撃はそれだけでは終わらなかった。


触手はティシアの身体を突き抜け、そのままノアへ向かって伸びていく。


「ノア!」


あまりにも速い。


ノアには反応する時間がなかった。


「キャッ!」


触手が杖を弾き飛ばす。


カランッ――。


神翼の羽が宙へ舞った。


「……!」


神翼の羽が地面へ落ちる。


その瞬間――


影狼を照らしていた光が消えた。


「グルァァァァァッ!!」


影狼の身体が一気に膨れ上がる。


数メートル――いや、五メートルを超える巨大な狼へと変貌した。


「なっ……!」


巨大な口がティシアへ迫る。


「ティシア!」


次の瞬間――


ティシアの身体は、巨大な口の中へと飲み込まれた。


(また飲み込んだ。もう一度、腹を破って――)


そう考えた瞬間だった。


ティシアの周囲に、黒い刃がいくつも浮かび上がる。


「……っ!」


刃が高速で回転を始める。


――ギュルルルルッ!


まるで巨大な刃物の塊に閉じ込められたようだった。


ティシアの身体が、次々と切り刻まれていく。


(まずい……!)


再生するそばから傷つけられ、身体を思うように動かすことすらできない。


(こいつ……前とは違う!)

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